勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

開戦の合図

「なるほど」

 あまり良く分かってはいないのだが、取り敢えず分かったと言っておく。
 あのドラゴンの神様がこの二人から魔力を奪って重力操作的な何かを使って
 地面にめり込ませているのだろう。

「そんな状態で戦えそうなのか?」

 口調は何時も通りなのだが、二人の事をよく見ると、
 少し何時もよりも表情が硬くなっている。
 そんな些細な事だがこの化け物二人が硬い表情をするのは非常に珍しい事なのだ。

「ははは、ちょっと辛いかもね。僕がこのまま戦うと確実に魔力切らしちゃって
 ソラ君の事向こうの世界に返せなくなっちゃうね」

「おっと、それは困るな。ヘリムは休んでいてくれ」

 さらりととんでもない事を言うヘリムに休むように言う。
 もし、本当に帰れなくなれば本気であのドラゴンの事を恨むだろう
 いや、それだけでは済まない。奴に関係するすべてのものを消してやる。

「ご主人様はどうだ?」

「もう十分に暴れたのじゃ~妾は眠いのだ」

 そう言って再び地面の中へ顔を埋めて行くご主人様。
 一体このおばあちゃんは何をしに戦場へ来たと言うのか。
 まぁ、暴れて神様を呼ぶと目的は果たしてくれている訳だから文句は言わないが、
 せめて神様を倒すことにも協力してほしいものだ。

「そうか、ならご主人様も休むんだな……って、俺とポチだけでアイツ倒せるのか?」

「大丈夫だよ。ソラ君なら倒せるさ。本当は僕も協力してやっと倒せると思っていたんだけど、
 力を取り戻したならもう僕の力は必要ないさ。
 僕が言うんだ、自分の力を信じなよソラ君。僕はここで君の帰りを待っているよ」

 何故この神はたまにだがこうも真面な事を言うのだろうか。
 何時もみたいに軽い感じで言ってくれれば気楽なのに……
 こうも信用されては本気を出すしかないじゃないか。

『おい、ソラよ。お前、我の言葉だけじゃ本気を出すには足らなかったということか?』

 不機嫌なポチの声が脳内に響いて来る。
 決してポチの言葉が足りなかったという訳では無い。
 ポチの言葉にヘリムの言葉が合わさって初めて自信が付いたのだ。

『これも、後でじっくり聞いてやるから覚悟しとけよ』

 ……はい

「ところで、あいつらは何で倒れてるんだ?」

 俺はここから少し離れた位置で倒れている見覚えのある姿を指さした。
 そこには一人ではなく七人も地面に倒れこんでいた。
 その内の二人は何度かあったことがある顔だ。
 一人は爺、そしてもう一人はトラウマ糞ビッチ神さまだ。

 ビィチアは一生倒れていろ!と憎しみが籠った言葉が飛び出しそうになったが、
 この憎しみも含め、どうせならあのドラゴンに八つ当たりをしてやろうと抑え込む。

「ああ、なんかね――」

 ヘリムの話はこうだ。
 あのドラゴンの姿をした神様が現れた瞬間に、
 待ってましたと言わんばかりに転移してきた神七名。
 だが、一瞬にして魔法を封じられそのまま地面に押し込まれたらしい。
 一体何をしにきたのか。あまりこんなことは言いたくないが、帰れ。

「役立たずだな」

「まぁ、本来の力の半分も無いからこの戦場は辛いだろうね」

「どういう意味だ?」

 半分の力も無いと言う事は分かるが、この戦場が辛いと言う言葉に疑問を抱いた。
 確かにこの世界で一番上の存在が降臨しているのだから、
 他の戦場よりも辛いと言うのは分かるのだが、何だかそれとは違う気がする。

「アイツが降臨してから此処では魔法が使えなくなってるんだよね」

「あー、なるほどね。だからあのドラゴンは余裕かましているのか」

 ポチから情報は聞いていたので、反則級の魔法を使っていても別に驚きはしない。
 なるほど、この戦場ではアイツ以外が魔法が使えないのか。
 通りでさっきから空で余裕の表情で辺りを見渡している訳だ。
 ……本当に莫迦だなぁ

 思わず俺は自分でも分かる程の邪悪な笑みを浮かべてしまった。
 絶対に負けないと言う自信がある奴を圧倒的な力で倒す。
 その時の相手の表情を想像しただけで自然と笑みが浮かんでしまうのだ。
 絶対的強者が名も知らぬ相手に敗北する。

「ソラ君、楽しそうだね。昔のソラ君に戻ったんだね」

「皆のおかげでな」

 大魔王の加護が身体に浸透してきたのだろう。
 昔の様に戦闘になると不気味な笑みを浮かべてしまう。
 悪い気はしない。寧ろヤミたちと一緒にいた頃に戻れた気がして非常に気分が良い。

「ソラ君の為になれたようで良かったよ。さぁ、行くんだ。
 興味ないかもしれないけど僕たちの代わりにこの世界を救ってあげて」

「ああ、任せとけ」

 丁度どのタイミングで神に挑もうかと悩んでいたところだ。
 ヘリムの言葉を合図に俺とポチは歩きはじめる。
 上空で余裕を見せているドラゴンはこちらには一切興味がないと言う感じで
 見向きすらもしてこない。

「ポチ、行けそうかい?」

『ソラを運ぶぐらいなら容易い……
 だが、加護も消えている以上やり合うのは少し厳しいかもな』

 この戦場で魔法が使えなくなっていると言う事は、
 あのドラゴンが必殺技的な出鱈目な魔法を使っていると言う事だ。
 この世界の全ての力を無効化する――つまり、ポチが持っている加護も消えていると言う事だ。

「そうか、十分だ。此処までありがとな。
 じゃあ、手始めに――」

 身体強化、魔眼を発動させ戦闘準備をして周囲に転がっている瓦礫に重力操作を掛ける。
 重たそうな瓦礫がふわふわと浮き始める。

「さあ、何発当たるかな?」

 腕を振り下ろす仕草と共に瓦礫が勢いよく飛んでいく――開戦の合図だ。

「勇者になれなかった俺は異世界で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く