勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

帰宅と異変

「ポチ?大丈夫?」

 未だに怒りが収まっていない様でグルグルと唸っているポチに声を掛ける。
 ケルベロスに怒りをぶつけるだけでは物足りなく、此方に八つ当たりしてくるのではないかと
 身の危険を感じビクビクと岩陰に隠れながらだ。

『……』

 どうやら服を失った事が相当ショックなようで口すらきいてくれない。
 どうすれば機嫌を取り戻してくれるかと頭を悩ます。
 食事や睡眠……色々と考えはしたのだが、今のポチがそれらをやってくれるわけがない。

「なぁポチさんやい、明日にでも服買いに行こうか」

 数分悩んで出てきたのがこれだった。
 ポチのお気に入りの服はもう手には入らないが、代わりになるものならば
 この世界でも手に入れることが出来る。
 また新しいお気に入りを見つければ良いのだ。

『本当か?』

 これは正解だったようだ。ポチは唸るのをやめて喰いついてきた。
 取り敢えず解決しそうなので一安心だ。

「ん、ああ、本当だ。その代り明日は依頼は受けないぞ」

 どうせならじっくりと選んで欲しいのでその後の予定は作らない様にしておく。
 今度は一着だけではなく加護が付いているから~とか関係なしに日によって服を変えれる様に
 せめて三着ぐらいは買っておこう。

『そうか、ならば許そう』

 死んでも尚許されてはなかったケルベロスさん。俺に感謝してほしいぞ。
 ポチの機嫌が直ったので気を取り直してケルベロスの魔石を回収していく。
 肉とかも剥ぎ取れば高く売れるらしいのだが、魔石だけで十分だ。

「取り敢えず、リーン王国付近まではそのままでいてね」

『ああ、分かっている』

 もし誰かに獣の姿を見られたとしても、わー魔物だ!ってなるだけだが、
 もし全裸の女性の姿を見られてしまうと、わー痴女だ!ってなる。
 どちらの方が良いか言わなくても分かるだろう。

「付近に着いたら身体を隠せるものを作ってやる」

『なら、今でも良くないか?』

「いーや、駄目だ!任務完了したのだから俺にはモフモフする権利がある」

『……そうか、まぁ、我も癒されたい気分だからな問題ない』

 そう、ケルベロス討伐という目的を達成したのだが、
 待ちに待ったポチをモフる事が出来るのだ。
 ポチも撫でられるのは嬉しい為先ほどの怒りを紛らわそうとしている様だ。

「さぁ、出発!今日中についても構わないぞ!」

 ポチの上に乗って帰り道を指さしてみる。
 今回は行きとは違い、待ったりはせずに出来るだけ早く帰る事にする。

『ああ、行くぞ!』

 ポチにしっかりと掴まって全身でモフモフを堪能する。
 最近モフモフしてなかった為、いつも以上に気持ちよく感じてしまい
 思わずうっとりとしてしまう。
 本当にそのうちポチの毛で抱き枕を作ってしまいたい。

 ポチの全速力は予想以上に物凄く早く、気が付けばもう砂漠を抜け森も抜けようとしていた。

「あっ……」

『どうした?』

「な、なんでもないよ」

 一瞬目の前に巨大な魔物が現れたのだが、
 暴走列車ポチ号によって存在を抹消されていた。
 魔物からしてみればとんでもない迷惑行為だが、ポチにはそんこと関係ないのだ。
 魔物さん、死にたくなかったら目の前に出てこないでね。

 そうこうしている内にリーン王国付近まで着いた様でポチが足を止めた。
 行きは二日も野宿したのにも関わらず帰りはほんの数十分。
 これがうちのポチの実力だ。

「さて、変身しておくれ」

『うむ』

 大人の女性の身体に変身するポチ。
 相変わらず内部からボコボコとなるのは目に悪いし、
 完全に変身した後も目に悪い。
 目を逸らしつつ簡単にコートをイメージして具現化させる。
 無地で純白の清潔感が溢れ出るコートだ。

「はい、どうぞ」

「うむ」

 一応ポチの身長を見てから作った為、大きさは問題ない。
 ボタンも付いており、前でしっかりと止めることが出来る。

「ぴったりだ。流石だな」

 全身を包み込むコートなのだが、ボタン付近の隙間からチラチラと
 裸体が見えてしまい何時も以上に興奮――違う、目のやり所に困ってしまう。
 この姿を余り人目に晒すわけにはいかないので先に宿を取る事にする。
 門兵にギルドカードを見せてリーン王国内に入り何時もよりも豪華な宿を取る。

 ケルベロスの魔石がある為多少贅沢をしても許されるのだ。

「じゃ、ポチは部屋で待っててね依頼完了させたら帰ってくるから」

「ああ、気を付けるのだぞ」

「うん、分かってる」

 一応子供の姿なので悪い人達に襲われないか気を付けながら商店街を歩く。

「?」

 何時も通り賑わっているのだが、急に皆が動きを止め空を見上げだした。
 何か飛んでいるのだろうか。確認しようにも大人たちが邪魔で見上げても
 背中やらお腹やら下乳やら……全く空が見えないため諦めることにした。
 動きが止まっている今がチャンスだと思い、冒険者ギルドに向かって走りだす。

 止まっている障害物をよけるのは得意なのであっと言う間に人混みを抜けて
 勢いよく冒険者ギルドに入り込んだ。

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