勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

王女

 今は無き人獣の王の城の様な場所に戻って来ると
 早速俺はポチに案内を頼んでイシア達が居る部屋に向かった。
 此処に帰って来る際、ふと転移を試してみようかと考えたのだが、
 ポチのモフモフの誘惑には抗う事が出来ず、
 少しでもモフモフを楽しめる方を選んだのだ。

「あっ、ソラ君此処に来たって事は終わったのよね」

「ああ、終わったぞ」

 ポチに案内された部屋に入るとそこには
 既に治療を終え世間話をしているイシア達がいた。
 妖精族の子の腕もしっかりと治っており、
 流石は王直属うんたらだと感心した。

「治療を終えたばかりなのに悪いんだが、ちょっと頼みがあるんだが」

「頼み?」

「ああ、イシアと言うより妖精族の王、王女様にだけどな」

 俺はそう言って椅子に座っている王女に視線を向けた。
 それを警戒して護衛の二人の体が反射的に動き出すが、

「いい、二人ともあの人は良い人。
 私の事を二度も救ってくれてる、命の恩人」

 王女が椅子から腰を上げ二人を止め此方に歩み寄ってきた。
 この体の俺が言える事では無いが改めて見ると
 本当に幼く、よく王女様なんてやっていられるなと感心する。
 内政とか良く分からない俺と比べれば遥か高みにいる。

「まさかあの時の君が妖精族の王女様だったなんて驚いた」

「てっきり貴方は死んだとばかり思ってた。
 でも生きていた、しかもあの凶暴な獣を手懐けているなんて
 生まれて一番驚いたかもしれない」

「ははは、大げさだな」

「ありがと、すくってくれて」

 ……何だかこの王女様を見ているとヤミを思い出すな。

 正確には手懐けた訳ではなく契約しているだけなんだが、
 態々そのことを修正する必要は無いのでそのまま流す。

「早速本題に入るんだが、妖精族の国でエルフ達を匿ってくれないか?
 全員治療は住んでいるがまだ心までは治っていないんだ
 治るまでの数週間で良いから頼めないだろうか」

 これは頼んでいる様だが実は相手に拒否権など無いのだ。
 正直、此処に来るまでは王女の事は叱りつけてやろうかと思っていたが、
 人獣の王をぶっ倒したらその気は晴れ、どうでも良くなったのだが、
 この際だから今の立場を利用して頼みを半強制的に聞いてもらう作戦に出た。

「そ、それだけで良いの?」

 イシアからある程度の事情を聞いたのだろうか、
 王女も何かしらの要求はされると覚悟していたのだろう。
 それなら先ほどの護衛が目線だけで敏感に反応したのも納得できる。
 だが、俺からの要求は余りにも見返りが無さすぎ驚いた様だ。

「ん、そうだな」

 こういう時は何も要求されないよりかは
 何か要求された方が裏があるのではないかと考えなくてすむので良いのだろう。
 と言っても何を要求すべきか悩んでしまう。

「少し、考えさせてくれ」

「ん、分かった」

 俺は自分だけでは要求が浮かばないので
 後ろで待機しているエキサラ達にも意見を求めた。

「何が良いと思う?」

「ソラの好きな事を要求すれば良いのじゃ」

「うんうん、ソラ君の好きな事を要求すればいいじゃないかな?」

『いっそ命でも要求すればどうだ』

「……じゃあ、好きにやらせてもらうね」

 ポチは兎も角、皆俺に任せるようだ。
 俺は再び王女の方を振り向き、距離を縮めた。

「じゃあ、もう一つの要求を言うぞ」

「う、ん」

 小さな要求の後に大きな要求が来るのでは無いかと
 この場に居る皆が思っている事だろう。
 皆の表情が固くなり緊張感がピリピリと伝わってくる。

「王女様」

 俺の要求は皆が思っているよりも大きくは無いが小さくも無い。
 護衛達にとっては物凄く大きな事なのかもしれないが
 決して誰かに迷惑を掛ける事では無い。
 俺が望む要求は――

「頭を撫でても良いか?」

「え?」

 流石にこれは引かれているのかもしれない。
 何故俺はこんな要求をしてしまったのかと言うと、
 それは

「王女様を見ていると、大切な人の事を思い出しちゃってさ
 何だか撫でたくなってくるんだよ。別に断ってくれても良いんだけど」

 王女の事を見ているとヤミの事を思い出してしまい、
 ヤミ達にやっていた様に頭を撫でてみたくなるのだ。
 それが俺が思いついた要求だ。
 これは決して強制ではないし嫌なら断って欲しい。

「良いよ、ん、撫でて」

 てっきり断られるかと思っていたが、
 意外にも王女は顔を少し赤くして俯き、
 恥ずかしそうに頭を差し出してきた。
 王女の後ろに居るイシアや護衛達がわーわー言っているがそんな事は無視して
 俺は彼女の頭に手を置いて優しく撫で始める。
 勿論、ポチから降りた状態でだ。

「ん、ん」

 撫でていると王女が可愛らしい声を上げ始めた。
 撫でている感想なんだが、物凄く可愛い。
 ヤミの事を思い出し若干悲しい気持ちになるが
 その悲しさを贄として早くあちらの世界に帰ると言う強い意志が生まれる。

「ふう、もう満足だ。ありがとな王女様」

 数分間撫でていたのだろう。
 王女の後ろにいる護衛が物凄い羨ましそうな表情をしていた。

「撫でるの上手、気持ちよかったよ」

「そっか、俺も気持ちよかったよ。
 じゃあ、もう一つの要求通りエルフ達を頼んだぞ」

「うん、任せて」

「イシアとリヤイ、短い付き合いだったが楽しかったぞ。
 恐らくもう出会う事は無いだろうが強く生きろよ。
 後で此処に俺の仲間がエルフ達を連れてくるからよろしく頼む」

 俺はちょっと格好つけてそう言い残して部屋から出て行った。
 匿ってくれる事を伝えに骸骨さん達の下へ一度戻り、
 俺は後の事は全て骸骨さん達に任せてアルデンに戻る事にした。
 正直な事を言ってしまうと、もう体力の限界でクタクタなのだ。
 現に今もポチの上で力弱く乗っているだけだ。

 骸骨さん達はとても優秀なので心配する必要はない。
 きっとうまい事やってくれると信じて俺は
 疲労に押しつぶされて眠ってしまった。

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