勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

馬車擬きの中には

「あれ触りたくないんだけど」

 馬車擬きには雑魚共の鮮血によってベッタリ染まっており、
 勿論扉も真っ赤になっており、いくら加護があるとは言え下種の血など触りたくないのだ。
 今は真っ赤にそまっているが、恐らく中にいる人物は窓ガラスから外の様子を見ていたと考えると
 とても驚いていることだろう。

 ポチが時間を止めている間、俺は意識がある為何が起こっているのか理解できているが、
 一般の人々からすれば突然雑魚共の頭が一斉に吹き飛ぶと言う不可解な光景を目にしているだろう。

「ポチ、開けてこい」

 相手から出てきてくれるのならば一番助かるのだが、
 もしかしたら驚きすぎて気絶しているのかもしれない。
 此処はこんな悲惨な現場に変えてしまったポチが責任を取るべきだろう。

「嫌だ……これで良いか?」

 ポチが口ではそう言いながら精霊の力を存分に使い、
 馬車擬きの周りのゴミを風で吹き飛ばし綺麗にしてくれた。

「十分だ……だけどな、俺の姿をみろ」

「可愛らしいじゃないか」

「……そうじゃない、子どもだ!
 子どもよりも大人の姿をしているポチの方が色々と信憑性がますだろ」

「ちっ」

 ピンチを助けてくれたのが子どもだったら明らかに怪しがられる。
 感謝はされるのだろうけど、
 それ以上に子どもが大人を何人も殺していると言う現状に恐怖を抱くだろう。
 心がつながっているとこういった事も勝手に伝わってくれるから非常に便利だ。

 舌打ちをしつつも仕方がないとポチが扉の前まで行き、勢いよく開いて見せた。

「ほう?」

「ん?」

 ポチが馬車擬きの中を見てそう呟いた。何かを発見した様だ。
 人なのは間違いないのだろうけど、果たしてそれが生きているのか死んでいるのか。
 ポチの反応から……ああ、どうやら――

「邪魔だ」

 ポチが馬車擬きの中でお楽しみ中だった下種雑魚野郎の頭を容赦なく貫き、
 腕に頭が嵌っている状態で振り、外に放り投げた。
 こればかりはやり過ぎとは思わない、当然の報いだ。

「お疲れさん」

「ふっ、其れよりも、こいつどうするんだ」

「うわぁ、こりゃ酷い」

 馬車の中を覗き込んでみると、そこには服が乱れ、彼方此方に殴られた跡が痛々しく残り、
 更には先ほどの雑魚の血が掛かりとても清潔とは言えない程汚れている女性がいた。
 涙を流し虚ろな目をしており、此方の存在に気が付いていない。これは完全に堕ちている。

「殺すか?」

「ん~、俺が彼女だったら死んでしまった方が良い気がするけどなぁ」

 もし俺が彼女の立場なら下種に犯されるぐらいならば死を選ぶだろう……
 だが、今ならばそういう決断はしないだろう。
 大切な仲間が待っている、そして何より――ポチに掛かればすんなり解決するのだ。

「ポチ――」

「一つ貸しな」

「へいへい」

 折角利用しようと助けてやったのに、こんなんじゃ使えない。
 無駄足にならない様にポチに治すように言う。

「本当は見過ごせないだけだろ。御人好しが」

「わーわーきこえない」

 本当の心を読まれてしまい恥ずかしくなり耳をふさぐ。
 その間にもポチは精霊の力を使い女性の身体を清める。
 殴られた跡も傷も消え、体内に入り込んでいる液も綺麗さっぱりに消えさり
 大切な壁すらも復活し記憶すらも操作し散らされる寸前まで巻き戻す。

「って、凄いなポチ」

 ポチの心を読んでいると、物凄く凄い事をやっている事実を知ってしまった。
 何時も凄い凄いと思っているのだが、此処までとは……流石ポチだ。
 俺も今度嫌な記憶消してもらおうかなぁ……

「そんな事に使わないぞ」

「ちぇー」

「ほら、終わったぞ」

「ん、お疲れさん、ありがとな」

 礼を言って再び馬車擬きの中を覗くとそこには見違えるほど美しい女性が居た。
 枝毛一つ無い綺麗な黒髪、綺麗な顔立ちにクリッとした瞳。
 流石に破けたドレスまでは治せなかったのだろうか。至る所が破けている。
 汚れは落ちているため、かなり高級なドレスだと言う事は分かる。
 ひょっとして何処かのお嬢さんなのかな?

「つか、生きてる?」

 目は開いているのだが、瞬き一つすらしない。
 死んでるのではないかと思うほど静かだ。

「生きてるぞ、少し刺激を与えれば復活するはずだ」

「なるほど、じゃ遠慮なく」

 流石に無防備な女性のお腹を触ったりする勇気はないので
 広いおでこにを指でぱちんと弾いた。
 勿論、身体強化などは使っていない状態でだ。
 もし使っていたのならば何の準備もしていないこの女性の頭は吹き飛んでいるだろう。

「いっ……きゃああぁああ!!」

 ポチの言う通り刺激を与えた事によって復活したようで、
 眼を見開き恐怖を思い出した様で両肩を擦り逃げ場のない馬車擬きの中で尻もちを後退った。
 こうなっても別に何ら不思議ではなく当然の反応だ。
 彼女の記憶は犯される寸前で止まっていたのだから。

 こういう時にはこの身体は非常に有利だ。

「目覚めた!!良かった!!大丈夫お姉ちゃん?」

 表情と声色をコロコロと変えて本当に心配する子どもを演じる。
 女性は周りを見渡し先ほどの下種が居ない事に気が付くと
 今度は俺とポチの顔を交互に見て困惑していた。

 ポチさんやい、説明してやってくれ

『なんで我がそんな面倒な事をしなくてはいけないのだ』

 多分彼女は俺とポチの関係を姉弟か親子だと思っているはずだ。
 つまり、彼女からすればどのみちポチの方が俺よりも上の保護者的な存在なんだ。
 俺の故郷では子どもの発言だけでは信憑性がないとして、
 学校に電話しても休ましてもらえない事が良くあるんだ。
 俺が言いたいことはだな、子ども発言は所詮―― 

『そんな説明しなとも、やるつもりだったのだが……』

 あ、そう……

「混乱しているようだが、安心しろ。ゴミは処理した。
 お前が清い身体で居られているのはこの餓鬼のお蔭だ、感謝するが良い」

 おい、まてまてまてまて!!誰が餓鬼だ!!

『気にするな、口が滑っただけだ』

「そ、そうなの?賊は全員倒したのですか?」

「ああ、全員処分した」

「私生きているのね……」

 やっと冷静になり助かった事に一安心した彼女は胸を撫で下ろし、
 次に身体を彼方此方触って身の安全を確認し始めた。

『おい、ソラよ。あいつは何をしているんだ?』

 本当に汚されていないのか確かめているんだろ。

『なんだ、我の言葉が信用できないとでも言うのか』

 まぁ、仕方ない事だろ。
 散る寸前だったんだから他人に言われて信用できる訳がない。

「ほ、本当に大丈夫のようですね……」

 身の安全を確認し終わった様だ。
 さて、早速で悪いが、利用するとするか。

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