勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

魔王リリの正体

 正門に集まったのは40名ほどの治癒が使える者達だった。
 冒険者以外にもこれだけ治癒が使えるのはなかなか凄い事だ。
 城からも幾人かの治癒を使える者達が集まり全員で70名程集まり、
 門兵たちと共に動けない冒険者たちの下へ向かう。

「ひっ……」

 目的地に着くと誰かがそう小さな悲鳴を上げた。無理もないだろう。
 目の前に広がるのは幾つもの死体と動くことが出来なく倒れたままの冒険者たち。
 地面には殆どが魔王リリのモノだが臓器や血があちこちに飛び散っている。
 なんの訓練も体制もない人にとってはなかなか刺激の強い光景だ。

「何らかの拘束を受けている模様ですので、状態異常を解除出来る者は私に続いてください。
 その他の方々は負傷している冒険者たちを――」

 その声を聞いて、おどおどしていた者たちも動き出す。
 城から派遣された者たちは冒険者には目もくれず勇者達の下へ真っすぐに向かう。
 大して負傷はしていない三人だが、国にとっては冒険者よりも
 何十倍もこの勇者三人の価値の方があり、失う訳には行かないのだ。

「動けますか?」

「は、はい。ありがとうございます……」

 拘束を解除された三人だったが皆顔色が非常に悪く
 殺されてもおかしくない状況から助かったと言うのに元気がない。
 この世界になれていない三人にとって目の前で起こった出来事は余りにも刺激的過ぎたのだ。
 此処はそういった世界だと自分たちに言い聞かせて震える身体を抑え込む。

「まずは安全な場所に移動しましょう。歩けますか?」

 三人は頷きゆっくりと起き上がり出来るだけ周りを見ない様にしながら足を進めた。
 付き添いに三人の治癒士が付いている。
 無事勇者を助け終えた城から派遣されたもの達はやっと冒険者たちの下へ向かう。
 治癒に必死な者、助かったと胸を撫で下ろす者。

 そんな中、散らばっている魔王リリの欠片達が小刻みに震え徐々に一か所に
 集まろうとしている事に誰も気が付きはしていなかった。

 魔王リリ、彼女も魔王と言う名を持っているのだ。
 彼女が魔王と呼ばれる理由はあの性格だけではない。
 リリは生まれながら死ぬことが出来ない体質なのだ。
 魔王と人間の間に生まれた子が彼女。だが、人間が魔王の子を授かるのは不可能なのだ。

 魔力の差があり過ぎて子を宿したとしても産む前に身体が壊れて行く。
 リリの両親は当然そんな事ぐらい知っていた。だが、産むと言う道を選択したのだ。
 彼女の母親はどの道ある神から受けた呪いがありもう長くない事は分かっていた。
 魔王の力をもってしてもどうすることも出来ない理不尽な呪い。
 そんな母の最期の願いが子供を産むことだったのだ。

 魔王――神を殺し大魔王となった元魔王デーグはその約束を果たすため
 母親の身体が壊れて行く前にお腹の中にいるリリに不死の呪いを掛けたのだ――
 そしてすくすくと育ち色々と正確には難があるが魔王にまで成長したのだ。


 彼女は一時的に身体の自由はきかなくなるのだが、それは時期に回復する。
 腕程度の損失ならば数秒で回復するが全身となれば結構な時間を費やす。

 身体がばらばらになろうとも彼女の意識はしっかりと存在しており、
 今も尚自分の身に何が起こったのかを確認していた。
 そして彼女の目に入ってきたのは――スライムのコアだった。
 地面を抉るようにして埋まっているコア。

(わ、私が、こんなものでやられた?)

 余りにも屈辱的な真実に動揺し、怒りがわきでてくるのだが
 それは一瞬にして収まり彼女の心は快然たるものにかわっていた。

(たかがスライムのコアで私を倒すだなんて……あぁ、早く会ってみたいわ!
 敵としてだと少し分が悪いから、出来れば中立として色々と話してみたいわ!!)

 不死の呪いの影響で彼女は負けと言うものを体験した事が無かった。
 今回も命はある為正確には負けていないのだが、
 彼女は初めて自分が敗北したのだと悟った。
 例え正面からやり合ったとしても自分では勝てない、
 狂人染みた性格の彼女がそこまで思うほど今回の攻撃は圧倒的だった。

(取り敢えずこのことはお父さんたちに報告しないとけないわぁ、
 目的は一応達成できた事だし、人間たちは放っておいて帰ろうか~)

 彼女の肉片が一か所に集まり魔王リリが復活する。
 周りの誰もがその絶望的な光景を目を見開き口をパクパクとさせていたが、
 彼女はそんな間抜け顔に興味すら抱かず背中に翼を生やして大魔王たちの下へと戻っていった。

「勇者になれなかった俺は異世界で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く