勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

緊急依頼

「ふわぁぁ……おはよ」

 翌朝の俺は早起きだ。
 昨日ポチに良いだけグチグチと言われたから今日は逆にグチグチ言ってやる
 と思い早起きの準備をしてい正解だ。

「早いな」

「……」

 だが、現実はそう簡単には行かない。
 まるで頑張って早起きした俺を嘲笑うかのようにポチは既に起きていて、
 俺のベットに入り込んでいた。
 しかもムカつく事に布団から顔だけをだしてニタニタと笑ってやがる。

「――!」

 非常に可愛らしいのだが同時にムカついたので両頬をぐに~と抓ってやった。
 グニグニと左右上下に引っ張り思う存分楽しむ。

「あにおしいている(何をしている)」

「さっさと準備していくぞ!」

 最後の最後に思いっきり引っ張り解放してやった。
 当然痛がる様子は見せないのだが、頬に手を付けてさすさすとしている姿を見て
 本当に憎めない奴だなぁ可愛い奴め……なんて思っていた。

「全く、早起きだなと感心しておったら何をするんだ」

「うるせ、今日も金稼ぐぞ!」

「ふむ、そうだな」

 早く狩りをしたいのだろう、平然を装っているが
 地味に口角が上がっているのを俺は見逃さなかった。
 何時もなら戦闘狂めと思っているのだが、状況が全く違って、
 今のポチは生まれて初めての経験を楽しんでいるだけなのだ。
 その姿を隣で見ていると、とても快い気持ちなる。

「ん~」

 支度を済ませて外に出る昨日とは違って朝っぱらから何やら騒がしい雰囲気だ。
 賑わっているとかではなく、何やら皆焦っている様だ。

「なんか知ってる?」

「さあな、何かイベントでもあるんじゃないか?」

「イベントね……」

 明らかにそんな楽しいようなムードではない。
 寧ろドンヨリと暗い雰囲気だ。

「どうでも良い事だ。早く行くぞ」

「そうだな」

 ポチの言う通り、確かにどうでも良い。
 今はそんな事は気にせずに冒険者ギルドに向かえば良いのだ。
 何だか嫌な雰囲気だ。騒がしいはずの冒険者ギルドの扉の前まで来たのだが、
 中から何時もの様に酒場で騒いでいる者たちの声が聞こえてこない。

 思わず唾を飲みこんでしまう。
 ゆっくりと扉を開けて中に足を踏み入れる。
 ドゥーンと重たい空気に押しつぶされるような感覚を覚える。
 目を疑うような光景が広がっている。
 掲示板の前にも酒場にも冒険者の姿が無いのだ。

 カウンターには何時もの様に受付嬢が居るのだが
 とても重たい表情をしている。明らかに異常だ。

「何があったの?」

 受付嬢の下へ行き何があったのか事情をきいてみる。
 俺たちが入ってきた事すら気が付いていなかった様で
 声を掛けられはっとして此方の顔を見ていた。

「そうでしたね、貴方たちはまだ最低ランクでしたね。良かったです……」

「む?どういう事だ」

 貴方たちは最低ランク。言っている事は真実なのだが、
 そう直球で言われてしまうと少し心が痛い。

「実はですね、F以上の冒険者は皆緊急依頼に行ってしまいました。
 近くに途轍もない力を持った魔物が現れたと報告が入り、国の精鋭達は壊滅状態。
 真の勇者たちは人質に取られているらしいです……」

 非常に悔しそうな顔をして状況を教えてくれた。
 ……かなり深刻な事態だな、緊急依頼か。
 冒険者の替えはいくらでもいるが真の勇者を失っては替えはいないからな、
 国も必死なのだろう。だから異例のFランク以上の冒険者は強制招集。
 ある程度の力がある者たちを集め少しでも戦力を集めたい様だ。

「ふむ、そうか」

 かなり深刻な事態。だが、ポチにとってはどうでもよいことだ。
 冒険者がどうなろうと真の勇者がどうなろうと――
 実際俺からしてもどうでもよい。ヤミ達さえ無事ならそれでよいのだ。
 だけど、同じ故郷の好だ。
 たまたま通りかかって石ころを投げるぐらいしても良いだろう。

「今日は大人しく国の中に居た方が良いですよ――って、話聞いてますか!?」

 受付嬢はそう声を掛けてくれるのだが、ポチはテクテクと掲示板の前に行って
 今日はなんの依頼を受けようかと選んでいた。

「ソラ、どれが良いのだ?」

「ん~これ!」

 前回同様ピョンピョンと飛び跳ねて指をさす。
 この間にも受付嬢はギャーギャーと何かを言っているが無視だ。
 今回選んだ依頼はスライムのコア10個。

「昨日と同じ気がするのだが?」

「ん~気にするな。それはとっておきの依頼だ。」

「ふむ、そうなのか。なら別に良いが」

 受付嬢に依頼の紙を持っていくが、当然良い顔はされない。

「お姉さん、スライムなら近くにいるから安全でしょ?
 大丈夫、直ぐに戻ってくるからさ!」

 此処は子供の笑顔パワーで解決させる。

「……本当に直ぐに帰ってくるのですよ。絶対に遠くに行ってはいけません」

「うん!」

 まぁ、遠くに行くんだけどね。

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