勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

お説教から解放

 散々説教された挙句、現在は痺れ切った足をいじめられている。
 お説教中に一度も反抗的な態度や口答えをしなかった為か少し物足りなさそうな表情の彼女だったが、
 今は痺れを通り越して敏感となっており、触るなと声を大にして叫ぶが
 そんな事を聞いてくれるはずもなく、楽しそうに俺の事をいじめてくるのであった。

「ふふふ、可愛い反応するのですね」

「いや、本当に待って駄目だって――あぁあああ!」

「ふふふふ」

 それから足の状態が回復するまで散々な目にあわされ、
 受付嬢の事を二度と怒らしてはならないと胸に刻むのであった。

「ひどい……代わりにこれ貰ってく」

 やっと解放された俺は長机に置いてあったバスケットに入った
 飴玉の様な物を幾つか鷲掴みにしてポケットに突っ込んだ。

「ふふ、飴ならいくらでも持って行って良いですよ。子供ですね」

 うるさい!子ども子ども言うな!と言ってやりたいところだが、
 そんな事を行ってしまえば再びお説教されそうで恐ろしいのでグッと抑える。
 初めて仲間以外の人間を本気で恐ろしいと感じたかも知れない。
 この受付嬢は悪い意味でずっと記憶に残っていくのであろう。

 そういえばこんなに話しているのにこの人の名前知らないな。
 敢えて言わないのかも知れないけど一応聞いておこう。
 受付嬢さんと言うのも悪くはないが長いし、若干言いにくいのだ。

「……受付嬢さん」

「なんですか?飴ならまだありますよ。それともジュースが欲しいのですか?」

 ……とことん俺の事を子ども扱いしやがって……地味に癖になりそうだからやめてくれ
 子どもだからと甘やかされ色々と良い思いをする一方で俺のプライドがズタズタになっていく。

「違うよ、受付嬢さんの名前知らないなって思って」

「ああ、そういえば名乗ってませんでしたね。私の名前はユリと申します。
 よろしくお願いしますねソラ君」

「よろしく!」

 無事相手の名前を知る事が出来た。これで受付嬢さんと言わなくて済む。
 ユリさんユリさん……うん、いい名前だ。

「所でソラ君」

「なんです?」

 突然改まって来たユリさん、一体どうしたのだろうか。
 まさか、女性に名前を聞くなんて失礼ですとか理不尽な理由を付けられて怒られるのではないか
 とそんな恐ろしい事が脳裏によぎった。

「物凄く失礼な事を言いますが、よろしいでしょうか」

「別に良いですよ?」

 どうやら失礼な事を言うのはユリさんの方だった。
 何を言うつもりなのだろうか、失礼な事……俺の身長が低いとでも言うつもりか?
 それだけは許さないぞ!俺は成長して180cmになる男なんだよ

「ソラ君とポチさんって本当の姉弟ではありませんよね?」

 まさかの姉弟関係の事だった。
 そっちを指摘してくるか、これは予想外だ。

「え……そうだけど、何で分かったの?」

「正直に言ってポチさんとソラ君、全然似てないですもの。
 それにソラ君のその首輪を見たらだれでも分かると思いますよ。
 良いご主人様に買われて良かったですね」

「ん~お姉ちゃんはご主人様じゃないよ。でも確かに良いご主人様に買われた」

 やはり姉弟設定と言うのは無理があったのか。
 そう思いつつ俺は自分の首元を触り首輪を確認する。
 今なら取ろうと思えばいつでもとれる首輪だが、そうしないのには理由がある。
 これはエキサラとの出会いの証の様なものだ。何があっても外すことは無い。

「そうなんですか、ご主人様は他に……」

「うん、何時か連れてくるよ!」

「ふふ、では楽しみにして待ってます」

 何時か、本当に何時になるのかは分からないが、そのうち連れて来よう。
 まぁ、覚えていたらだけど……多分忘れられないだろうなぁこの人の事……

「今日は十分にお説教をしました。本当はポチさんにもお説教をする予定だったのですが、
 ソラ君だけで満足したので今回は見逃してあげます。さぁ、暗くならない内に帰りなさい」

「は、はい、わかりました~」

 本当に急に変わる人だ。
 帰り際に更に飴玉をポケットに詰め込んで部屋を出る。
 カウンターの奥から出てきた為、冒険者たちの目線が刺さってくる。
 他の受付嬢さん達が何故が此方に向かって頭を下げてきた。
 お説教を受けていた事を知っていたのだろうか。

「では、ソラ君お気を付けて」

「はい、さようなら!」

 別れを告げて元気よく冒険者ギルドから飛び出した――が、
 その先には目を疑うような光景が広がっていた。
 何時も人でにぎわっている商店街がガラリとしている――いや、人はいるのだが、
 全員眠るようにして倒れている。一瞬死んでいるのではないかと思ったが、
 よくよく見ると呼吸はしっかりとされている様で動いていた。

 一体何があったのだろうか――っ!?
 そう思っていると商店街の奥から懐かしい魔力を放つ規格外の化け物がこちらに歩み寄ってきていた。

「おいおい、嘘だろ……」

 思わずそんな声を漏らしてしまう。

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