勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

鋭い眼

 30発28中。俺が一発外し、ポチも一発外している為今回の勝負は引き分けと言う事になる。
 28ものコアをぶち込まれた魔王リリの身体は既に原型を留めていなく、
 右足のみが地面と垂直に立っており、辺りに色々なモノを撒き散らかしていた。
 冒険者たちも主にポチの所為で吹き飛ばされているが、命に別状はなさそうだ。

「ふむ、引き分けか」

「くそー!悔しい!!一回だけ力入れ過ぎたああああああ!!」

 ポチは引き分けでも気にしていない様子だが、俺は物凄く悔しがっている。
 加減が分からないポチなら何度も外してくれるだろうと甘い考えでいたのだが、
 物凄い集中で最初以外は外すこと無く見事に的に当ててみせていた。
 それを見て焦った俺は思わずコアに絶対防御を掛けようと握ったのだが、
 焦りからか力を入れ過ぎてしまいコアが潰れてしまったのだ。

「何をそんなに悔やんでいるんだ」

「ポチに勝ってどや顔を決める予定だったんだよ!!」

「ふっ、下らないな……まぁ、今回はなかなか面白い経験が出来て良かったぞ。
 ほら、何時までもグズグズしてないで帰るぞ」

「……はい」

 何だか最近ポチが物凄く大人に見えてしまう。
 実際は大人など優に通り越しているのだが、姿がお姉さんだからなのか、
 ポチが段々この世界の常識に慣れて来ているからなのか
 ……何時かポチに逆らえなくなりそうだ。

 何事も無く門を潜り余り活気のない商店街を進んで冒険者ギルドに向かう。
 殆どの冒険者が外でまだ倒れているだろうから、当然中はガラッとしており静かだ。
 そんな中を俺とポチは特に気にする様子も見せずに堂々とカウンターに向かう。
 此方に気が付いた何時もの受付嬢が一瞬だけ目をまんまると開いていたが、
 直ぐに今までに見せない様な鋭い眼つきに変わった。

「あっちいこうか」

「む、そうか」

 明らかに怒られる感じだったので俺はポチに言って
 隣の隣にいる受付嬢の下へ依頼完了の報告をしようとしたのだが――

「ちょっと!!二人ともこっちに来なさい!!」

 当然、獲物を捕らえた獣の如く鋭い眼は俺たちを見逃すことは無かった。
 無視する事も出来るのだろうが、これからの事を考えると
 こんなことで関係を悪化させるのは痛手になるだろうと仕方なく
 お怒りの受付嬢の下へ向かった。

「はい、まずは依頼完了ですね。お疲れさまでした。」

 おっ?怒らないぞ??さっきの鋭い眼はなんだったのだろう。

「スライムのコア10個。初日は仕方がないとして、
 何故二回目なのにこんなに時間が掛かったのですか?
 別に怒ったりしないのでおしえてください」

「む、コアは直ぐに集め終わったぞ。ちょっとソラと勝負していただけだ」

「ちょ!?」

 ここにきてポチさんが気の利かない正直者になってしまった。
 これは口止めをしなかった俺が悪いのかもしれないな……
 次からは騎乗を発動しておくとするか。

「そうですか……」

 ポチの言葉を疑いもせず飲み込んだ様で受付嬢の眼をより一層鋭くなり、
 その目線の先には幼い姿の俺がいる。

「さぁ、ソラ君?君はなにをしたのかしらね。決して怒らないから
 お姉さんに詳しく教えてみなさい」

「え、えっと……えへへ」

 何とか誤魔化せないかと笑顔を浮かべてみるが、
 受付嬢も笑顔を浮かべだしそれがまた恐ろしい程笑っていないのだ。
 これはもう正直に言うしかないなと覚悟を決める。

「その、倒しすぎちゃってスライムのコアが余ったから……
 的当て勝負しちゃった……」

「コ、コアで遊んでたんですか!?勿体な――」

『無事魔王の消滅を確認しました。我々リーン王国の勝利です!
 怪我人が多数出ている模様、治癒が使える者は至急正門まで』

 彼女の言葉を遮るように外でそんなアナウンスが口中に響いていた。

「――っ!魔王を倒したんですか……やった、やりました!!
 ソラ君、お説教はまた明日です!私は正門に向かいます!!」

「は、はい」

 魔王消滅のアナウンスが余程嬉しかったのだろう。
 先ほどまで獣の様な眼をしていた彼女はいつもの優しい感じに戻り
 俺にお説教宣言をしてルンルンと一度カウンターの奥に戻り、
 準備をして来て正門へと向かって行った。

「……怒らないって言ったのに説教するんだ。ポチの所為だぞ」

「ふっ、我も共に受けてやるから安心するが良いぞ」

 結局今日も情報収集は出来なさそうだ。
 そんな事を思いながら冒険者ギルドを後にした。

「勇者になれなかった俺は異世界で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く