勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

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 それから三人から愚痴を聞いたり宿で共に食事をしたりと、
 久々に他人と有意義な時間を過ごした。
 一日中繋げていた騎乗を解いてから俺たちは眠る事にした。

「んっ……」

 何事も無く翌朝を迎え、窓から差し込む暖かい日の光で俺は目を覚ました。
 初日にしてはなかなか良い目覚めだ。
 ベットの上で縮まった筋肉を思いっきり伸ばしながら
 ポチが寝ているベットの方に視線を向ける。

「やっと起きたのか、遅いぞ」

「……おはよ」

 怒られた。
 既に身支度を済ませてベットの上で胡坐をかきながら此方の事をジーと見つめている。
 何時からそんな男らしい座り方をしながらこっちを見ていたのだろうか。
 もし俺の寝顔を観察していたのならばそんな変態染みた行動は止めて
 さっさと起こしてくれればよかったのに。

 そんな事を思いながら顔を洗ったり歯を磨いたりと朝の身支度をする。

「ポチさんやい」

「なんだ」

 歯を磨きながら少し気になる事がありポチに聞いてみることにした。
 それにしてもこの宿の歯磨き粉は少し辛い……

「真の勇者ってまだ部屋にいると思う?」

「ソラが起きる数時間前に一度部屋に来たぞ」

「えぇ!?起こしてくれれば良かったのに」

「気持ちよさそうに寝ていたからな、用件は聞いておいてやったぞ
 ゆっくりと休むことが出来た礼とまた何時か会おうと言っていたぞ」

 大した用ではなかったらしい。
 寧ろ礼を言いたいのはお金を払ってもらってるこっちなんだが……
 何時か会おうと言う事はあいつら城に戻ったのか?

 そんな疑問を抱きつつ水を口に含みグチュチュペッと口の中を洗い流して
 軽く寝癖を直し朝の身支度は完了した。
 ポチが作ってくれた完璧の服は加護のお蔭で常に綺麗な状態で
 取り換える必要が無い為非常に便利だ。

「さ、金稼ぎに行くか」

 金づると言ったら聞こえが悪いが、真の勇者さんたちが居なくなってしまった以上、
 これからは自分たちでお金を稼ぐ必要がある。
 取り敢えずは、今日の宿代ぐらい稼ぎたいものだ。

「ああ、そうだな。楽しみだ」

「そうか?」

「ふふ」

 金を稼ぐなど面倒なことだと思っている俺からしてみれば
 一体何が楽しみなのか分からないが、よくよく考えてみると、
 長年生きているポチだが、お金を稼ぐと言う事はしたことが無いのかもしれない。
 あくまで予想だが、初めてと言うのは何でもワクワクするものだ。

 宿を出て冒険者ギルドに向かうのだが、一応姉弟と言う設定なので、
 それっぽく手をつないで歩いている。
 道行く人が微笑ましい笑みを浮かべて此方を見てくるのが、
 何だかだましている様で申し訳ない。

 冒険者ギルドに入り次は周りの目など一切気にせずにガツガツと掲示板に向かった。

「何が良いんだ?」

「ん、狩りとか護衛とか……何がやりたい?」

 掲示板に貼り出されている依頼には様々なものがある。
 此処はポチがやりたい依頼にしてあげよう。

「無論、狩りだな」

「それじゃ、あれかな」

 指をさしても目当ての紙には届かないので、
 ピョンピョンと跳ねて必死にアピールする。

「ほう、これで良いのか」

「うん!」

 ポチが必死な俺とは裏腹に楽々に紙を取ってくれた。
 その内容はスライムのコア10個を集める依頼だ。
 分かりやすく言えばスライムを倒して心臓の様なものを剥ぎ取れば良いのだ。
 最低ランクに似合っている。

「依頼受けるんですか?」

 カウンターにいる昨日と同じ受付嬢に紙を渡すとそう言われた。

「ああ、金が無いのでな」

「そうですか……」

 受付嬢が怪しいものを見るような目でこちらを見てきた。
 まぁ、無理もないだろう。金がないと言いつつも二人とも恰好だけは金持ちの様なのだから。

「もしかして弟さんも行くのでしょうか」

「そうだ、何か問題でもあるのか?」

「いえ、問題は無いのですが……まだ幼いので心配です」

 良心で言ってくれているようだが、そんなのは無用だ。

「大丈夫!僕のお姉ちゃんは強いから!!」

「そうですか、でも無理はしないでくださいね」

「うん!」

 ポチは強いぞ。
 この受付嬢が思っているよりも遥かに強い。
 恐らくこの国にポチを超える物は居ないだろう。
 少々戸惑ったが無事依頼を受けることに成功した。

 外に向かうため、街中を歩いているとふと、気になる会話が耳に入った。
 その内容は、真の勇者三人が結構名の知れた盗賊のグループを倒したと言う事だ。
 それも昨日のパレードを抜け出して倒しに行ったと言う……

「どう思う?」

「間違いなく、我がやった盗賊の手柄を取られたな」

「だよね~」

 別に手柄が欲しい訳では無いので気にはしない。
 勇者、今頃大変そうだなぁ……

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