勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

ケルベロスを倒そう。

 大魔王達の下に戻ったリリから話を聞き誰もが信じられないと言う顔をしたが、
 デーグの娘は昔から自分に正直であり嘘など一度も付いたことの無い為、
 大魔王達からの信用度は高く、その情報は疑われることは無く、一度会議を開くことにした。
 エリルスは欠席だが、それでも問題ないと判断され会議は開かれた。

 議題は勿論リーン王国にいる謎の存在の事だ。
 それが真の勇者だとしたら納得がいくのだが、リリの話を聞く限りでは
 真の勇者全員の事を人質として捕らえていたのにも関わらず彼女はやられたのだ。
 前回召喚された勇者の仕業ではと言う声も上がったのだが、
 大魔王達が知る限り魔王を投擲のみで倒せる程の実力者は居ない。

 今回に限って何時も世界中を観察しているオヌブは何故か観察を中止してずっと寝ていたと言う。
 毎日世界を観察している彼女は眠る事は滅多になく
 エリルスを除く大魔王達は彼女が眠った姿を見た事が無い。
 そんな彼女が今回会議が開かれるまで円卓の上で寝ていた姿を見た時は全員が目を見開く程驚いた。

 オヌブは議題を聞いた瞬間にソラ達の事だと即座に分かったのだが、
 観察していなかった為確信を持てなく心の奥にしまっておくことにした。
 唯一の手掛かりも失い大魔王達は皆頭を頭を悩ます。
 そして悩み悩んだ末出てきたのが――

「全員で正体を突き止めに行くぞ」

 大魔王達からしてみれば散歩程度の感覚だがリーン王国からして見れば非常に迷惑な話だ。
 彼らはの目的は観察であって被害を与えるつもりはないのだが、
 そんな事知る由もない王国側からしてみれば気が気ではない。
 そもそも大魔王と言う存在はまだ明るみには出ていない為、
 大魔王が来たぞ!となる事は無いだろうが、
 それでも圧倒的なまでの力は隠しても隠し切れないため、
 正体が分からなくても禍々しい力を感じれば大騒ぎになるだろう。

 そんな大変な事が起きるとは知る由もないソラとポチは今日も今日とて冒険者ギルドへ向かう。

・・・・

「そういえば今日お説教されるんだっけ?」

「ああ、そう言っていたな。我も共に受けてやるから安心しろ」

 今日は受付嬢からお説教を受けるのだ。
 怒らないと言っていた為、軽い注意程度で済むのだろうと軽い気持ちでギルドへ向かう。
 商店街の活気はいつも以上に増している。恐らく魔王に勝った為皆気分が上昇しているのだろう。
 冒険者ギルドに入ると何時も程では無いが昨日よりかは確実ににぎわっていた。
 まだ治療中の冒険者たちもいるのだろう。

 中に入り酒場にいる冒険者を眺め、横目でちらりとカウンターにいる受付嬢を見てみると
 営業スマイルとは言えない程ニッコリと不気味な笑みを浮かべて糸目でこちらをみていた。

「はい、こんにちは」

「こんにちは……」

 取り敢えずカウンターに近寄ってみると挨拶されたのでマナーとして返しておく。

「……」

 これからお説教が始まるのだろう。そう思っていたのだが、
 一向にお説教が始まらない。それどころか言葉すら発してくれない。
 カウンターの前で受付嬢と見つめ合っている状態なので非常に気まずい。
 俺はポチに騎乗を使い魔力を繋げた。

 これどうしたら良いと思う?

『説教する気が無いんじゃないか?』

 ポチの言う通り確かにお説教する気が無いのかもしれない。
 ならばいつも通りに依頼を受けてさっさとおさらばしようじゃないか。
 そう思い掲示板の前に行き今日の依頼を選ぶ。
 昨日は余りポチの要望に応える事が出来なかったので、今回こそ応えてやりたい。

「アレが良いと思う!」

 選んだのはケルベロス討伐。

「ほう、楽しそうだな」

 一瞬ランク制限とかあった様ななかった様な気がするが、
 まぁ、もし駄目だと言われたら依頼は受けずにこっそりと倒しにいけば良い。
 魔石さえ取れればお金にかえることが出来る。

「これを受けたいのだが」

 ポチが堂々とケルベロス討伐の紙を受付嬢に渡し、内容を見て
 一瞬だけピクリと表情が動いた気がする。

「ポチさん、ソラさん?私を揶揄っているのですか?」

「む?そんなことは無いぞ」

「そうですか、私が昨日お説教をすると言ったからですか、そうですか……」

 何やら勝手に深読みをし過ぎて勘違いしている様だ。
 説教をすることは忘れてはいなかったらしい。

「別に良いですよ。ほら、行ってきなさい。
 帰ってきたら今回の件と共にお説教するので早く帰ってきてくださいね」

 いつの間にかに受付嬢の表情はいつも通りに戻っていて
 物凄く適当に依頼が受理されてしまった。
 この受付嬢、俺たちが揶揄うためにこの依頼を持ってきたと思っているらしい。
 昨日はあれだけ外に行くことを心配してくれていたのに
 ケルベロス討伐の際は全く心配してくれない……絶対に信じてないな。

 こうして俺たちの依頼は無事受理されて
 ケルベロスの居る場所へと向かうのであった。

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