勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

ソラちゃん

「ふふふ、大人しくしててね」

「何をする気だ!?」

 何やら怪しげな衣装を持っているヘリムと
 両手をにぎにぎさせたりいやらしい手つきのエキサラが現れ
 身の危険を後ろは風呂場で逃げ場は無いが後退った。

 こいつら俺が無防備な時を狙いやがったな!
 急いで服を着てこの場から離脱しなければ――っ!?

 裸だと大事な部分を隠さないといけないから色々と不便で
 さっさと服を着て、せめて下半身だけでも隠せる様になってから
 急いで逃げようと思い、風呂に入る前にしっかりと用意していた
 執事服を探したが、脱衣所の至る所に視線を送っても見つからない。

「何探してるのかな?」

 服が見つからず焦っている俺を見かねてか
 ヘリムがニタァと思わず殴りたくなるほどの憎たらしい笑みを浮かべ
 わざとらしく聞いて来た。

 この反応からして俺の執事服を隠したのは
 今目の前に居る二人の仕業なのだろう。

「ヘリム……やりやがったな!」

「うん、僕だよ。でもね、
 これを考えたのはご主人様だから悪く思わないでくれないかい?」

「うむ、妾の完璧な作戦じゃ!」

 何が誇らしいのか、胸を張って決め顔をしながら
 エッヘンとポーズをしているエキサラ。

「聞いて良いか?」

「なんじゃ?」

 俺は何故このような状況になってしまったのか
 全くと言って良い程心当たりが無いので
 酷い目に遭わされる前にせめて理由だけでも知りたい。

「何でこんなことをしようと思ったんだ?」

「そりゃあのう」

「そうだね~」

 俺の質問を聞き二人で見つめ合い、
 俺には全く伝わらないが頷きあっていた。

「俺にも分かるように説明してくれ」

「それはね、ソラ君が最近僕達に構ってくれないからだよ?」

「最近はポチばかりなのじゃ」

「……」

 言われてみればそんな気がする。
 訓練の際に手伝ってもらったりしているが、
 確かに以前よりも圧倒的に二人に構っていない。
 ポチとは毎日モフモフしたりと構っているのだが……。

 よし、分かった!

「二人の言いたい事は分かった。
 だから、ね、今回は見逃したりしてくれたり?」

「無理だね」「無理じゃ」

「……」

 くそったれ!こうなったら隙をついて逃げるしかないな。

 何とか逃げるべく二人の隙をつこうと
 動きを観察するが、隙が全く無い。
 ヘリムは怪しげな衣装を持ちながらも俺から目線をずらすことなく
 俺が少し動くとそれに合わせてヘリムも動く。
 エキサラは変な手つきをしつつも眼だけは本気なので、
 逃げ切る事は絶対に不可能だ。

 くそっ……こうなったら身体強化でも使って――

「へっ?」

「ふっ」

 完全に油断していた背後、風呂場から現れたポチによって
 両脇に腕を入れられて拘束されてしまった。
 目の前の二人に集中しすぎてポチの存在を忘れていた。
 両腕が拘束されてしまった為、隠す物も隠せずに見られてしまう。

「あっ、久しぶりに見た!可愛いね」

「可愛いのう……」

 そんな感想を呟かれてしまい、
 プライドも何もかもがズタズタにされてしまい
 今すぐにでも穴に入りたい気分に襲われ
 顔が物凄く熱くなってきた。
 恐らく真っ赤に染まっているのだろう。

 こんなことになるのならば先ほどの
 冗談など言わなければ良かったとかなり後悔する。

「はーなせ!!」

「ソラよ、大人しくするが良い」

「くそ!何でポチまであっち側につくんだよ!
 まさか、あの二人にも心を許したのか!?
 それは嬉しい事だが、何で今なんだよ!!」

「別に心など許しては居ないぞ。
 只、今回の件は中々面白そうだからな、
 手を貸してやっているまでだ」

 面白そうだからという理由で俺を裏切るのか!
 絶対に何時か復讐してやるからな、覚えとけ!!

 なんてことを思っているのだが、
 声に出してしまえば自体が更に悪化すると予想出来るので
 此処は抑えて心の声だけにしておく。

「さ、覚悟は良いかなソラ君――いや、ソラちゃんかな?」

「は――?」

 怪しげな衣装、そしてソラ君からソラちゃんへと。
 良からぬ予想が頭の中で完成しつつある俺は
 そんな事させてたまるかと日々の成果を発揮して
 力一杯暴れてみたのだがポチの拘束からは抜け出すことは出来ずに、
 前からじりじりと寄って来たエキサラにまで拘束されてしまい、
 もう手も足も出ない状況になり――

 それからはもう三人に大変可愛がられたとさ。

「これで良し、どうかな?」

「おぉお、これは良いのう」

「ふむ、似合っているぞソラ」

「ほら、ソラちゃんも見てみな」

「……」

 そういってヘリムは脱衣所にある大きな鏡の前に俺を連行していき、
 そこで映った自分ではない自分に目を見開き
 顔を真っ赤にして顔を抑え込みその場に蹲った。
 鏡に映ったのは黒髪ツインテールでふりふりで
 白黒のメイド服を着ている俺の姿があった。

 顔が幼い為か服装と髪型さえ変えてしまえば
 女だと言っても分からない。
 自分で言うのもあれだが一瞬だけ男だと言う自覚を無くしてしまった。

 ……この三人は俺にこんな格好をさせて
 一体何を求めているのだろうか。
 まさか、この姿を他者にばらされたくなかったら――
 という薄い本見たいな事に!?

 顔を隠しながらそんな事を考えていると、

「ソラちゃん、声出してみてくれないか?」

「うるさい、ヘリムなんて嫌い――え?ナニコレ」

 声を出したのは紛れもなく俺自身なのだが、
 その肝心な声が男の物ではなく女の声そのものだった。

「うんうん、酷い事言ってくれたけど、成功したみたいだから許すね」

「何をしたんだ!?」

「んとね~ソラちゃんは僕のお陰で
 状態異常系の魔法が効かなくなってるでしょ?
 だからそのメイド服に細工をしてね、それを着たものは
 女声になり魔法も使えなくなり自分の意志ではカツラも服も脱げなくなってるよ!」

「ふざけんな!!何だよそれ!?」

 魔法が使えなくなる点は、
 この城から出ないと言うのが前提なら許せるが!
 女声と服とカツラってなんだよ!これじゃ一生女装野郎じゃねえか
 こんな状態じゃヤミ達にあわす顔がない

「まぁ、まぁ、妾達が満足したら脱がしてやるからのう
 安心して今日は眠るが良いぞ」

「うん、今日は何もしないから安心して眠ってねおやすみ!」

 そういって二人は脱衣所から姿を消し、
 残されたのはメイド服姿の俺と裸で満足そうに俺の事を見ているポチ。
 一体これからどうなるのか、そんな不安を大いに抱きながら
 取り敢えず――

「ポチ、今なら許すからモフモフさせてくれ」

「うむ、喜んで」

 もふもふで癒されよう。

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