勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

加減を知りなさい

 ギルドカードを門兵に見せ用件を言うとすんなりと通る事が出来た。
 流石に国付近では魔物は現れない為、草原を暫く歩くと目的のスライムが現れた。
 プルプルと形を留める事無く忙しい魔物だ。

「あれがスライムなのか」

「そうだ、随分と違うだろ」

 向こうのスライムはこんなに可愛らしい魔物では無かった。
 鋭い口があり、動きも素早く力も桁外れで……一度俺の足もやられている。
 何だか思い出したらイライラしてきた。
 帰ってくる前に一発殴っておけばよかった。

「何だか弱そうだな、試しに一発殴ってみるとしよう」

 ポチがそう言ってスライムに近付いて行く。
 スライムがポヨヨンと身体を震わせて威嚇の様な行動をしているが、
 そんなのはお構いなしにポチの拳は振り下ろされる。
 流石に手加減するのだろうと思っていたのだが、現実は無慈悲だ。

――ドォオンッ

 と激しい音を立てポチの拳は地面にめり込み、辺りをクレーターの様にし、
 砂埃と少し遅れて衝撃破がスライムの一部であったであろう冷たい何かが
 俺の顔を掠り抜けて行った。

 当然、ポチが拳を上げた跡にはスライムなど存在していなく、
 目的物であるコアも回収する事が出来ない。
 魔石すらも砕いてしまった様で、その場には何も残っていなかった。

「手加減を知らんのか」

「思ったよりも弱いな……」

 流石にもう少し耐久力があると思ったのだろう。
 まぁ、向こうの世界のスライムを知っていればそう思っても仕方がない事だ。
 ポチは何だか不思議そうに手を開いたり閉じたりとしていた。

「何してるんだ?」

「拳に当たった瞬間溶けた様でな、初めての感触だったぞ」

 拳に当たった瞬間溶けるとは一体どういう事なのか。
 いや、言葉のままの意味なのだが、そんな経験した事が無い為、理解に苦しむ。

「次からは手加減しろよ?」

「ああ、任せろ!」

 このままだとスライムが幾ら居ようとも全て消滅してしまい、
 コアどころか魔石すら回収できない。
 手加減に自信があるのだろうか、ポチは何やら胸を張りながらそう言った。

「ほら、あそこにいるぞ」

「行くぞ!!」

 指さす方向にいるスライムに飛び出して行ったは良いものの、
 ポチは本当に手加減出来るのだろうか。
 そんな不安を胸にポチの事を見ていると――ドォン!
 案の定、力の加減が分からない様で、先ほどよりも規模は小さいが地面に穴を開けていた。
 当然、スライムは消えている。

「次!」

「はいはい、あそこにいるぞ~」

 力の加減を間違っても立ち止まらないその姿勢は大切だが、
 圧倒的な力に消滅させられるスライムさんの気持ちも少しは考えてあげて欲しい所だ。
 その後も幾つものスライムさんが消滅させられ――遂に――ブチャ……
 と少々汚い音を立てつつも、スライムは消滅することは無く倒すことが出来た。

「遂にやったぞ!どうだソラ!!」

 ん~何だか強敵を倒したかの様な顔をしているが、
 相手はこの世界では最弱の敵スライムさんだぞ……まぁ、素直に褒めるけど

「凄いぞ!ポチよ!その調子でどんどん倒すのだ!!」

「はっはっははは!行くぞ行くぞ!!」

 褒めると直ぐに調子に乗ってしまうタイプのポチは
 次々とスライムをブチャブチャと倒していく。
 その間に俺は無残にやられているスライムに近寄り
 魔石と青いジェル状のコアを回収する。

 流石にすべてのコアが無事と言う訳では無く、幾つか割れていたりしていたが、
 魔石の方は無事なので良しとしよう。
 目標の10個に辿り着いたのだが、ポチは未だに楽しそうにスライムをブチャブチャしている。
 そんなに倒してしまっては絶滅してしまうぞ。

「ポチさんやーい、もう集まったから回収手伝ってくれ~」

「分かった」

 俺とポチが集めた魔石の数は42個だ。
 これだけあれば宿にも食事には困らないだろう……持って二日と言ったところだが。
 もしこれを一人でやるとしたら面倒だったのだろうが、
 ポチと一緒だと無邪気に魔物を狩る姿を見れて癒される。
 これなら毎日金稼ぎをやっても良いかもしれない。

「楽しかったか?」

「新鮮で良いな。でももう少し骨のあるやつと戦いたいぞ」

「なら、次はもう少し強い魔物にしようか」

「ああ、楽しみだ!」

 帰り道にそんな会話をしながら何事も起きることなく歩み続けた。

「勇者になれなかった俺は異世界で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く