勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

酷い話

 未だ攻略者ゼロの未知の迷宮の最下層で、
 本来ならそこは墓場のはずだったが今現在は酒場と化していた。
 元勇者で現魔王の結達、大魔王とその一行、ライラ達とついでにゴリラの姿があり、
 皆持参してきた食べ物やら飲み物を出し合い騒ぎ合っていた。

 決して皆、悪ふざけをしている訳ではなく、
 毎年こういった騒ぎをして
 皆で笑顔を作りソラが寂しくない様にしているのだ。
 そんなお祭り騒ぎの中ヤミは一人その場から離れ、
 ソラの墓場の前にゆっくりと座った。

 ヤミの行動に皆気が付いているものの誰一人声を掛けようとはしない。
 皆この場では表に出さないが心の中で思い描いている事は同じだからだ。
 何故彼女が一人で動き出したのか何をするのかは、
 毎年の事なので誰一人止めはせずに気が付いていない振りをする。

「マスター」

 ヤミは手袋をはめている手を向け掌全体を墓に押し当てた。
 その手袋はソラの義手を隠す目的でヤミが選んだ手袋であり、
 ソラの形見としてヤミが貰っていたのだ。
 幼女体系だった頃は大きさが全く合わずぶかぶかだったのだが、
 年を重ねるごとにヤミの体は急成長して行き、
 今ではヤミの手は手袋にピッタリな大きさなのだ。

「私、大きくなったよ、強くもなった。
 まだマスターには勝てないかもしれないけど、
 五年前に比べたら遥かに私は強く成長したよ」

 ヤミはこの五年間心を閉ざし、
 親しい者意外とはコミュニケーションを取らずに
 只管強くなるために修行をしてきた。
 時にはライラに勝負を仕掛けたり、
 時には大魔王であるエリルスに勝負を仕掛けたり
 時には数週間一睡もせずに未開の森の中を探索したり……

 ヤミは此処に居る中で誰よりも自分を追い込み
 幼女と言う殻を捨て本当の彼女の姿になったのだ。

「私だけじゃない皆見違えるほど強くなった。
 マスターが戻って来る頃には皆マスターより強くなるかもよ……
 私頑張ってるから、マスターも頑張ってね、何時までも私は待っている」

 待っている。そうヤミはソラが正確には
 死んでいないという事を知っているのだ。
 エリルスから直接聞かされるまでは狂人の様になり
 全てを燃やし尽くす勢いだったが真実を知り、
 彼女はソラの為、強くなる道を選んだのだ。

 だが、この真実を知っている者は一部であり、
 此処に居るメンバーの中にも真実をしらずに
 ソラが本当に死んだと思い込んでいるのがもう一部。

「またね、マスター。次来るときはもっと成長してるからね」

 ヤミはそう言って立ち上がり皆の元へ戻り
 何事も無かったかの様に皆と一緒に飲み食いする。
 そして、次は奈央がこっそりと抜け出して墓に近付いて
 目の前で胡坐をかいて座り込む。

「なぁ、ソラ。お前も一杯どうだ?折角二十歳になったのに
 酒飲まねぇなんて勿体ないぞ」

 この世界では何歳からでも自己責任で酒は飲んで良いのだが、
 奈央達は二十歳からと決めていたのだ。

「ほれ、飲めよ」

 奈央は手に持っていた瓶を上に掲げて
 墓の上からゆっくり掛け始めた。
 この光景を結がみたら間違いなく叱られる。
 勿論、結は横目でみているのだが、今日は特別に見逃している。

「どうだ、美味いか?
 ……確かお前アルコール弱かったよな、
 こんな事したら直ぐに酔っぱらって大変だな……」

 ソラの事を思い出しながらそう呟いていると
 自然と涙が溢れだし誤魔化しきれないが、
 上を向いて涙を堪えた。

「全く……お前は何時も私を置いていく。
 少しは待ってくれても良いんだぞ、これでも寂しいんだ、ばか野郎――」

 奈央はそう言って瓶に残った酒を
 勢いよく喉に流し込み一気飲みした。

「っ――あぁ!またなソラ」

 奈央は涙が止まるのを待ってから皆の下へと帰って行った。
 それからもまた一人一人と、一人ずつソラの墓の前に行き
 何かを語り掛けては帰って来ていた。

 ちなみに奈央はソラが本当に死んだと思い込んでいる一人だ。
 真実を知っているのは大魔王を含め魔王達とライラ達だけだ。
 それ以外の元勇者現魔王の奈央達やゴリラはソラが死んだと思い込んでいる。
 何故、真実を知っている側と知らない側に別れているのかと言うと、
 それは、もう酷い話だが――エリルスの伝え忘れだ。

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