勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

大魔王エリルスの抱擁

 異様な光景の中その女性の髪は輝いているかのような明るい銀髪、
 手入れがされており枝毛一本も無い長髪はこの数年間で
 バッサリと切り落としショートヘアになっている。
 そして見たものを魅了してしまいそうな紫眼をしている。

 最後のあった時と髪型は違うがそれ以外は俺が知っている彼女だ。
 あの禍々しい存在感、あの大魔王には似合わない美しい容姿。
 間違えるはずが無い。今の俺が生きているのは彼女のお蔭なのだから。

「……」

 口を開けるも肝心な声が出てこない。
 今すぐにでも声を掛けたいのだが、物凄く不安な事がある為それが出来ずにいた。
 此方は彼女の事を分かっているのだが、彼方は此方の事を分かるのだろうか。
 姿が全く異なっている俺の事を分かってくれているのだろうか。
 もし、声を掛けて首を傾げられたら――そんな不安が伸し掛かってくる。

 銀髪の女性は足を止め此方の様子を伺っている様だ。
 此処で声を掛けなければ何も進まない。
 そんな事分かっている、分かっているのだが――怖い。
 最悪、知らないと言われても良い、説明して理解してくれるのならばだ。
 説明しても信じてもらえない――そうなってしまえば恐らく立ち直る事が出来ないだろう。

 此処までの努力が全て無駄になる――そんな恐怖が襲い掛かる。
 目線は向けたままで動けないでいる俺とは裏腹に彼女はの口角は少し釣り上がっており
 此方に向かって歩き出した。
 それでも尚何もできずに只々棒立ちしている。

 彼女の動きを見て、やはりこの姿では分かってもらえてないのだろうと悟る。
 こうなったらもう選択肢は一つしか無い。
 ――もし、駄目だったら一生ポチと引き籠ろう。

「……え、エリル――っ!」

 覚悟を決めて思い切って声を掛けたのだが、それは既に遅かった様だ。
 俺の身体は彼女、大魔王エリルスに包みこまれた。
 一瞬で視界が真っ暗になった俺は状況が理解できずに混乱していた。

「おかえり、ソラ……」

 だが、彼女のその一言で全てが解決した。
 その瞬間、今までの記憶が全てフラッシュバックし、息苦しくなった。
 辛かった、寂しかった、悲しかった……身体に精神が引っ張られているのも原因の一つだろうが、
 思わず涙が溢れ出す。エキサラのお蔭で今までそこまで感じてこなかった疲労感などが
 此処に来てどっと襲い掛かってくる。

 だが、エリルスの抱擁がそれらを全て打ち消してくれる。

「頑張った、頑張ったんだよ……」

「うん、頑張ったね。偉いよ。必ず帰ってくるって我は信じてた」

「不安だった、怖かった、俺の事分からないんじゃないかって……」

「我がソラの事を分からない訳ないよ。もう大丈夫、不安にさせてごめんね」

 よしよしと頭を撫で全てを肯定してくれるエリルスに思わず
 今まで我慢してきた感情が爆発する。
 エリルスの服に涙が染み込むが今はそんな事を気にしている余裕はない。
 誰にも見せた事の無いような本当に子どもの様に泣く。

 泣き止むまで子どもをあやすようにずっと面倒を見てくれた。

「ありがとう、エリルス。大分落ち着いた」

「そう、でもまだ我は満足してないよ。暫くはなさないから」

 エリルスもかなり思う事があるらしくかなりの時間抱き合っていた。
 もし、彼女が周りの人間を眠らせていなかったらこんなことは出来なかっただろう。
 最初からこういった事を想定していたのだ。
 疑っていた自分自身を殴ってやりたい気分だ。

「うん~満足した~!」

 染み込んだ涙が乾くほどのかなり長い時間抱き合った。
 抱擁を止めると懐かしい彼女らしい口調に戻った。

「ごめんね~色々と話したいところだけど~今日は邪魔者が多いからまた今度にしよ~」

 色々と話したい事だらけだったが、何やら邪魔者がいるらしい。
 一体だれの事を指しているのだろうか。

「そっか……じゃあ次は魔王城で会おう」

「うん~そうだね~楽しみに待ってるよ~」

「絶対に行くからな――あとこれ上げる」

 先ほどの抱擁で我慢していたものを全て出し切ったので今の俺は清々しい程快い感じだ。
 別れもそこまで悲しくは無い。また会えることが確定しているのだから。
 俺はポケットからいくつか飴玉を取り出してエリルスに渡す。

「うわ~!飴なんて久しぶりだな~ありがとね~!」

「うん、じゃあ近いうちにまた」

「うん~ばいばい~」

 別れの挨拶を交わして彼女は天高く飛び立っていった。

「俺の為に来てくれたんだ……ありがとう」

 てっきりほかの目的があるのかと思っていたのだが、
 彼女の去り際を見る限り目的は俺だったようだ。

「さて、帰ろ――ん?」

 ポチが待つ宿屋に向かおうと足を進めると何かを踏みつけた様だ。
 足を避けてみてみるとそこには骨が転がっていた。

「骨……どこから見ても骨だな――んんん!?」

 骨を持ち上げて観察していると驚くことに見えない何かに骨をがっしりと掴まれて
 取り上げられてしまった。慌てて骨の行く先を見たのだがまるで
 空間に取り込まれるかのようにして消えて行った。

「こんなこともあるんだな~」

 そんな呑気な感想を述べて次こそ宿屋に向かって歩き出した――

「ソラ君!!」

 だが、次は物凄く表情で冒険者ギルドを飛び出して来たユリさんが現れた!

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コメント

  • NULL

    骨って、そういう事ね

    2
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