勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

可哀想なケルベロスさん

 翌朝目を覚ますと既にあの三人たちは旅立った様で馬車擬き諸共綺麗さっぱりに消えていた。
 せめて一言声をかけてくれれば良かったのにと思ったが、この方が潔く
 別れ際にはぴったりなのかもしれない。

「おはよ」

「今日こそケルベロスを倒すんだな?」

「ああ、そうだ」

 予想外の出来事が起こってしまったが、今日ケルベロスを倒すのは予定通りだ。
 早速火山へ向けて足を進める。
 幸いな事に昨夜魔物に会う事が無かったのはポチは大人の死体を放り出していてくれたからだろう。
 命が無くなっても尚利用価値を見出す、流石ポチ。

 えっさほいっさと歩き砂漠を抜け、やっと火山地帯に辿り着いた。
 火山が常に噴火しており地面が真っ赤に熱しられ歩くことすら困難な場所だが、
 俺とポチに掛かれば素足で渡っても何の問題もない。
 今回はポチの精霊の力を貸してくれたのですいすいと進む。

 何だか最近ポチが優しすぎて不気味なのだが、別に悪い事ではないので
 気にしないでおこう……後でとんでもない事を要求されそうな予感がするな……

「安心しろ、何もしないさ」

 そう口では言うポチだったが何処か胡散臭く心を呼んでみるのだが、
 早くケルベロスと戦いたいと言う気持ちで一杯だった。
 これは本当に何もされないのではないかと少し安心する。
 そんな事を思いながら歩いているとケルベロスではないが魔物が現れた。

「む?赤いスライムか」

 ポチが言った様に目の前に居るのは真っ赤に染まったスライムだ。
 通常のスライムなら此処に来た瞬間蒸発してしまう為、
 このスライムは普通ではなくこの環境下でも生き残れる様に進化してきたのだと予測できる。
 火山地帯にスライムがいるという記憶は存在しておらず、
 これも最近生まれた新種の魔物なのだろう。

「一応気を付けてね。強いかもしれないから」

「そうか、ならば近付かないで倒した方がよさそうだな」

 ポチなら何ともない気がするが一応だ。
 短剣を取り出してそれをスライム目がけ全力で投げだした。
 風を切り裂きスライムに直撃し案の定スライムは跡形もなく消え去ってしまった。
 これでは強さが全く分からないではないか。

「ポチ、次出てきたら手加減してみて」

「ああ、わかったぞ」

 それから少し歩くと再び赤いスライムが飛び出して来た。
 手加減してと伝えてあった為今度は優しく短剣を投げた――
 ふわっと投げられた短剣はスライムにソフトタッチすると
 体内に飲み込まれながら短剣が蒸発し始めた。

 どうやらあのスライムは見た目通り物凄く熱いらしい。
 倒すにはある程度耐久性のある武器が必要だろう。
 恐らく水をぶっかけても蒸発してしまって無意味なのだろう。

「うん、ポチもう倒していいよ」

「うむ」

 次は短剣ではなく己の足で物凄く熱いスライムを踏み殺してしまった。
 ブチャと言う音などではなくブリュリュと汚い音を立てていた。
 決して一般人が真似できない荒業だ。

「さて、そろそろ目的地だ。ポチ、準備は良いか?」

「ああ」

 目的地は幾つもの岩がボコボコと地面にめり込んでおり非常に足場が悪い。
 そんな中で中央だけがひらけておりそこに眠る犬の頭が三つ、体は獅子、尻尾は蛇。
 討伐対象のケルベロスさんがいた。
 相変わらず凶暴な顔つきをしており苦い記憶が蘇ってくる。

「ほら、ポチ行って来い」

「どれ程強いのか楽しみだ」

 ケルベロスの頭には【知能】【再生】【恐怖】の能力がある事をポチに悟られない為、
 こっそりと騎乗を切っておき、ポチがどの様に戦うのか岩陰からこっそりと観察する。
 ポチの気配遮断は物凄く目の前にいるのにケルベロスが気が付く様子がない。
 ポチよりも何倍も大きい首に掌を触れるか触れないかの擦れ擦れの距離まで近づけ、
 口角を釣り上げて魔法を発動させる。

 まるで風が刃物と化したかのようにポチの掌周辺には風が暴れ狂い
 あっと言う間にケルベロスの一番右の首を微塵切りにしてしまった。

――ガアアアアアッ!

 痛みに目を覚ましたケルベロスは巨大な爪で薙ぎ払う。
 ひょいと軽く飛び跳ね余裕の表情を見せながら避け再び魔法を発動させる。
 次は巨大な氷柱がケルベロスの身体を貫いた――

「ふっ、大した事ないな」

 ケルベロスが地面に倒れ勝利を確信したポチが此方に向かって来る。
 だが、背後では見る見るうちに再生しているケルベロス――
 俺は岩陰から手を出してポチの背後を必死に指を指してそのことを伝える。

「む?」

――ガアアアアアア!

 復活したケルベロスの薙ぎ払いがポチに当たり
 勢いよく吹き飛ばされ幾つもの岩を砕きながら溶岩の中に落ちて行った。
 一瞬焦ったのだが、冷静に考えればポチがその程度でやられるはずもないのだ――
 案の定、溶岩の中からゆっくりとポチが現れたのだが――その姿は獣になっていた。

『すまんな、驚いて一瞬だけ加護が外れてしまったらしく服が溶けてしまった』

 ポチが脳内にそう語り掛けてきた。
 あれほどお気に入りだった服が溶けてしまい、俺に裸はダメだときつく言われているためか
 獣の姿に戻った様だ。……これはケルベロスさん終わったなぁ

 お気に入りの服を台無しにされたポチは遠目で見ても
 明らかに怒っておりグルルルと唸っていた。
 それに対抗するようにケルベロスも唸り始めたが、
 圧倒的にポチが放っている威圧感の方が勝りケルベロスが可愛く見えてしまう。

 もうこうなってしまったポチを止めれる者はだれも居ない。
 一瞬にして間合いを詰めて瞬きをした次の瞬間には既にケルベロスは木っ端微塵にされていた。
 【知能】【再生】【恐怖】全てが一瞬にして無駄になってしまった。
 可哀想なケルベロスさん……安らかに眠ってください。

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