勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

連帯責任

 大人たちの会話は適当にポチにしてもらうとして、 
 俺はせっせと働き休憩中の奴隷たちの下へと向かった。
 全員髪の毛が伸びており何の手入れもしていない為ボロボロだ。
 長髪だったため遠くからでは性別の区別がつかなかったが近付くと
 どうやら男2と女1の様だ。

「どうも」

 近付いても全く興味を示さないため、此方から声を掛けてみる事にした。
 声を掛ける事でやっとこちらの存在に気が付いた様で、
 俺の方を向いたときにかなり驚いてビクリと身体を跳び上がらせていた。
 奴隷たちはまず初めに身体全体をじっくりと観察をしてきた。
 足元から頭まで、じっくりと観察し、何かを発見した様で態度が変わった。

 先ほどまではびくびくとして非常に情けない奴隷たちだったが、
 今は此方を恐れている様な仕草は見せなくなっている。
 一体何を見て安心したのだろうか、と一瞬だけ悩みその答えを導き出した。
 自分の首元に手を持っていき首輪を触りながら

 そういえば、俺も奴隷だった。と再認識するのであった。
 奴隷と言っても目の前でボロボロになっている彼らの様な扱いを受けている奴隷では無く、
 しっかり人間として……とは言えないが、一つの命ある者……ともいえないが――
 兎に角、家族の様な存在として扱ってくれた。

 同じ奴隷とみられてしまっては、相手に非常に申し訳なくなるが、
 今は仕方がない。それで警戒心が解けるならば。

「なかま?」

 食べ物は一応十分に与えられているのだろう。
 身体はそこまでがりがりではなく至って普通だ。
 傷だらけと言う事を除けばだが、男の奴隷がそうぼそりと呟いた。
 久しく声を出していなかった為か声が掠れている。 

「一応そうだな、主人を持つ者だ」

「そう……でも幸せそう」

 次は女の奴隷がそう呟いた。
 全員、幼い顔つきで年齢を予測するのは難しいが、
 恐らくまだ10代にはなっていないだろう。

「良いご主人に買われたんだね」

 男の奴隷2もまたぼそりと呟いた。
 三人とも掠れた声なので顔を見ながら会話しなければ誰が何を言ったのか判断できない。 

「ん、そうだな、拘束されたり、呪いかけられたり、思いっきり投げられたり
 腸抉られたりしたけど、今はこうして生きているんだから確かに幸せだ」

 自分で言っておいて中々壮絶な体験をしておいて良く生き残ったものだと思う。
 まぁ、その鬼畜な目に合わせたのも生かしてくれたのもあのご主人様のお蔭なんだけどね。

「それって、幸せなの?」

「ああ、幸せだぞ。生きていればそれだけで幸せなんだ。
 生きていれば何時かは夢だって叶う、現に俺は今日空飛んだんだぜ?」

 一度死んだからこそそう思う。生きているだけで幸せなんだ。

「すごい……空飛んでみたい」

 少女がそう言って夜空に手を伸ばしてみせた。
 何時か叶うと良いな、と心の中でつぶやく。

「ちなみに、君たちの主人はどんな人なんだ?」

「厳しい」

「何か気に入らない事があればすぐに手を出してくる」

「それでもう三人死んじゃった」

 なんとなく気になった為聞いてみたが、かなり厳しい主人らしい。厳しいの度を越している。
 三人の姿からなんとなく予想は出来ていたがもう三人も死んでいるとは……
 あまり良い顔して会話は出来なさそうだ。

「それは辛いな、逃げたいとは思わないのか?」

 このまま行けば何時かこの奴隷たちは殺されてしまう。
 本人たちもそのことは分かっているはずだ。

「無理だよ」「一人逃げようとして散々嬲られて死んだ」「むり……」

 一応逃げたいと言う気持ちはあるらしいのだが、そう簡単には行かないらしい。
 此処は協力して逃がしてあげたい所だが、さっき知り合った人にそこまでする必要性は感じない。
 それにもしここから逃げ出したとしてもこれから先、どうやって生きて行く?
 誰が三人の面倒をみることになる、俺は無理だ。

「きゃあああああ!!」

 俺がそんな事を思っていると急に背後から女性の叫び声が聞こえた。
 耳が痛くなる程甲高い叫び声だ。
 何があったのかと振り返ってみるとそこには――

「我は警告したぞ」

 首から上が無い二人の死体。
 尻もちを付いている女性とそれに迫るポチの姿があった。
 手には先ほども出していた短剣が握られている。

「な、なんの事ですか!?私はそんなの知りま――」

 女性が喋り終わる前にポチの手は素早く動き出し――女性の頭を切り落とした。
 鮮血の雨が降り注ぎ辺りは三人の鮮血の海へと化した。

「知らない奴がわるい」

「……理不尽だ」

 ポチの行動を見てそう呟く俺。
 ポチの心を読んでみると、どうやら男がまた俺の事を奴隷と呼んでしまったらしく
 それに怒ったポチが殺してしまった様だ。連帯責任として三人ともだ。

「はぁ、俺が色々と思ってたのに台無しだよ」

 主人を失った奴隷をどうすれば良いのか……今夜は眠れなさそうだ。

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