勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

魔王リリ

 リーン王国に忍び込ませるために放ったスライムの帰りがあまりにも遅い為、
 痺れを切らした大魔王達は新たな手段に出た。
 一番信用出来て、実力もあり、他の大魔王達からも存在を知られている者――
 大魔王の部下、魔王を使う事にしたのだ。

 大魔王程ではないがかなりの強さを持っており、そんなものが国に現れれば
 大変な事になるのは目に見えているが、流石に何日も焦らされている
 大魔王達はもうそんな事は気にしない方向だ。
 部下の一人を呼び、リーン王国へ向かわせたのだ――。

・・・・

「何故、私がこんな雑様の様な事を……」

 大魔王デーグから命令を受け仕方なくリーン王国へ向かっている彼女の名前は魔王リリ
 美しい容姿は何百年も生きて自らの力で培った証拠だ。
 軽い足取りでリーン王国に向かう途中彼女はある集団を見つけてニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
 彼女の目線の先には川が流れておりそこで休憩している真の勇者三人と
 その護衛をしている国の精鋭たちだ。

 勇者たちを鍛える為、国の近くの場所で魔物相手に訓練をしており
 その休憩に川で休んでいたのだ。
 そんなに辛い訓練ではなく皆軽い気持ちで勇者達以外は
 ピクニック気分で休憩中に飲食をしている。 

 勇者たちは当然不慣れな経験にかなり緊張しており
 休憩とは言ってもとても休める精神状態ではなかった。
 誰もが今回も何事も無く訓練が終わり国に帰れると思っていた。
 だが、今日は運が悪く、最悪な存在に目を付けられてしまったのだ。

「はぁ~い、勇者さん!」

 その集団を見て一目であれが最近召喚された真の勇者だと分かった魔王リリは
 身体を半透明化させ一瞬で勇者三人の目の前まで移動し正体を表す。
 魔王とは思えない程の軽いノリで話しかけられた勇者はキョトンとしたまま固まっていた。
 無理もないだろう。いきなり目の前に今まで見た事も無いような美人が現れたのだから。

「え、あ、え?」

「む?勇者よどうした――っ!?そいつから離れろ――ッ!」

 戸惑いの声を上げた勇者を不思議に思い、
 今までピクニック気分だった勇者の訓練を任されているダンが
 彼らの方を向き声を掛けたのだが、そこにいたのは彼らが倒すべき相手。
 国に仕える者ならば誰でも知っている――殺人快楽者の魔王リリがいた。

 その存在に自分の目を疑うダンだったが、その前に急いで勇者たちに
 そこから離れる様に指示を出した。
 大声を上げると同時に武器を持ち勇敢に立ち向かっていく。
 伊達に精鋭と呼ばれている程ではない、今までピクニック気分だった彼らは
 一瞬で表情を一変させて武器を構え戦闘態勢に入っていた。

「もおぉ、乱暴な人は嫌いよ。人間は只々良い声で鳴いてくれれば良いのよ――っ!!」

 彼女が腕を一振りしただけで立ち向かってきた勇敢な精鋭たちは
 全員吹き飛ばされてしまった。

「さぁ、勇者さん君たちは大人しくしてましょうねぇ~」

 この世界になれていない勇者三人だが、これだけは分かっていた。
 目の前にいるの存在に逆らってはいけないと。生きたければ素直に従うべきだと。
 被虐性欲の塊のマコトでも今回ばかりは全く動くことが出来ず
 恐怖で身体が震えていた。

「そう、良い子ねぇ。此処で待ってなさない。
 ちょっと遊んでくるからねぇ」

 何の威厳も籠ってない言葉だが、何故か三人はそれを聞いただけで
 身体が言う事を聞かなくなりその場で尻もちをついたまま動けなくなっていた。
 魔王リリは吹き飛ばされた地面に倒れたきり動けなくなっている精鋭に近づいていく。 

『救援を――魔王が、現れた……勇者は人質に、我々ではどうしようも――』
「あぁああああああ!!」

 スキルを使い必死に国に状況を伝え救援を呼ぶダンだったが、
 そっちに集中していた所為でリリの接近に気が付けず両足を折られてしまった。

「んんん~!良い声で鳴くのね。じゃあ次はそっちの君~」

 動けなくなった精鋭達を痛み付け悲鳴を楽しむ。
 ダンは足を折られ、とても情けない悲鳴を上げた為、今は見逃されたが――

「えい!」

「――っ!このくらいどうって事――」

「つまんないの」

 痛みに耐え強がって見せた兵にそう吐き捨て頭を踏みつぶした。
 それからも次々と精鋭たちの一部を引き千切ったり折ったりとして行く――。

「いっあああああああ」

「なにそれ、わざとらし」

「へ?――」

 殺されたくはないと必死に悲鳴を上げる者もいたが、
 彼女が聞きたいのは自然の反応でありそんなわざとらしい悲鳴など聞きなくないのだ。
 また一人の命が消えた。

 国の緊急依頼を受けその場に冒険者が辿り着いた時には既に
 生き残っている兵はたった三人しかいなかった。

「あらぁ、一杯来たね……」

 どんなに冒険者が来ようと魔王には傷一つ付ける事は出来ず――
 精鋭たちと同じ手で次々とやられていく。
 そんな光景を目の当たりにしている勇者たちは思わず目を瞑っていた。
 当初の目的も忘れ悲鳴を楽しんでいる彼女だったが――楽しい事は永遠には続かないのだ。

「さぁ、次は君ぃだよ――え?」

 突然右腕の感覚がなくなり激しい痛みに襲われた。

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コメント

  • マチョ崎

    雑様ではなく雑用では?

    3
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