勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

砂漠地帯

「なぁ、ポチさんやい」

「なんだ?」

「寝起きだから余り血は見たくないんだけど、どうにかならないかな」

 寝起きの俺はポチにそんな事を言っていた。
 今の状況は――無事何事も無く朝を迎えられたのは良いのだが、
 問題が起こったのは結界を解除しようと近寄った時の事である。
 ポチのお蔭で俺たちの睡眠を妨げる魔物は一体も居なかったのだが、
 近寄ってきていた魔物達は沢山いた様で、結界を囲むようにうじゃうじゃと
 透明な壁に向かって突進したり叫び声を上げたり叩いたりしていた。

 オークやゴブリン、中にはエリルスの記憶には存在しない魔物も何体かいる。
 結界を解除なんて事をしてしまえばたちまち魔物に揉みくちゃにされる事が容易に予想できる。
 それが嫌ならば倒すしかないのだが、寝起きに鮮血の海を見るのは少し厳しい。

「ふむ、仕方がないな。おんぶしてやる」

「ん、どうするの?」

 昨日同様にポチの背中にくっつくと、何だか嫌な予感がした。
 まさかとは思うが、このまま魔物の壁に向かって走り抜けるなどと言う
 暴走列車顔負けの事はやらないだろうと思いつつポチの心を読んでみた。

「え、待って、本気で言ってるのか!?」

「ふっ、行くぞ!!」

 そう言ってポチが向かったのは魔物の壁目がけて――ではなく、天空に向けて飛んだのだ。
 飛ぶと言うよりは只の跳躍だ。垂直に天高くまで跳び上がり、
 結界を突き破り魔物が流れ込んでくるが今はその光景ですらアリの大群の様に見える。
 かなりの高さまで来ると次は精霊の力を使ってゆっくりと地上に降りて行く。
 まるで本当に飛んでいるかのような体感だが、実際はゆっくりとおちているだけだ。

「すごいな!これ!あっちに目的地の火山が見えるぞ!!
 おっ!リーン王国もちゃんと見えているぞ!!」

 すい~と目的地の火山方向に向かいながら落ちていく中、
 色々な経験をしてきたが空を飛ぶ経験は初めてだった為、非常にテンションが上がっている。
 ポチに本当に子どもだなと思われているのだが、今はそんな事は気にしない。
 だって、本当に空に浮いているのだから。

「そんなに空が飛びたかったのか」

「そういう訳では無い!だけど、一度は憧れるだろ?
 手を伸ばしても届きそうで絶対に届かないあの雲。
 それが今はこんなに近くにあるんだ!!最高だ!!」

 子供の時一度は思ったことがあるだろう。空を飛んでみたいと。
 俺ががいた世界では別に空を飛ぶ手段はいくらでもあった。
 だが、求めているのは何も身に着けず生身で空に行くことだったんだ。
 空に行く時も地上に落ちる時も生身で体験してみたかったのだ。

「最高の目覚めだ。今日は忘れられない良い日になりそうだ」

「ふっ、それは良かった」

 まさかこんなことで夢が叶うとは思ってもみなかったが、非常に気分が良い。
 この調子で行けば火山地帯まで一瞬で着きそうだ――そう思っていたのだが、

「……ポチさんやい」

「なんだ」

「これ進んでるの?」

「知らん、我に聞くな」

 砂漠地帯に着いてかれこれ10時間は歩き続けている。
 空から見た感じだと火山までかなり近く感じたのだが、地上からだと物凄い遠いのだ。
 それに周りの景色も変わらない為それがより一層時間の流れをおかしくする。
 先ほどの森程足場が悪くないので俺もポチと一緒に歩いているが嫌になってきた。

 もう身体強化でも使って走り抜けようかと思ってしまうが、
 一度まったり行くと決めているためそれを曲げることは出来ない。
 幸い、暑さなどにはこのポチがくれた完璧の執事服のお蔭で耐えれるのだが、
 この退屈さはどうしようもない。

 魔物が一体でも現れてくれれば少しは違うのだが、
 残念ながらこの砂漠に出現する魔物は夜にしか出てこないらしい。
 エキサラのお蔭で死なない身体になった為無理して歩き続ける。
 朝に体験したあの快適な空の旅はなんだったのか。

 そんな事を思いながら歩き続けて日が沈み始めて段々暗くなってきた頃、
 俺たちの目線の先には人々の姿があった。
 幾つかのテントも設置されており、真ん中にはたき火がある。
 どうやら此処で夜を過ごす旅人の様だ。

「俺たちもあそこで休ましてもらうか?」

「ソラに任せる。何かあったら直ぐに殺すから安心しろ」

「……うん」

 それって安心できないんだけど……と心の中で呟くと、鼻で笑われた。
 退屈しのぎにもなりそうと言う理由で近付いてみる。

「おや?」

 こちらの存在に気が付いた豊かなお腹のおじさんはニッコリと笑みを浮かべてきた。
 とても自然な笑みとは思えない程不気味な笑みだ。

「旅人さんですか?珍しいですねこんな砂漠に」

 ポチさんやい、適当に会話を頼む

「冒険者だ。この先の火山に用があるのだが、今日はここら辺で休むつもりなんだが、
 共に休ましてもらっても構わないか?」

「ええ、問題ないですよ。冒険者ならば魔物が出ても安心ですな」

 ポチがおじさんと会話をしている中、俺は周りを観察していた。
 このおじさんの他には4人の人間がいてどれも戦闘は出来なさそうだ。
 その他には奴隷が三人、どれも首輪などを繋がれたままでボロボロだ。
 服もそうだが、身体も見ているのが痛々しい程ボロボロになっている。

 そうなっても人間に怒鳴られ蹴られ殴られ、強制的に働かされている。

「そちらは貴女の奴隷でしょうか?中々良いモノを――ひっ!」

 俺が周りを観察しているとおじさんがそんな事を言いだした。
 特に何も思わなかったのだが、ポチはこのおじさんが俺の事を奴隷やモノ扱いしたことに
 怒りを覚え、何処に隠していたのか短剣を素早く取り出しおじさんの
 喉元に押し当て、今すぐにでも殺す勢いで殺気をぶつけていた。

「貴様、次そんな事を言ったら殺すぞ。ソラは我のパートナーであり親友だ。
 奴隷やモノ扱いは絶対に許さん」

「そ、そうでしたか、これは大変な失礼を……」

「分かれば良い」

 ひゅ~ポチさんカッコいい!!
 おじさんも災難だな、おそらく俺の首輪を見て奴隷を判断したのだろう。
 ……まぁ、実際エキサラの奴隷なんだけどね。

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