勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

ユリさんと手を繋いで宿へ~

「ど、どうしたの?」

 慌てて冒険者ギルドを飛び出して来たユリにそういう。
 先ほどまで、此処が冒険者ギルドの前だったと言う事を忘れていたのは内緒だ。
 彼女はまるで運動でもした後かの様に酷い汗をかいている。
 ギルドの中で何か問題でも起きたのだろうか。

「大丈夫ですか!?」

「んへ?大丈夫だけど、な、何が?」

 まさか先ほどの情けない泣き声が全て聞こえていたのではないだろうかと
 ドキっとしてしまい思わず変な声を出してしまった。

「本当に大丈夫なんですね?」

 一体何が起こっているのか、事情を説明されることは無く
 ユリは俺の身体をぺたぺたと触り怪我などが無いか確認をしてくる。
 やっぱり俺が泣いていたのが全部聞こえていたのか……

「良かった……」

 何処も怪我をしていないと言う事を確認し、安心したのだろうか。
 彼女は一気に力が抜けた様でその場にふにゃ~と座り込んだ。

「私、本当に焦りましたよ。ソラ君が死んでしまうのではないかって。
 何事も無かったようで本当に良かったです――ってなんですかこれ!?」

 ようやく俺の後ろに広がる異様な商店街を目にした様で物凄く驚いていた。
 死んでいる訳では無いが大勢が気を失っていると言う光景。
 寧ろ今までそれに気が付いていなかったユリさん中々ドジっこなのかもしれない。

「ソラ君は此処から動かないでくださいね。直ぐに戻ってきますから」

「は、はい」

 そう言って受付嬢は冒険者ギルドの中へ戻っていった。
 何故動いてはいけないのか、そんな疑問を抱きながら待つこと数分。

「良い子にしてましたね。今、城の方に連絡をしたので、直ぐに助けが来ます。
 ソラ君は見た所何ともないようですが、一応治癒を受けますか?」

 どうやら助けを呼んでいたらしい。ユリさんの心配は有り難いのだが、
 流石にそろそろ帰らないとポチに何をされるか分からないので此処は断っておく。

「ん~ポチが待ってると思うから早く帰りたいかな」

「そうですか、まだ危険かもしれないので一応私が同伴します。
 これでも元冒険者なので腕には自信があるんですよ!」

「そうなんだ!頼もしいね!」

 元冒険者で現受付嬢。知識もあり技術もある。
 やはりこの受付嬢には逆らわない方が良さそうだ。
 危険との事で手を繋がれ宿へと向かう。商店街は気を失った人々で溢れかえっており、
 足場が非常に狭い為、そこは避けて少し遠回りな道を進んでいく。

 ユリさんが完全に地図を頭に入れているため、宿の名前を言うだけで場所が分かる様で、
 遠回りの道もしっかりと案内してくれている。流石だ。
 途中でさりげなく何が起こっているのか聞いてみると、どうやら原因はエリルスの様だった。
 彼女の尋常ではない魔力や存在感によって圧迫され次々と気を失って行ったそうだ。

「でもソラ君はどうして無事なのでしょうね」

「ん~わかんない。たまたまじゃないかな。誰とも会わなかったし」

 流石に大魔王と会って熱い抱擁を交わしてましたなんて
 心臓を抉られても言えないので此処は隠しておく。

「何らかの耐性スキルでもあるのかもしれませんね。冒険者たちがやられていたのにも関わらず
 ソラ君が何ともないのは少しおかしな話なので。それか、相手がソラ君の知り合いで、
 意図的に君だけを除外したのかも知れませんね」

 流石は元冒険者と言った所か。なかなかに良い勘をしている。
 だが、正解ではない。確かに知り合いだがエリルスは俺だけに魔力を抑えたりはしていなかった。
 寧ろ、近付くにつれて魔力放出度が高くなっていった。
 耐性スキルは無いが、エリルスの魔力に耐える力は持っている。
 流石に俺の力については分からないだろうな。

「そうなのかな~でもそんな知り合い居ないから、耐性スキルでも持ってるのかも!」

「ふふ、そうだと良いですね。今度調べてみましょうか」

「うん!」

 と口では言っているが、そんな事してしまえば俺の能力値があらわになり、
 また正座をさせられみっちりと話し合いをする必要が生まれて来そうなので絶対に調べない。
 調べさせない。何かと用事を付けて断ってやる。
 そんなこんなで無事に何事もなくポチが待つ宿に着くことが出来た。

「ありがとね!」

「いえいえ、ソラ君が無事でよかったです。では、冒険者ギルドでまたお会いしましょう」

「うん!ばいばい~」

 ユリに別れを告げてルンルンと部屋に向かって歩き出し
 気分が良い為元気よく扉を開けて部屋に入る――

「おお、やっと帰ってきたか、随分と……遅かったな」

「ん?ただいま」

 何やらポチが不機嫌になった気がするが、まぁ、問題ないだろう。
 取り敢えず魔石が入った袋を置いてベットの上で横になる。

「ポチ、夕飯はどうする?」

「いらん」

「あら、そう……なら俺もいいや」

 何時もならもう少し優しい言葉で返してくれるのだが、
 何故だが今日は何時もより冷たい感じだ。流石に遅すぎたのだろうか。後で謝らないとな。

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