勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

戦うメイド服

「魂よ快楽に溺れ踠き狂え――」

 ド変態がそう唱えると何処から沸いて来たのだろうか
 黒い煙の様な何かが一か所に集まり始め、一瞬にして一つの塊となった。
 詠唱を聞き昔の自分を思い出したが感傷に浸っている暇は無いので、
 今はあの黒い塊がどのような魔法なのか分からない為警戒心を高める。

 ポチ、あの魔法って当たったらどうなる?

 分からない事があればポチ大先生に聞くのが一番だ。
 これ位なら力を貸してくれても罰は当たらないだろう。
 そもそもポチとの会話は流石のあの化け物二人でも
 盗聴することは出来ないらしいから、多少の助言位問題ないだろう。

『闇属性の魔法だな。精神汚染の一種だろう。
 当たらなければどうってことは無いが、
 当たってしまえばソラの負けだ』

 えぇ……いきなりそんな魔法使うなよ……

 たっぷ傷付けるのならばもう少しチマチマとした
 技を繰り出して来るのかと思っていたが、
 初めから結構エグイ魔法を出され少々戸惑った。

「さぁ、行くわよ!」

 球を投げる様にして勢い良く精神汚濁系の魔法を放してきた。
 ポチの言う通りこの変態は中々強い様で
 かなりの放たれた魔法はかなりの速さで迫って来ている。
 スキルの身体強化を使えば躱せる――のは前までの俺だ。

 俺は軽々と体を翻し、魔法をクルリと避け
 標的を見失った黒い球は建物に当たって弾け飛んだ。

 現在の俺は日々の地獄の訓練によってかなり進化している。
 先の攻撃だってエキサラの攻撃を毎日受け続けて居なかったら
 恐らく躱すことは不可能だっただろう。

「あぁ、凄いわ!結構本気だったのにそれを躱しちゃうなんて!!
 ますます興奮してきたわ!さぁ、大人しくしなさい!」

「っ!」

 魔法の次は接近戦をやりたいらしく
 蛙のようにぴょーんと此方に向かって跳ね、
 そのまま拳で殴り掛かって来た。
 手首を外側に曲げて拳を外に流す。
 これはヘリムの訓練によって学んだ技だ。

 何度も何度も繰り出される拳を軽々と流していく。
 対格差がある所為か敵の攻撃は何処かぎこちない感じだ。
 そんな事気にして上げられる程優しくは無いので、
 流した後のほんの僅かの隙をついて鳩尾に攻撃をする。

「っ!」

 上手く決まったようで体をくの字に曲げて
 苦しそうな表情をしている。

「やる、わね」

 流石の変態も不味いと思ったのか、
 一旦距離を取って此方の様子を伺っている様だ。

『ソラよ、良く流しきったな。正直驚いたぞ』

 全部日頃の訓練のお陰だな。
 正直ご主人様に何度も殺されて折れそうになったけど
 こうして実際に成果が現れると、途中で止めなくて良かったと思う。

『ああ、そうだな。
 この調子でそいつを倒してしまえ』

 ああ!任せろ!

 と言っても此方から動く事は無いのだが。
 俺は相手同様に様子を伺う事にした。
 ポチと話している内に鳩尾の苦しみから解放された様で
 通常の体勢に戻り頬を赤めていた。

「ああ、素敵。こんなにも小さな子に私がやられるなんて。
 しかも顔色一つ変えていない……あぁ、早く滅茶苦茶にしてあげたい!!」

 先ほどよりも変態度が増しており、
 まさかこの人マゾの素質があるのではないかと思い、
 救いようのない変態さんだ、と憐れむ様な目で見た。

「闇よ私に力を与えたまえ――」

『身体強化系の魔法だな』

 うわ、あれ以上強くなるのかよ勝てるか分からんぞ

 万が一、俺のように爆発的に身体を強化する系の魔法だったら
 魔法もスキルも使えない今の状態では冗談抜きで勝てない。

「完全なる主は私、私は主。完全なるは私――」

『……』

 再び良く分からない詠唱を始めたのだが、
 ポチ大先生からの答えが返ってこない。
 故障でもしてしまったのだろうか。

『分からん。初めて聞く詠唱だ、気を付けろ』

 ポチが知らないって……相当やばそうだな。

 かなり長生きをしていて、
 精霊を喰らったりしているポチ大先生が知らないとなると
 オリジナルの魔法か、それともポチが知る事が出来なかった
 強大な威力を発揮する未知の魔法か。

 威力の強さは置いておくとして、
 次の攻撃からは警戒しておかないと一瞬でやられるかもしれない。
 幸いな事に今発動していないとなると、
 速攻魔法ではない為、まだ対処の使用がある。

「ふふふ――っ!!」

 不気味な笑みを浮かべながら再び此方に迫って来るが、
 先ほどの様な素早さは微塵もなく、
 今度はのそのそと普通の人間が歩くのと同じぐらいの速さだ。
 その急変に不安を抱く。

 急にゆっくりになった原因としては
 先ほどのポチでも分からない魔法が一番可能性がある。
 今まで以上に警戒しゆっくりと後退り少しでも時間を稼ごうと行動に出た。

「あらあら、そんなに警戒しなくても良いのよ。
 身体強化系の魔法しか使ってないから安心しなさい」

「!」

 流石にバレてしまったらしいが、
 幸いな事にも自分からネタ晴らしをしてくれた。
 決して嘘ではないと言う確信はどこにもないのだが、
 こんな自分の性癖に素直な人間がそんなくだらない嘘を吐くとは
 到底思えない為此処は信じることにした。

『危なくなったら我が助けてやるから自分を信じてみろ』

 うん、俺はあの人の性格を信じるよ。

 後退るのを止めて俺は向かい打つ構えをし、
 ゆっくり此方に寄って来る女を睨み付けた。

「ああ、良い眼をするのね……舐めまわしてあげたいわ!」

「っ!気持ち悪い事言うなよ」

「ふふふふ、でもその気持ち悪い事がもうすぐ現実になるのよ?」

「は――っ!」

 先程とは比べものにならない程の威力の拳に襲われ、
 防御した反動でよろけそうになるが直ぐに立て直し、
 二撃目に備える。

「ん~これも駄目か……面倒、もう良いわ」

 諦めてくれるのだろうか、そんな事を思ったのだが、
 そんな様子は微塵も現れず次から次へと重たい拳が飛んで来る。
 流したり時は防御をしてダメージを負わないように凌ぐ。
 一撃一撃が重たい為か、隙が出来やすく、
 隙を突くには絶好のチャンスだ。

 そう思った俺は攻撃を流してから隙を突き、
 再び鳩尾に狙い御定めて拳をねじ込んだ――が、
 ゴツンッ、という音がなるはずの無い音が裏路地に鳴り響いた。

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