勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

流石ポチ

 そう尋ねてみたが伝わるはずもなく、
 一晩ポチに口を塞がれたまま寝ることが確定した。
 苦しいとかそう言うのは一切ないのだが、
 ポチのもふもふに涎がついてしまったらどうしようと
 そんな余計な心配をしてしまう。

「ん、んんんん」(お、おやすみ)

 ポチに言いたい事はあるが
 こうなってしまったからには腹をくくるしかない。
 どうせ死ぬことはないのだから……でも、怖いなぁ
 未知という言葉が一番恐ろしく感じる。

 ポチのことだからあり得ない技ばかりだしてくるんだろうな
 精霊がどーたらこーたらの力とかあるし……
 勝てるか分からないな……そんなこと言ったら
 ヘリムやご主人様にも勝てるか分からない。

「んー」

 実際にやってみなきゃわからないよな。
 よし、今日は寝よう!って動けないから寝るしかないんだけどね。
 俺は全身をポチのもふもふに包まれながら目を瞑った。
 ふかふかのベッドより数倍、もふもふの方が寝やすく、
 場所が変わったからといって寝難い何てことはなくて
 ぐっすりと眠ることができた。

「ん、んん……」

 何時もよりも快適に眠れた為、目覚めはとても良かったが、
 ポチの手が未だに俺の口を塞いでおり、
 良くもまぁ、一晩離さずに居られたなと少し感心。
 寝相が良いと素直に誉めて良いのか迷う。

「んーんーんー!」(おーきーろー!)

 よほど昨日の疲れが溜まっていたのだろう、
 何時もは早起きなポチが朝になっても気持ち良さそうに寝ている。
 声を出すこともがっちりとホールドされているので
 体を動かすこともできない為、仕方ないが起きるまで待つことにした。

 ただ待つのは暇だと思うかもしれないが、
 ポチのもふもふに包まれていれば幸福な時となり
 暇なんて感じることは無くなるのだ。
 つまりポチのもふもふは時さえ凌駕する最強なのだ。

 たとえ動けなくとも、もふもふの毛がからだの一部にさえ
 触れていればそれはもう幸せなのである。

『ん、もう朝か』

 思ったよりもポチが早く起きたようだ。
 さぁ、朝だぞ、いい加減に俺の声を解放するんだ。

『ソラよ朝だぞ起きるが良い』

「んーんんんー!」(おーきてるー!)

『おお、すまないな、塞いでいるのを忘れていた』

 うっかりしてた様で少し慌てた様子でそう言った。
 ポチのもふもふの手から解放され
 少し寂しくなった気がするが、取り敢えず声を出す。

「全く、忘れてたなんて酷いぞ!おはよう!」

 ポチの拘束が緩み俺は寝返りをしてポチの方を向く。
 大きな顔が目の前に現れ鼻息がふんふんとしている。
 湿っているポチの鼻を見ているとなんだか噛み付きなくなるが、
 その後の展開が恐ろしいのでやめておく。

 お返しだとか言って全身を食らい尽くされそうだ。

『すまない、昨日は疲れていたからな』

「うん、お疲れさま……だけど忘れてたわりには俺のことを
 全く手放してくれなかったね」

『ふっ、我が捕まえた獲物を逃がす訳ないだろ。
 ソラが本当の獲物なら今すぐーーこうする』

「うぺ……」

 ポチの大きな口がぽっかりと開き、
 そのまま俺の頭をパクリと食べ優しく噛みついてきた。
 突然の事に思わず変な声を出してしまった。
 ポチの口のなかは真っ暗でなにも見えないのだが、
 臭いだとかネバネバしているなどそういったのは一切なく、
 寧ろ、無臭でさらさらとしていた。

「すごいな、これどうなっているんだ?」

『なにがだ?』

「色々な物食べたりしてるのに、なんでこんなに綺麗なんだ?」

 エキサラの料理は勿論、ポチはたまに俺の事を喰らったり
 しているのにも関わらず歯などに汚れがなく生臭くもない。
 何となくだが、精霊のお陰と言う答えが返ってきそうだ

『我の毛に汚れが付かないのと同じ原理だ。
 結界は便利だぞ?ソラにも張ってやろうか?』

「え、そんなこと出来るの!?」

 結界を張れると聞き、
 俺は目を宝石のように輝かせた。
  汚れなくなるという事も非常に嬉しいことなのだが、
 それ以上に結界という言葉、行動に心が踊る。

『我を誰だと思っている?』

「ははぁ!可愛い可愛いポチさま!!」

 ポチの口の中から脱出して
 目と目を合わせながら少し上目遣いでそう言った。

『ん、なんだか思っていたのとは違うな……』

 気高きフェンリルのポチさまとでも言ってほしかったのだろうか。
 だが、がっかりした様子は見せず、少し嬉しかったのか、
 よくみるとポチの口の端が少し上がっていた。

『ほれ、掛けてやったぞ』

「え、もう?」

 なんのアクションも起きていない為、
 結界が張ってあると言う実感が今一わかない。
 まぁ、ポチの言う事だ、間違いは無いのだろう。
 外に行ったときにわざと転んだりして汚れないか試してみるか。
 汚れなく能力も最強の執事服――あれ、

「これって俺に結界を張ったって事は、
 執事服は関係ない感じ?」

 俺自身汚れなくなるのも非常にうれしい事なのだが、
 出来れば身に着ける衣服が汚れない方が良い。
 洗うのはエキサラやヘリムがやってくれているのだが、
 少しでも仕事を減らしてやりたい。

 手伝えって?嫌だよ、つめたい。

『問題無いぞ、ソラが身に着けた物すべてに結界が張られる』

「うぉおお、さすがポチだ、便利すぎる!!」

『ふっ、感謝するが良い』

「ははぁ!」

 そんなやり取りをして暫くポチをもふもふしてから
 ポチに強制的に背中に乗っけられながら洗面所に向かい
 朝の身支度を済ませて朝食を取りに何時もの部屋に向かう。

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