勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

序列上位陣同盟

「……痛」

 爺はソラにやられて折れてしまった腕をブラつかせながら
 エキサラの気配を探り真っ直ぐに彼女の下へと進む。

(それにしても、あそこまで強いとはな……
 流石はエキサラ様の奴隷と言ったとこか。
 あいつもウカウカしてたら
 本当に殺されるんじゃないか――いや、それは無いか)

 予想を遥かに上回るソラの強さに驚きながら
 空き部屋の前に立ちエキサラの気配を確認し
 気持ちを切り替えて声を掛ける。

「エキサラ様、ちょっと良いか」

「うぬ、入るが良い」

 爺が城の付近に来た時点でエキサラは気が付いており、
 ある程度の事を予想して空き部屋にテーブルなどを準備していた。
 そして、声が聞こえ何の確認もせずに中に通す。

「ん、その腕どうしたのじゃ?」

 エキサラは何時も無駄に輝いている銀のガントレットが無くなり、
 更にその腕までもがボロボロになっており、疑問の声を上げた。

「ああ、前にエキサラ様に頼まれた事をやったんだが、
 逆にボコボコにされてしまってな」

「おお、やってくれたのかのう!忘れているのかと思ったのじゃ。
 ……爺がやられるって事は相当激しい戦闘でも繰り広げたのかのう?」

 滅多な事では傷つかない爺の事を知っているエキサラは、
 きっとソラを鍛える為に激しい戦いを繰り広げ、
 その結果がその腕の負傷だと思っている。

「いや、恥ずかしい話だが一発受けただけで
 俺の完全防御プロテクト付加のガントレットを砕き腕まで砕かれたんだ。
 あれはもう俺が手に負える相手ではないな」

 完全防御プロテクトとはソラが使えるスキルの完全防御プロテクトと同じで
 どんな攻撃でも一度だけ防御すると言う効果なのだが、
 ソラの寸止めしようとした一撃は世界のルールから外れ、
 完全防御ごと腕を粉砕したのだ。

 寸止めだったからそれだけで済んでいたものの
 あのまま薙ぎ払われていたら爺は只では済まなかっただろう。

「くはははは!そうか、そうかのう、流石ソラじゃ。
 まさか一撃で冥府神の爺がその様とはのう」

「……遥か昔の話だろ、今は神の部下だ」

 エキサラは爺の正体をソラから聞かれた際に
 怨念の塊のみたいな者だと言ったが、
 あれは爺の正体を隠すための虚言であり、
 何故そのような嘘を吐いたのかと言うと
 その内実は神様の一人でした!とネタ晴らしして
 ソラを驚かす作戦だったのだ。

 爺が言うように今は冥府神、魂を導く神ではない。
 序列時代になり、他種族に序列が付いたように
 神々にも序列が付いたのだ。
 勝ち抜いた一人が神となり、他の神々は神の部下となったのだ。

 部下となった神々は本来の力の半分を失い
 歯向かうにも歯向かえないと言うのが現状だ。

 只一人の神を抜いて。

「そういえば、あいつ神を倒すとか言っていたぞ」

「うむ、ソラならきっとやり遂げるのじゃ
 爺たちの力が戻るのもそう遠い事ではないじゃろう」

「そう簡単に行くとは思えないがな、
 いくらあいつが強くなろうとも神である
 あいつに勝てるとおもうのか?」

 幾ら強くなったところで神には及ぼない。
 爺の言っている事は正しい。
 だが、それはソラが一人で戦うという前提においての話だ。
 ソラには仲間がいる。エキサラ、ポチ、骸骨軍団――そして、

「なんじゃ、爺よ、知らなかったのかのう?」

「何がだ?エキサラ様が力を貸すって事か?
 そうだとしてもあいつには及ばない」

「妾よりも強力な助っ人がいるのじゃ。
 昔起きた大戦乱の中破壊の限りを尽くしていた
 神の事を忘れて訳じゃないじゃろう?」

 かつて気に入らない国を次々と破壊していき、
 エキサラが捕らわれていた国も破壊し、たまたま命を救った
 昔破壊しか脳の無かった神。

「ヘリム=ゾルデペルギ……そいつがどうしたんだ?
 俺は見た事すらないが、神々を裏切り姿を消した奴だろ?
 今はどうなっているか知らな――」

 爺は発言の途中で重大な事に気が付き
 言葉を呑み込んだ。

「あいつは神々の戦いの前に姿を消している――っ!」

 神々の戦いで敗北した神は部下となり力を半分失う
 ならその戦いにすら参加していないとすれば――

「そうじゃ、妾でも気が付いていた事を爺が知らぬとはのう……
 そのヘリム=ゾルデペルギが生きているとしたらどうじゃ?」

「神が二人いる……」

「うむ、そうじゃ、それもソラの近くにのう
 爺も知っているはずじゃ、この城に住んでいるも一人の事を」

「あいつが!?あんな奴が破壊神だと?
 ……見かけで判断しては行けないな。
 そうか、そうなのか、ならば本当に倒してしまうのかもな」

 破壊神であるヘリムと大魔王の加護を持ち桁外れのソラ。
 そしてエキサラやポチ、骸骨軍団。
 その全員の力を合わせるのならば神を倒せる可能性がある。

「うむ、ソラは絶対にやり遂げるのじゃ……
 とまぁ、この話はここら辺にするかのう、本題に入るのじゃ」

 エキサラが腕の事を指摘して始まった話だが、
 このままだと広がり続け収集が付かなくなるため、
 区切りの良い所で本題へと移行する。

「ああ、そうだな……少々時間を取りすぎた、簡単に伝えよう。
 序列一位を倒す為に序列二、三、四居が同盟を組み、
 近いうちに世界を巻き込む大規模な戦いが起きる。
 ここも無事では済まないだろうから忠告をしに来た」

 序列上位陣が戦うとなれば被害は計り知れない。
 ましては序列一位と上位陣の同盟となれば
 この世界を巻き込んだ世界大戦規模の戦いが起きる。

「ほう、それはつまり妾達にも攻撃が加えられる可能性があると、
 そういう事じゃな?」

 エキサラは何やら良からぬ事を考え付き、
 口の端を上げて不気味な笑みを浮かべた。

「まぁ、そうだな」

「く、くははははは!
 ならば此方もやられっぱなしという訳には行かないのう、
 その戦い勿論部外者が介入しても問題はないのじゃろう?」

「エキサラ様、やる気か?」

「当たり前なのじゃ、妾は兎も角、ソラにも被害が及ぶ可能性があるのじゃ。
 そうと分かった以上は手を打たないといけないのう」

 狂気に満ちた表情で当たり前の様にそう発言する。
 爺はその表情に驚くことはなく、更に忠告する。

「……忠告はしたからな。
 エキサラ様がどう動こうが勝手だ。
 だが、あまり暴れすぎるなよ?」

「そうじゃのう、妾は気を付けるがのう、
 ソラ達が黙っているはずもないのじゃ、くははははは!
 楽しみじゃのう、久しぶりの戦いじゃ!」

「はぁ、相手からしたらたまったもんじゃないだろうな。
 まぁ、そういう事だ、俺は再び姿を消す」

「うむ、良い情報感謝するのじゃ」

 爺が部屋から出て行った後も
 エキサラは興味に満ちた表情を浮かべて
 一人で狂ったように笑っていた。

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