勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

普通の宿

「ここで良いんじゃないかな」

 エリルスの記憶を頼りにしてみたのだが、あの人が宿になど泊まるはずも無く、
 大した情報が得られなかった為、探すのに結構時間を費やしてしまった。
 辿り着いた宿は大して立派でも無く、ボロボロでもない普通の宿だ。
 お金があるからと言って無駄に高い宿にするのは勇者達にも申し訳ないし、
 そんな高級な場所だと逆に落ち着けずに休めない可能性がある為、普通の宿を選んだのだ。

 周りに人がいないことを確認してからポチに時間停止を解除してもらう。

「「「!?」」」

 当然の事だが、気が付いたらいきなり見知らぬ場所に移動しており驚きの表情を隠せずにいた。
 辺に取り乱して騒ぎ、周りの人々が寄ってきたら面倒な事になるので
 此処でもポチに頼る事にする。

「言いたいことがあるのは分かるが、知らない方が良い事もあるのだぞ……ふっ」

「は、はぁ……」

 もう少し別の言い方は思いつかなかったのだろうか、
 若干ひかれている気がする。

「取り敢えず黙って着いてこい」

 三人に有無を言わせずに宿の中に連れて行く。
 受付の人に色々と聞き、部屋がかなり余っている様なので
 二人部屋、一人部屋、一人部屋、一人部屋と贅沢に部屋をとった。

「あの、勇者パレード行きました?」

「ああ」

 部屋に案内しながら受付人がそう尋ねてきた。
 一生に一度行けるかすら分からない貴重なイベントの為、
 この人も宿など放っておいて行きたかったのだろう。
 見た感じ、下っ端の人の様だから留守を任されているのだろう。

「噂の勇者たちはどんな感じでしたか!?」

 目をキッラキッラと輝かして仕事を忘れたかのように
 ぐいぐいと興味津々に聞いて来る。
 余程勇者パレードに行きたかったのだろう。

「そうだな、我からしてみれば雑魚だが、一般人からしてみればかなり強いんだろうな」

「そうなんですか!!やっぱ強いんですね勇者って!!」

 若干ポチの本音が漏れているが、興奮している受付人はそんな事耳には入ってこない様だ。
 噂の勇者三人が後ろに居ると言うのにポチは容赦がない。
 確かに一般人からすれば真の勇者はかなり強い部類に入るが、
 ポチからしてみればミジンコ程度の力だ。

 まだレベル1の為これからどうなるか分からないが……
 あれ?つまり俺がレベル1だった頃……つまり真の勇者以下の力だった俺は
 ポチにとってミジンコ以下の存在だったと言う事だ……

 そう考えると物凄く自分が惨めな存在に思えてくる……

『……勝手に思い返して傷つくな』

 部屋に着き取り敢えず一旦解散し、後で一番広い俺たちの部屋に集合する事になった。
 部屋の中は至ってシンプルで必要最低限の家具しか置いていない。
 何泊もする予定はないのでこれだけの設備があれば十分だ。
 ベットに腰を下ろしてゆっくりとしているとノックが部屋に転がり込んできた。

 三人を部屋に迎え入れて開いているベットに腰を掛けてもらう。
 特に話すことは決めていないが、一応自己紹介からはじめよう。

「まずは自己紹介から始めようか。我はポチだ。
 そしてこの可愛いのがソラだ」

 まるで俺の事を人形の様にひょいと持ち上げて膝の上に座らせてきた。
 そしていつもとは真逆に頭をなでなでとされている。
 これでもし、子どもの姿じゃなかったら物凄い恥ずかしい行動だが、
 今の姿ではあまり恥ずかしくは無く寧ろ撫でられるのは嫌いではない。

 三人の自己紹介は既に魔眼で知っている事ばかりだった為、
 聞いているふりをして適当に相槌を打って流しておいた。

『自己紹介をするかと振っておいてそれは酷くないか?』

 まぁ、まぁ、そう言うなって。ここからは俺に任せてくれ

「ねぇ、ねぇ!三人は魔王倒すの?」

 まずは何が目的でこの世界に召喚されたのかを確認しておきたい。
 ま~た、魔王を倒してくれ~倒したら帰してやる~だとか言っていたりしてな。

「魔王……確かに僕たちはそれを望まれて呼ばれた様ですが……
 正直魔王って本当に悪い人なのか、倒す必要があるのか……」

「魔王が何をしても、どうでも良い……私には関係ない」

「魔王かぁ、きっとかなり凶暴でバシバシ叩いてくるんだろうなぁ……
 いっそ捕虜として捕まってビシビシ――」

 どうやらこの三人は一応魔王を倒す目的で呼ばれているらしいのだが、
 誰一人とも本気で倒そうとは思ってはいない様だ。
 それにこの様子からして大魔王の存在は伝えていない様だ。

「魔王を倒さないなら何をするの?」

「取り敢えずはこの世界について色々と調べて、誰かの為になりたいですね」

「満足に寝られる場所探す」

「女王様を探そうかな」

 物凄い個性が強い人たちだが、誰一人とも帰ると言う言葉は発しなかった。
 最初からあきらめているのか、それとも帰りたくないのか。

「元の世界には帰りたいと思わないの?」

「思わないですね」「無い」「こっちの方が快感が得られそうだし」

 三人とも即答だ。
 一人を除き何かしらの事情を抱えている様だ。
 これ以上踏み込むのは失礼だし大して興味も無いのでここらへんでやめておこう。
 まぁ、こいつらはなかなか面白い奴だ。

 もし、洗脳とかされて俺の目の前に現れた時には
 一度ぐらい助けてやっても良いかもな。

「そうなんだ、じゃあずっとこの世界に居るんだね!
 皆の活躍を聞ける日を楽しみに待っているよ!」

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