勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

試し

 あの理不尽過ぎる人形の効果に気が付いている者は今のところいなさそうだな。
 もし居るのならば人形に刺激を与えないようにしたり、何かしらのアクションを起こしているはずだ。
 それどころか、兵士たちは縄をぐいぐいと乱暴に扱い人形を縛る縄が徐々に食い込んで行く。

 おいおいおい!!!やめろ!!!

 効果を知ってしまった俺はその行動で国が無くなる事を知っているので
 声には出さないが心の中で兵士を止める。

「此処に一体の悪魔がいる!この悪魔をこの場で殺し、我々は魔王軍に宣戦布告をする――!!」

 先ほどから勇者たちの紹介をしたりパレードに集まってくれた国民に
 感謝の言葉を述べたりしていた偉そうな人がとんでもない事を言い出した。
 魔王軍に宣戦布告をするのは別に止めはしない!
 だが、その悪魔を殺すのはやめろ!!宣戦布告する前に国が無くなるぞ!!

『うるさいぞ、ソラ』

 え、ごめん……

 折角辿り着いた国を滅ぼされてしまうと思うと、つい熱くなってしまった。
 此処は冷静になってどうすれば爆破を回避できるか考えなければ。
 身体強化を使って目にも止まらぬ速さで悪あの人形を奪取するか?
 いや、その衝撃で死んで爆破する可能性がある……

 そうなってしまえば俺が国を爆破したも同然……くそう!!

『いや、国が無くなるのならば我とソラしか生き残らんだろ、
 ソラを責める奴は皆死ぬんだぞ』

 あ、そっか……いや、そっかじゃない。
 別にこの国に何の思い入れも無いが、態々あのお嬢さんも利用して
 この国に入ったんだからもう少しゆっくりさせてほしいんだ。

「では、勇者よ、この悪魔を――」

 あああああぁああっぁああああ!!

 あれも違うこれも違うと悩んでいると偉そうな人が滅亡宣言をはじめ、
 その命令に怯えた表情の三人の勇者が人形向かって歩み始めた。
 三人の手には鋭利な刃物が握られており、そんなもので傷付けられたら
 人形は一たまりも無く、爆発してしまうだろう。

 そして恐る恐る刃物が振り上げられ――
 歓声が上がる中俺だけが終わりだ……と思っていると――

『そうだ、試したい事があったんだった』

 ポチがそう呟き――時は止まった。
 あと数センチと言う所で刃物が止まっているのを確認し、一安心だ。

「よし、成功だ。ソラよ、動いてみろ」

「え?」

 時間を止められた中、俺に出来る事と言えば必死に
 ポチに命乞いをすることぐらいだけのはずだが……

「え!?動けるぞ!?」

 言われたとおりに肩車されたままポチの頭をわしゃわしゃすることが出来た。
 周りが止まっている中で動けると言う優越感に浸る事が出来る。

「ソラを範囲外にして発動してみたのだが、無事成功した様で良かった」

 時間停止と言う神でも抗う事の出来ない技に
 さらりとアレンジを加えて見せるポチ。本当に流石と言う言葉しか出てこない。

「ほれ、これでやりたい放題だ。どうするんだ?」

「う~ん、そうだなぁ……取り敢えず近付いてみてくれ」

「ああ」

 肩車されたまま止まった時の中を動いていく。
 人混みが嘘の様にスムーズに足が進みあっと言う間にステージの上までたどり着いた。
 ちらりと観客達の事を見ると、ひとりひとり違った表情で固まっており、
 少し面白く感じる。

「よし、試してみるか」

 ポチも試しでアレンジを成功させたんだ、ならば次はこちらの番だ。
 そう意気込み俺は今までやったことの無いような行動をとる。

絶対防御プロテクト

 絶対防御を人形囲むように貼ったのだ。
 今まで自分にしか使用してこなかったスキルだが、ポチが行ったように
 俺も他人に使用してみたのだ。
 絶対防御は一度なら何でも防いでくれる優れたスキルだ。

 それは例え内部からの爆発でも――そうだよな?魔眼さん

――ええ、そうですね

 魔眼さんもこういっているんだ、間違いない。
 絶対防御は内部からの爆破も防ぐことが可能だ。
 後はどうやってこいつを殺すか――

『そんなもの簡単だ。一回絶対防御とやらを解いてくれ』

「はい」

「そして、こうするんだ」

「!」

 ポチはそう言って人形の頭を鋭くなった手で貫いて見せた。
 当然人形の為、血を流したりはしなかったが
 命が無くなった以上爆発してしまう――

「あ、そっか。時間止まってるんだもんね。爆発する訳ないか」

『ああ、その通りだ』

「流石ポチだぜ、これで俺が絶対防御プロテクトを掛ければ――完璧っと」

 俺たちはやり遂げた顔をして先ほどの場所まで戻り、
 何事も無かったかのように再びステージを見る――そして、時は動き出す。
 勇者の刃物が振り下ろされた瞬間、不可解な小規模な爆発が起こった。
 正確には爆破した後に勇者の刃物が振り下ろされた――だ。

 真の勇者登場と悪魔の処刑に興奮しきっている観客達は
 その不可解な現象を誰も疑問には思っていない様だ。

「さ、今日の宿さがそうか」

「そうだな……所でお金はあるのか?」

「へ?」

 今思えば、お金なんて持っていなかったのである。

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