勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

んあー!

 それから数分が経過し、一応ポチに確認してもらうと
 既にベッドから出て洗面所からも出たらしく、
 人前に出ても恥ずかしくは無い状態になったのだろう。

「あ、一応人の状態になってくれ」

『わかった』

 人の目が怖いので一応だ。
 今日でこの宿や国とはお別れだが、
 出来るだけ迷惑は掛けたくない。
 ポチの擬人化(幼女)を確認して俺とポチは部屋を後にして
 隣の部屋の前に行きコンコンコンとノックを三回した。

「誰じゃ~」

「俺じゃよ」

 扉越しから相変わらずの声が聞こえ前回同様に
 同じような口調で言葉を返す。

「おぉ、ソラか!目が覚めたのじゃな、
 動くのでは無いぞ、今開けるからのう」

 二日間も寝込んでいた所為でエキサラが物凄い興奮した様子で
 ガチャガチャと扉の鍵を開けて乱暴に扉を開いた。
 そして此方の顔を確認すると勢いよく飛びついて来た。
 反射的に手をご主人様の後ろに回し抱き返す。

 全体的に柔らかいがふにゅりと最も柔らかい感触が二つ。
 その感触に思わず気が迷いそうになったが
 隣にいるポチに軽く服を引っ張られてハッと現実に戻ることに成功した。

 扉先、宿の廊下でこんなことをしていたら
 他の宿泊客にとっては非常に迷惑なのだろうが、
 傍から見ると子供同士が嬉しそうに抱き合っているだけなので
 厳しい目では無く温かい目で済まされるのだ。

「もう大丈夫なのか?痛い所はないのかのう?」

 顔を少し引いて俺に目を合わせて
 本当に心配そうな顔をしてそう尋ねて来た。

「ああ、ご主人様達が看病してくれてたお陰で
 もう大丈夫、いつも通りだ」

 一名は看病しながらこっそりと
 病人に対して物凄く非常識な行動をしていたのだが、
 それは気にしないで置こう、看病してくれていたのは事実なのだから。

「良かったのじゃ……我の力があるのにも関わらず
 ずっと寝込むなど心配するのじゃ……」

「……ごめん」

 エキサラの目が潤んでいくのを確認し、
 またご主人様を悲しませてしまったのかと
 心の中で何て情けないんだと自分を卑下する。

「謝る事は無いのじゃ、今回のソラは誰かのために頑張ったのじゃ
 妾の為ではなかったのが少し気に喰わないのじゃが……
 兎に角、今回のソラは頑張ったのじゃ、妾に誇って良いのじゃ」

「……良く分からないけど、ありがとう」

「良く分からないとは何じゃ!」

「ははは、ごめんごめん」

 エキサラに軽めにペシペシ叩かれながらも
 部屋の中に招かれ取り敢えずベッドに腰を掛けた。
 俺とポチで一つのベッドに、向かい合う形で
 もう一つのベッドにエキサラが座っている。
 さっきまで二人共寝ていた為シーツが乱れている。
 若干枕にシミが付いているがそこには触れないでおこう。

「ヘリムの姿見えないんだが?」

「トイレじゃ」

「あー、トイレか。神様でもトイレするんだな」

「するんじゃなぁ……」

 神様がトイレをする事に少し驚いた瞬間だった。
 なんだか神様がトイレするって考えたくないが、
 考えてみればヘリムなのだから当たり前なのかもしれない。
 うん、自分でも何を言っているのか分からないが、
 兎に角、ヘリムだから当たり前になるのだ。

「ちなみに我はしないぞ」

「えぇ!本当に?」

「ほぉ……詳しく聞かせるのじゃ」

 突然のポチの衝撃的な発言にエキサラが少し興味を惹かれたようで
 ギラギラと目を輝かせてポチの事見ていた。

「そういえばポチがトイレ行くとこ見た事なかったな」

「我が幾ら食べようが飲もうが体内にいる精霊たちが
 エネルギーに変換したり色々してくれているからな」

「た、体内に精霊さんがいるのかよ……何でもありだなポチは」

 精霊の加護を持っているのはポチが精霊を喰らったから
 という事を考えてみれば別に不思議な事ではないのだが、
 余りにも非現実的な発言をサラッと言うので
 心の準備も何もできずに驚いてしまう。

「体内に精霊か……なるほどのう、勉強になったのじゃ」

 どうやらエキサラが良からぬことを考えているらしく、
 下を向いてブツブツと何やらブツブツ呟いている。
 あまり触れないでおこう、巻き込まれそうで怖い

「んあー!ソラ君、来てたんだ」

 トイレから出て来たヘリムが手を振りながら此方にやって来て
 何の躊躇いも無く横に座りぎゅーと抱き着いて来た。

「……」

「あれ?ソラ君どうしたの?」

 決して抱き着かれるのが嫌だとかそういう訳ではないのだが、
 ヘリムは重大なミスを犯しているのだ。

「おい、トイレ行った後は手を洗うのは常識だろ?」

 そうヘリムはたった今トイレから出て来て
 手を洗う事無く真っ直ぐ此方にやって来て
 しかもその手でくぎゅーと抱き着いて来たのだ。

「ふふふふ、甘いなソラ君。
 僕がソラ君に触れるときは必ず魔法で綺麗にしているのさ
 さっきもトイレでソラ君の気配を感じてから
 急いで魔法を掛けたのさ!」

「……そう」

 トイレで清潔になる魔法を掛けてもなんだか
 意味の無いような気もするがそこは指摘しないでおこう。
 それにしてもさっきのんあー!は作り物だったのか。

「ほれ、離れろ、明日の話するぞ」

「えー」

 嫌がるヘリムを剥がしてエキサラの横に座らせて
 明日の話をしようと思ったのだが、
 全員がそろっているので俺は改めて礼を言う事にした。

「まず最初に、皆看病本当にありがとな。
 お陰で元気一杯だ」

「うむ、感謝するのじゃ」「へへへ」「美味しかったぞ」

 変な事が聞こえた気がするが無視だ。

「ポチから聞いたが明日帰るんだよな?」

「うむ、そうじゃ」

「朝ご飯食べたら出発だね」

「よし、話し合い終わり!」

 特に話と言う話は無く、言いたかった礼は言えたので満足。
 朝ご飯を食べて出発、特に朝が早いという訳ではないが、
 二日間も寝込んだ後なので無事に起きれるか少し不安だ。

「じゃあ夕飯食べに行くかのう」

「いいね~」「そうだな」

 それから皆で外を出て大きな肉を楽しく食べて
 宿に戻りゆっくりと眠りについた。

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