勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

五年と大魔王様

 ソラの命が散ってから丁度今日で五年。
 ソラ自身生まれ変わってから何年の月日が流れたのかは把握出来ておらず、
 何時も通り変わらずに過ごしアルデラにやって来ていたが今日は命日なのだ。
 五年の月日が経ち、ソラが変わったように
 皆も自らの意思でそれぞれの道を歩み変わっていった。

 魔王城の円卓部屋に三つの影がある。
 一つは薄暗い部屋の中だと言うのにもかかわらずに
 輝いているかのような銀髪をしていてその髪は腰の辺りまで伸びている。
 そして、見るものを全て魅了する紫目。

「はぁ」

 彼女こそ、この魔王城の主、大魔王エリルスだ。
 エリルスは椅子に腰を下ろしており、
 不機嫌そうに溜息を吐き円卓を指で一定の間隔で叩いていた。
 五年と言う月日が経ち容姿も変わったが一番変わったのは
 彼女の特徴的な喋り方だった。

「状況はどうなっている?」

 今の彼女の口調からは語尾を伸ばすと言うのが消え、
 一言一言に力がこもっており大魔王の威厳を感じさせる。

「はっ、敵の数はおよそ三千。
 現在この魔王城に向かって進行中で
 この調子で行けば数時間後には辿り着くでしょう」

 今の大まかな状況を報告したのは
 エリルスの向かいに立っているスキンヘッドの隻眼の魔王。
 彼の顔には五年前よりも傷が増えより一層厳つくなっている。
 主に作戦を考えている魔王ウィルライアだ。

「三千?たったそれだけの兵で我々と戦おうと言うのか?
 ふざけるなよ、それ如きで大切な日が潰されるだと!?」

 ウィルの報告を聞き、エリルスは憎悪に満ち溢れ震えた声を発した。
 部屋全体が殺気に呑まれ、二人は顔を歪める。
 彼女が此処まで怒っている理由は、
 大切な日、即ちソラの命日に墓参りに行こうとしていたのだが、
 それがある国の進軍の所為で潰されたからだ。

 それともう一つ理由があるのだが、
 前者と比べると小さな事なのだが昨夜から
 何やら知っている感覚に襲われているのだが、
 その感覚が何なのか思い出せずにイライラとしているのだ。

 エリルス自身、正確にはソラは死んでいないことは誰よりも知っているのだが、
 それでも毎年命日になると魔王城から抜け出して墓参りに行っているのだ。
 大魔王と言う立場上、そう簡単には墓参りに行けずに
 一年に一回と言うとても大切な日を邪魔されたのだ。
 当然怒りや殺気と言うものが湧いてくる。

「グウィン!」

「は、はい!!」

 昔エリルスに頭を鷲掴みにされていた
 黒髪青肌の魔王グウィンが名前を怒鳴られ
 飛び跳ねながら慌てて返事をした。
 彼は今も昔も大して変わっていないのだ。

「今回の戦いはアイとお前でどうにかしてくれ。
 我は状況を見てから行動する」

 グウィン達に任せて一人で墓参りに行くと言う考えはあるが
 それでは城を留守にしてしまい万が一があった時に
 対処できない為良く状況を見極めてから判断する必要がある。

「分かりました、今すぐアイと共に向かいます」

 余程エリルスの事が怖いのか慌てて部屋から飛び出し
 アイを探しに行ったグウィン、そんな後ろ姿を見て
 ウィルはやれやれと肩をすくめた。

「大魔王様、城の事は任せて墓参りに行ってはどうでしょうか?」

 ウィルは何故大魔王が此処までいらついているのかは
 分かっている為、気を利かせてそう言ったのだが、
 彼女の答えは

「墓参りに行きたいと思っているのは我だけではない、
 ヴェラやローズ達、そしてお前も本当は行きたいのだろう?」

「それは――」

「それに、毎年墓参りは全員で行っていただろ、
 我一人だけではソラも悲しむ」

「そうですか……ならばこの戦いを終わらせて皆で行きましょう」

「ああ、そうだな」

 エリルスの言葉を聞いてウィルは流石大魔王様と
 心の中で感激していたが、彼女の心の中では

(今すぐにでも行きたい、我がソラを一番に思っているのだぞ、
 お前達よりも遥かにな!)

 と叫んでいるのだが、大魔王と言う立場上
 そんな事を言える訳無いので心を鬼にして押し殺した。
 五年前のエリルスのマイペースさが残っていれば
 それが可能だったろうが彼女は変わってしまったのだ。

「……少し気分転換してくる」

「はい、いってらっしゃいませ」

 エリルスが椅子から立ち上がり、
 部屋から出て行こうと足を踏み出した瞬間、

「っ!?」

 ドクッと全身が震えあがるほど心臓が強く波打った。
 思わず円卓に手を付いて体を支える。

「どうしました?!」

「……我は知っている」

「え?」

 エリルスを襲ってきたのは昨夜から感じている
 知っている感覚、それが強くなって襲ってきたのだ。

「この感覚は」

 同時刻、ソラが人獣の王の城で戦いを始めていた。

「ふふふ、そうかそうか……」

 突然笑い出したエリルスの事を心配して
 ウィルは慌てて駆け寄り状態を確認する。

「大丈夫ですか、大魔王様」

「……グゥインとアイに伝えておいてくれ、
 やっぱりこの戦いは我が出ると」

「は?それは一体――」

 ウィルが疑問の声を上げようとしていたが
 エリルスはそんな事は聞こえないとばかりに歩みだした
 その足取りは軽く、今にもスキップをしそうな程だ。

(ソラ~もう少しで会えるんだね~)

「あ、あの大魔王様?」

「それじゃあ頼んだよ~」

 エリルスは転移を使って姿を消し、
 その場に一人取り残されたウィルはポカーンと
 口を開けて唖然としていた。

「いま、大魔王様の口調が……はっ!」

 直ぐに我に返りグゥイン達が出発する前に
 先ほどの事を報告しなくてはと思い、
 ウィルも急いで部屋を飛び出した。


 その後、三千の兵が跡形も無く消え去ったのは
 語る必要も無いだろう。

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