勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

ソラの災難

「まぁ、まぁ怒るなって」

「別にー怒ってないしー」

 ロウォイの家から出てポチが急いで追いかけて来て
 憎たらしく目線を同じ高さにして態々前に出て
 顔を覗き込みながらそんな事を言ってくる。

 別に怒っているつもりはない。
 ただ、すこーし拗ねているだけだと言うのに
 このポチは、まったくもう!

『ダダ漏れだぞ、拗ねていたのか。可愛いな』

 ぐぬぬ……こういう時に騎乗とかいう魔法は不便だ。
 最近繋げ続けているから休憩として解除でもしようか。

「ふんっ」

「ちょっ!」

 拗ねている俺の事をひょいと持ち上げてお姫様抱っこしてきた。
 抱っこでも負んぶでもない、お姫様抱っこだ。
 こいつはどんだけ俺のプライドを気付付ければ済むのだろうか。
 絶対俺が恥ずかしいと思って事をあえてやっているだろ。

『それはどうかな』

 絶対に何時か復讐してやるからな覚悟しろ!
 そしてお姫様抱っこはやめろ!

 暴れて見るがガッチリと物凄い強い力で固定され
 現在の俺は何の魔法もスキルも発動していないので
 力だけでポチの拘束から抜け出そうとしても叶うはずもない。
 そして周りの目など気にせずにルンルンと楽しそうに人混みの中に入り込み、
 エキサラ達と別れた店に向かう。

 気のせいではなくかなり周りの視線を集めているのだが
 恥ずかしいのは俺だけの様でポチは何も気にしておらず
 俺は顔を真っ赤にしてポチの服の方を向き顔を隠した。

「あ、ソラ君~ってどしたの」

「何じゃ、姫様抱っことはのう」

 顔を隠している間に到着したらしく二人の声が聞こえ
 振り向くとこれまた何を企んでいるのかニヤニヤと
 しているエキサラ達の姿があった。

 ポチだけでももう心が折れそうなのに
 この二人は何を考えているんだ!

『知らん、ニヤニヤしているだけで決めつけるのは良くないぞ』

「買い物は終わったのか?」

「うん、終わったよ!ちゃんとソラ君の分も買ったから安心してね」

「んじゃ」

 一体俺の何を買ったのだろうか。
 下着を買いに行ったのだから恐らくは下着なのだろうが、
 何だか先ほどの笑みと言い嫌な予感がする。

『あの店の中チラッと見たが、下着以外にも色々あったぞ』

 ……ポチ、もし俺の心が折れそうになったときは宜しくな。
 お前は何時までたっても俺の味方で居てくれると信じてるからな。

『場合によるな』

 え、嘘、ポチ?

「ポチよ、ちょいと良い話があるからこっちに来るのじゃ」

「あっ、騎乗は切っといてね~」

 二人に呼ばれポチは騎乗を切り、
 俺の事を優しく降ろしてニッコリと笑みを浮かべて彼方に行ってしまった。
 たいした距離がある訳ではないが、
 何やらコソコソと話していて全く聞き取れない。

 ポチの奴、こういう時だけあの二人と仲良くしやがって
 ……どうか、平和でありますように。

 あの三人がなにかよからぬことを考え、
 団結して襲ってでも来たら一瞬で俺はやられてしまうだろう。
 そんな事起きませんようにと願い三人の方を見つめた。

 数分後やっと俺を除け者にした会議が終わったらしく
 三人とも似たような笑みを浮かべて此方に戻って来た。
 なんだこいつら一人ずつビンタしてやろうか。

「おまたせー」

「何話していたのか教えてくれないのか」

 戻って来た三人の誰かが答えてくれないかなという
 浅はかな希望を胸に抱いて聞いてみたのだが、
 案の定三人の反応は皆同じく

「秘密だよ」「秘密じゃ」「秘密だな」

「よし、皆嫌いだ」

 暫くこの三人には近付かないで置こうと心に誓った。
 それから俺達は軽く出店で串焼きなどを買い
 小腹を満たしてから特にやる事も無いので
 行き同様エキサラの転移で一瞬で家まで帰還した。

 まだまだ日は暮れないので俺は帰ってそうそう訓練を開始した。
 今日はポチ達の協力は無しで自分だけで出来るメニューだ。
 流石に何を企んでいるのか分からないままだと恐ろしいので
 何時もの様に気軽く訓練手伝ってなど言えないのだ。

 なので今日は軽めのメニューで取り敢えず筋トレだ。
 ふんふんふんふんと気合を入れて腹筋や腕立てなどをした後に
 適当に城の付近をぐるぐる走ったり……そんな感じで今日の訓練は終わった。
 訓練終わりは風呂と決まっているので俺は早速風呂に向かおうと
 ぶらぶら道のりを歩いていると、

『ソラよ』

「うわ、ポチだ」

 横の通路からもふもふのポチがのっそりと出て来て
 思わず心の底の方の声が出てしまった。

『あからさまに嫌そうな顔するな。訓練終わりか?』

「そうだけど、どうした」

『うむ、風呂行くぞ』

「えぇ、ポチ別に汗かいてないんだから
 今入る事なくないか……」

『……我はソラと風呂に入りたいんだ』

 この発言をしているのがポチじゃなかったら
 色々と問題のある発言なのだが、
 獣であり性別の無いポチだからこそ許される台詞だ。

「ぐぇ」 

『行くぞ』

 ポチが執事服の背中を部分に噛み付き
 強制的に風呂場へと連れていかれる。
 初めてされる運び方だが意外と楽しく、
 地面を見ながら進んでいくのが不思議な感覚だ。

 そんな新感覚を体感しながら脱衣所へと着き
 服を脱ぎ新たな執事服を準備して風呂に入る。
 風呂に入った途端ポチが大人体系の擬人化を始めた。
 物凄く女性らしくなるのだが、ポチだ。

 何故擬人化したのかは分からないが、
 大して気にすることも無い。

「なぁ、ポチぃ教えてくれよ」

「その内分かるぞ。まぁ、覚悟しとくんだな」

「うわ~、ポチの事嫌いになりそう」

 絶対に教えてくれないと言う事は分かっていた為
 期待はしていなく予想通りの答えが返って来て
 冗談でそんな事を口にしたが、

「!!」

 ポチのニヤニヤ顔が一瞬にして真顔になり、
 まるでロボットの様に顔をガックンと此方に動かして
 物凄い形相で近寄って来た。

「ど、どした」

「ま、待てソラ!早まるな!
 教えるから考え直すんだ!!頼む!」

「えぇ……」

 ぐいぐいと手を握られて必死に訴えかけてくるポチ。
 嫌いになると言う事がそこまで嫌なのか。
 思っても無い事を口にするのは止めようと思った瞬間だった。

「冗談だよ、ポチ大好きだ」

「良かった……でも、我は今ので怒ったからな。
 この後どうなっても知らないからな!!」

「えぇ!ごめんってポチ」

 どうやらこの後俺は何かされてしまうらしい。
 頼みの綱だったポチは拗ねてしまい
 完全にヘリム側になってしまった――あれ、この状況不味くない?
 この密室で拘束でもされたらたまったもんじゃない!

「あっ、用事思い出したから先上がる。
 ポチはゆっくり浸かってると良いよ」

「ふ~ん、まぁ良いんじゃないか?」

「……?」

 何やらポチの言い様が気になるが今はそれどころではないので
 そんな事は気にしている場合じゃない。
 俺は軽く体を流してから急いで風呂場から抜けた――

「きゃぁああああぁああ!変態!!」

 誰もいないと思っていた場所に何者かが現れ
 俺は大事な部分を隠して大声で叫び、同時に絶望した。
 脱衣所には何故かヘリムとエキサラがふりふり付きの
 衣服を持って立っているのであった。

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