勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

ごろごろ

「なぁ、ポチ」

 まだ先の事はもう少し後から考える事にし、
 一度頭の中をリセットする為に俺は暇そうにしている
 ポチの事を手招きしてベッドに呼んだ。

「なんだ?」

 大人体形のポチがベットに上り、
 ギシギシと軋む音を鳴らしながら
 仰向けになっている俺の事を跨ぐ形で顔を覗き込んできた。

「もふもふ」

「この状態でか?」

 ポチが若干意地悪そうに口の端を上げて
 小悪魔の様に微笑みかけてきた。
 お姉さん体形のポチにそんな事をする勇気など
 当然チキンな俺にはあるわけない。

「そんな勇気俺には無いぞ、もふもふバージョンで頼む」

「ふっ、分かったよ」

 ポチの体が変形して何時もの愛おしい獣の姿のポチになり、
 仰向けになっている体に覆いかぶさって来た。
 幸いな事にポチの重さは羽毛並みなので重いと言う事は無い。
 モフモフの布団が覆いかぶさっている。

「あぁ……」

 全身でモフモフを堪能してあっと言う間に
 今まで考えていた事や悩みがちっぽけになって行き、
 頭の中を完全にリフレッシュ出来る。

『そういえば、戻るのは明日らしいぞ』

 ポツリとポチがそう言って来た。
 恐らく俺が眠っている間に聞いた事なのだろう。
 俺が二日間も寝込んでいた所為で大幅に予定がズレているのだろうが、
 俺の体が弱過ぎた為、仕方が無い事だ。

「そっか、明日か。じゃあ今の内に頼んでおくか」

『ん、何をだ?』

 此処を出て行くとなるとロウォイとの連絡を取るのが
 結構面倒臭くなるのは分かり切っている。
 だからと言って此処に拠点を移動させるわけにはいかないので、
 俺は何か簡単に連絡出来る手段は無いかと考えると、
 その解決策は直ぐに思い浮かんだ。

 それは骸骨さんに連絡係を頼むのだ。
 また頼み事で非常に申し訳ないような気もするが、
 それ以外に解決策があるとは思えない為仕方が無いのだ。

「骸骨さん、頼み事あるんだけど良い?」

「何なりと」

 一人の骸骨が姿を見せ、膝をついた。
 何度も思うのだがもう少し楽にして欲しいものだ。

「この前は全部任せてごめんな――頼み事なんだが、
 何人かアルデンに残ってさっき会っていたロウォイとの
 連絡係をやって欲しいんだが頼めるか?」

「承知いたしました。では此方に三人ほど残る事にします」

 骸骨さんは何の迷いもせずに、
 頼まれる前から答えは決まっていたかのように即答した。

「三人で大丈夫?」

「問題ありません、一人に何かあれば全員に伝わるようにできているので、
 例え一人だけ残る事になっても確り連絡係は果たせます」

「おぉ、頼もしいな。まぁ、一応三人でお願い」

「分かりました」

 姿を消すのを確認して俺は改めて
 頼りになる骸骨さん達だなぁ実感。

『なるほど……部下を使うとは考えたな』

 今まで黙って会話を聞いていたポチが
 少し関心した様な口調でそう言ってきた。

「それしか考え付かなかったんだけどね」

『さっきまで悩んでいたと思えば、流石だな』

「全部ポチのお陰だよ、本当にありがと」

 ポチのもふもふが無ければ今頃頭の中がグチャグチャになり、
 ロウォイとの連絡の事も思いつかないで後になって気が付いて
 面倒な事になっていただろう。
 それを回避できたのはポチが頭の中をリセットさせてくれたからだ。

『単純な男だな』

「手間のかからない男って言ってくれ」

 確かに単純なのかもしれないが、
 手間のかからないと言われた方が何だか良い気がする。

『こうして我も撫でられ気持ち良いのだから、
 感謝するのは此方も同じ、お互い様だ』

 そうは言っても8割程俺の方が良い思いをしているのだが、
 ポチがそう言っているのだがそういう事にしておこう。
 感謝して感謝される関係も中々悪くない。

 そんな事を考えたり喋ったりしてゴロゴロしていると
 楽しい時間はあっという間に過ぎて行き、
 気が付けば窓から夕日が差し込んでいた。

『ん、二人が目を覚ましたようだぞ』

「そっか、じゃあもう少ししたらご主人様に顔見せに行くか」

 流石はポチの気配察知だ。
 一応二人共女なので少しぐらいは身なりを整える時間が
 あった方が良いだろうと考え、少し時間を置くことにした。
 よくよく考えてみれば身形など全く気にしないに等しい二人だが。


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