勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

奴隷の行く先

「「「……」」」

 何の前触れも無くそれは余りにも唐突に起こった為、
 主人を失ったという実感がいまいちわかないのか、只々唖然としている奴隷たち。
 今回の件はポチはしっかりと警告していたのは知っているが、
 流石に全員殺すのはやりすぎだろうと思うのだが、
 まぁ、そこはポチなので仕方がない。

 俺の事を思っての行動だから文句も言えない。

「ん~取り敢えず、今の状況わかるかな?」

 状況が呑み込めずにフリーズしている奴隷に声を掛けてみる。
 反応が無ければ突っ突いてやろうと思ったが、あっさりと一発目で反応してくれて
 我に返った奴隷たちは、ハッとなって此方を見てきた。
 その目は主人を失い悲しみに満ち溢れていたり憎しみが籠っていたり……
 と言う感じではなく平然としており、首を傾げていた。

「分からなさそうだな……」

「わかる……ご主人たちが死んだ」

 てっきり状況が分からないから首を傾げていたと思ったのだが、
 それは違った様でしっかりと状況は理解していた。
 恐らく何故殺したのかと言う疑問を持っているのだろう。

「ああ、その通りだ」

「なんで?」

「ん、過保護なお姉ちゃんが俺の事を悪く言われて耐えきれず殺っちゃったみたい」

 決して間違ってはいない。今はポチは俺のお姉ちゃんと言う設定になっているし、
 あの大人たちが俺の事を奴隷扱いして一度目は耐えたが二度目は耐えきれなかったポチが
 ついつい殺してしまったという事だ。
 しかも失言をした本人だけではなく連帯責任と言う理不尽なおまけ付きで全員だ。

 ……一応さっきから相手が子供と言う事もあって優しい言葉遣いを心掛けているのだが、 
 怖がられてはないだろうか。

『主人を殺されているんだ。怖かったらとっくに泣いたり逃げたりしているさ』

 背後で死体を魔物達に喰わせるために運んでいるポチがそう言ってきた。
 確かに主人を殺された時点で逃げようと思ったら幾らでも逃げれるし
 俺たちのことが怖かったら涙一つぐらい零していても良いのだが、
 それが一切見られない、これは成功していると判断して良いのかも。

「お姉ちゃん??ご主人じゃない?」

「ああ、そっか、言ってなかったね。
 俺の主人は此処には居ないんだよ、あの人はお姉ちゃんって事になるね」

「お姉ちゃんは奴隷じゃないの?」

「ん~簡単に言えばね血のつながってない姉弟って感じだよ
 主人が優しくてねお姉ちゃんの弟にしてくれたんだ」

 凄くその場で思いついた事を適当に述べてみたのだが
 まぁ、子供相手なら別に問題なさそうな感じになっているだろう。

「そうなんだ……良いね」

「で、君たちはこれからどうするつもり?
 もう苦しめる主人は居なくなった訳だけど」

 三人は互いの顔を見合い一切言葉は発していなかったが
 何か特別な方法でコミュニケーションを取ったのか一斉に頷き
 再びこちらを見てきた。

「自由にいきたい」

 三人を代表して女の子の奴隷がそう発した。

「そうか、当然だな。出来る限り協力はするけど、
 此処を出たら君たちの力だけで頑張るんだ」

 ポチがやっちゃう前は協力するつもりなんて微塵もなかったのだが、
 主人を失ったのはこちらの責任なのでそこは出来る範囲でしっかりと協力する。
 まず先に奴隷としての証を取ってやらなければ。
 そう思った俺はポチを呼ぶ

「呼んだか」

 心の中でポチを呼ぶと風の様に一瞬で隣に現れた。
 奴隷たちはその光景を見て目をぱちぱちとさせて驚いていた。

「この子たちの首輪とかを破壊してあげて、後身体を癒してあげてね」

「何故我がそんな事――」

「お願い」

「……仕方ない」

 ポチが不満を口にしようとしたが俺は食い込み気味に
 子供らしさ全開でここ数年で培った愛くるしい顔をしてお願いをすると
 糸も簡単に折れてくれて行動に移してくれるポチ。
 ほんの三分程度で奴隷の証も消えてボロボロだった身体も回復していた。

「終わったぞ」

「ん、ありがとね!
 俺たちが出来るのは此処までだ。
 後はあれで頑張って移動してあの大人たちの荷物でも売って頑張って生きるんだ」

 馬車擬きの中にはいろいろな荷物が詰まっており、
 恐らく金目のものが幾つかあるだろう。
 何処かの国に行って身分証を発行してもらい物を売って頑張って生活する。
 そう簡単には行かないだろうが、この三人ならいけるだろう。
 過酷な奴隷生活を耐え抜いた三人なのだから。

「この砂漠、夜は危険だから朝一にでも出発すると良いよ」

「……」

 余りにも唐突すぎる変化に付いていけていないのか
 三人とも黙り込んでしまったのだが――暫くすると

「「「ありがとうございます」」」

 余り感情を表に出さなかった三人が綺麗になった顔で
 夜世界を照らすような眩しい笑みを浮かべてお礼を言ってきた。
 それだけで十分満足したのだが、

「この礼は何時か必ずするのでお名前を教えてください」

 まだお礼をしてくれるらしい。
 何時か、また会える時がくると良いなと思いつつ名前を教える。

「俺はソラ、でこっちのお姉ちゃんがポチ」

「ソラ様、ポチ様……生憎私たちには名前がありませんので、
 次会う時までには必ず名前を名乗ります」

「ああ、楽しみにしてるよ」

 こうしてまたこの世界での楽しみが増えてしまった。
 何時再開できるかは分からないが、何時かこの三人が幸せに暮らしている姿を見たいものだ。


 さて、寝るとするか。

『ああ、そうだな』

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