勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

決闘を申し込もう。

「ポチさんやい」

『なんだ』

 城の中に入ってきた俺はみんなと一緒にゴロゴロしていた。
 勿論ポチを抱き枕にしてゴロゴロだ。
 エキサラとヘリムはだらしなくお腹を出しながら本気で寝ている。
 最近では寝室で寝ることは無く、カーペットの上で寝るのがはやっている。

 俺は毎日毎日ゴロゴロしているこの状況が不味いと思い、
 ポチと一緒に散歩にでも行こうと声を掛けてみた。

「お散歩にいかないか」

『別に良いが急にどうしたんだ』

「ん~今日は気分が良いからな、外に行きたい気分なんだ」

 心の底に沈んでいた感情を表に出した今日はとても気分が良い。
 こんな日に家の中でゴロゴロしているのは非常に勿体ない。

『そうか、なら行くぞ』

「うへ」

 ゴロゴロしていたかと思えば切り替えが早く、
 言葉を発しながら起き上がったポチに咥えられて外に連れ出された。
 特に目的地があるわけではないがぶらぶらと外に行くそれが散歩というのものだ。
 ちなみに、俺はポチにずっと咥えられたままだ。

 視界が揺れて非常に気分が悪くなりそうだが、何時もとは違う感じで新鮮だ。
 適当に道を進んでいるが、道と行っても限られている為、
 徐々にエルフたちの村へと進んでいく。

「なぁ、ポチさんよ。このまま村に降りてったら確実誤解されるぞ」

『ん、そうか、なら――』

 起用に俺の事を空中に投げてポチの背中に着地した。
 咥えられるのも良いがやはりこちらの方が安定している。
 村に近づき、此方の姿を見た途端皆家の中に引っ込んでいった。
 この前の件もあり非常に顔が合わせ難いので正直助かった。

 特に何事も無く村を抜け出してさらに奥へと進んでいく。

「あ、魔物だ」

『魔物だな』

 草原に出ると珍しく魔物と遭遇してしまった。
 液体状の魔物、スライムだが、この世界のスライムは圧倒的なまで強い。
 だが、俺とポチは大して気に留めることなく魔物を横目に見て進んでいく。
 スライムの方も此方に興味は無いらしく、べにゃべにゃと草を食べていた。

「スライムってどれぐらい強いんだ?」

『しっかり止めを刺さないと死なないから
 我たち下位互換ぐらいだ』

「おぉ、分かりやすい」

 しっかりと止めを刺さないと死なないのは非常に厄介だ。
 適当に切り刻んでも核がある限り生き残り、何度も何度も復活する。
 そう考えたら俺たちって厄介どころではなく、
 もう滅茶苦茶な存在なのではないか。

『何処か行きたいところは無いのか』

「ん~そうだな、周りに何もなくて広い場所に行きたいぞ」

『何を企んでいるんだ?』

「ん~ちょっとポチと戦おうかなって」

 最高に気分の良い俺はポチと戦ってみたいと思っていた。
 前回よりも確実に強くなっている、そんな自信すら沸いていた。
 只、厨二病が再発しただけだというのにも関わらず、
 今ならポチに勝てるかもしれないという自信。

『それは楽しみだな』

「俺も凄く楽しみだ!はやくやろうぜ!!」

『ふっ、初めからそう言えば良かっただろうに』

「いや~今思いついた!」

 最初からポチと戦闘をするために散歩をしようと言ったわけではない。
 本当に今なんとなく思いついたのだ。

『でもいきなりどうしたんだ?』

「ちょっと過去の自分を見習おうかなって」

 過去の痛々しい厨二病の姿。
 だが、今の俺にはその痛々しい姿が最高に恰好が良く似合っている。
 厨二病があってこその俺だ。

『そうか、まさか、昨日あれだけ落ち込んでおいて
 翌日に勝負を申し込まれるとは思っていなかったぞ』

 ポチが言う様に昨日は落ち込んでいたのだ。
 自分の目からビームが出るという事に――だが、それはエキサラによって全てが変えられた。
 目からビーム?恰好良いじゃん。

「ふっ、今日の俺は昨日の俺とは一味違うぜ」

『そうか、それは美味そうだな。我が勝ったら遠慮なく喰らってやろう』

「っ!」

 すっかり忘れていたが、俺の近くには二人も俺の身体を喰らう存在がいたのだ。
 性的で狙って来る神様も居るが、生的にはポチとエキサラだ。

「ああ、構わないぞ!負ける気がしないからな!!」

『ほう、言ったな。覚悟しろよ?』

「ああ、ポチこそ覚悟しとけ!!」

 こうして軽く挑発をし合いながらも開けた場所に辿り着いたのであった。

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