勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

予兆

「――、――!?」

 目が覚めると俺の目の前には見知らぬ風景が広がっていた。
 まだ夢の中なのかと何度も強く瞬きを試みるが目の前の風景は変わる事は無く、
 その風景はより一層明確に目に映りだす。
 乾き切った大地がひび割れ、至る箇所にクレーターの様な窪みが幾つもあり、
 そんな大地に吹き荒れる突風、燃える様に熱く生命の気配は一切無い。

「――」

 声を出そうとするが音が一切出ず更に混乱する。

 何だ此処は、一体何が?

 そんな当然の疑問が浮かぶ。
 まるで生命が滅亡した後の世界の様な場所、
 目が覚めるとそんな事を連想させる風景が目の前に広がっている。
 俺は焦りながら意識を失う前の記憶を辿る。

 王女の事をナデナデした後に骸骨さんに後の事を全て丸投げして
 ポチの上に乗ってアルデンに帰った――その途中で眠りに落ち、
 気が付いたら荒れ果てた世界にいると言う訳の分からない状況。

 ……良く分からないぞ

「……」

 体が燃える様に熱いのだが、痛みに慣れてしまっている故に
 それは大した問題ではなく、今一番困っている事は
 声が出ない事と指先一つ動かせないことだ。
 唯一動かせるのは目と口。
 そして今俺の視点は物凄い事になっており、
 まるで神にでもなったかのように空に固定されており
 この朽ちた世界を見下ろしている感じだ。

 そう――これは夢だな。

 全くどういった状況なのかは理解できていないが、
 体が動かず空中に浮いている事からこれは夢だと判断した。
 昔、エリルスやヘリムが良く夢の中にやってきたのと同じ感じだ。
 つまり、これは現実の様だが夢であり何時か覚めるのだ。

「……」

 何もない大地を只々眺めているだけの時間。
 それは想像以上に退屈なもので非常に悲しい気持ちになる。
 そんな気持ちを抱きながら数分、数十分、数時間……
 まるで丸一日種を埋めたばかりの畑を見ている気分だ。

 一向に変化が訪れる訳でも無く夢が覚める訳でも無い。
 あまりにも暇すぎて俺は目を瞑り、
 夢の中で寝ると言う何とも言えないことをやろうと行動に移した。

 全く、何なんだよ今日は色々頑張って疲れたっていうのに……
 もう少し俺に優しくしてくれても良いだぞ。
 エリルスと言いヘリムと言い……ん、この夢は誰が?

 エリルスやヘリムが夢に入り込んでくるときは必ず
 真白な空間で何時も声やら姿が見えるのだが、
 よくよく考えてみれば今回はそれとはまったく異なり、
 場所も全然違い声も姿も無く異質な物だった。

「……」

 それに気が付いた時俺は冷や汗をかき始めていた。
 それと同時に微かだが声が聞こえて来た。
 俺は急いで瞑っていた目を開け声の主を探す。

「!」

 遠方に人型の影が二つあるのを発見し、
 目を凝らし一体何者なのか確認しようとするが、
 流石に距離がある為ぼんやりとしか確認出来ない。
 目を思いっきり見開いたり阿保のような事をしてみるが
 見えるはずも無く、素直に諦め自然と距離が縮まるのを待った。

 そして数分後にやっと姿を確認することが出来た。
 一人は真白な肌に肌と同じぐらい白いロングヘアの女、
 もう一人は同じ肌色と髪色をしている髪が短い男。
 二人共異常な程肌が白く、遠くからでもはっきりと分かる。

「……」

 俺はやっと生命を発見して喜びたい気持ちはあったのだが、素直に喜べずにいた。
 まだはっきりと理由が言える訳ではない。
 だが、その証明も時間の問題で距離が更に縮まる事で分かる事だ。
 やがて距離縮まり彼らの姿が確実な物へと変わっていく。

 肌や髪は遠方から見た通り真白だが、
 二人の瞳は真っ赤に染まり、そこに小さな魂が宿っているかのような
 炎の様な何かが燃えている。
 そして近づく前から感じていたが異様なまでの存在感。
 彼らが近づけば近づくほど空気がピリピリとするのが感じられる。

 明らかに只の生命では無い事は明確だ。
 生きてはいるが普通の生き物ではない。
 何かもっと特別な存在、その様に俺は感じた。

「S-230番、確か此処が集合場所と聞いていたのだが?」

「はい、僕もそう聞きましたがA-982番」

 二人は俺の丁度真下でそのような会話を始めた。
 まるで製品番号の様なのは名前なのだろうか?

「気配も何も感じない。後一分で約束の時間だが……」

「何かあったのかも知れませんね」

「時間通りに来なかった場合は私達だけで殲滅に向かう。
 それで良かっただろうか、S-230番」

「ええ、そうですね。でも僕達だけで上手くいくでしょうか。
 あっ、決してA-982番が頼りないとかじゃないですからね!」

「……?そう、時間ね。行きましょうか」

「……はい」

 全く会話の内容が分からないが、
 取り敢えず約束の時間に味方か何かがやってこない為
 仕方なく二人で何かを殲滅しにいくと……そういう事らしい。
 二人の正体が一体なんだったのか分からないが、
 それを確かめる術がない。

 俺は段々小さくなる二人の背中を見守って――

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