勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

きョうき

 ヘリムが少し後ろに下がった事を確認し、
 ソラは軽く息を吐いて心を落ち着かせ
 先ほどまで抑えていた殺意を解き放ち殺気を発動する。
 頭の中が真白になりそれが殺意となって真っ赤に染まっていく。
 ドクンドクンと心臓の波打つ音が聞こえてくる。

「うるせぇなァ」

 自分の鼓動がうるさく感じソラは力強く
 服の上から左胸を鷲掴みにして抑え込む。
 ギチギチと爪が服を貫き皮膚へと到達し傷を付ける。
 やがて傷が深まっていき血が滲み始めるが

 ソラは痛みなど滅多に感じない為、
 その様な事は一切気にせずに抑え込む。
 だが、一向に心臓の音は収まらずに沈黙の部屋に鳴り響いていた。

「あァ?」

 そこでやっとソラは気が付いたのだ、
 既にアンデットである自分の心臓が動いているはずも無く
 鼓動など聞こえてくるはずも無かったのだ。
 それに気が付いたソラは目障りな音を消すために
 一番近くに居るヘリムに狙いを定めたが、

「っ!くそっ」

 突如脳に激痛が走り思わず悶える。
 滅多に痛みを感じないはずだがその痛みは特別な物だった。
 それが出来るのはかなりの力の持ち主かソラ自身。
 ヘリムなら可能だが今回は一切手を出していないのだ。

 つまり、激痛の正体はソラ自身。
 微かに残っていたソラ自身の意識がそれを阻止したのだ。

「流石はソラ君だね、そこまでして僕を守ってくれるなんて
 全く、ソラ君たら可愛いんだから」

「……ちッ」

 全く緊張感のない発言をしているヘリムを見て
 流石の今のソラでも殺意の対象にはならずに
 呆れた表情で本来の標的である人獣の王にずらした。

「あぁ、そうだァ、お前だお前ェ……お前ェ!」

「くっ!」

 人獣の王の姿を認識した瞬間に更なる殺意が体中から込み上げ、
 ソラは何の考えも無しに殺意に身を任せて突っ込んで行った。
 武器を持っていない為ソラは拳で殴り掛かったのだが――

「あァ?」

 予想以上に王が身に纏っている鎧は硬く、
 殴り掛かったソラの拳はグチャグチャになっていた。

「どんだけ硬ェんだよ」

 だが、グチャグチャになっていたとしても
 それは直ぐに何事も無かったかのように復活する。

「な、何なんだよ化け物!!」

 先程の拳の影響で壁に激突していた王が
 痛みに顔を歪めながら立ち上がりそう言い放った。

(ありえない、あの回復速度は一体なんなんだ?!)

 たった今、目の前で起きた不可解な現象に
 そう叫ばずには居られなかったのだ。

身体強化リインフォースメント・ボディ

「ひっ……お、おい、何をした?」

 一瞬でソラの力が膨れ上がったのを感じた王は
 思わずその場に尻もちを付いてしまった。
 少しでも気を抜けば殺気にやられてしまう為
 正気を保たなくては行けないが、

 目の前の化け物の圧倒的な力を前にして
 もう心が砕けそうになっていた。
 いっそもう死んだ方が楽になるのではないかと
 そんな事も思い始めていた。

「こんな、こんなはずじゃなかったのに……」

 王は察していた、確実に殺されると
 それも普通の殺し方ではない方法でと。

(こうなったらいっそ――)

 ソラに殺されるよりは自害する方がマシだと
 そう覚悟した王は短剣を取り出し素早く自分の首元に
 刃を持っていき歯を食いしばって腕を動かした――が

「おい、おい、そんな事させる訳ねェだろォ」

「なっ……」

 強化されたソラの体は一瞬で王のもとへと接近し、
 今にも自害しようとしている腕を掴み宙に持ち上げたのだ。
 そして、力を込め――

「アァアアァァアアア!!」

 身に纏っていた鎧事握りしめ圧し折った。
 断末魔の様な悲鳴が木霊するがそんな事は気にせずに
 折れた腕を乱暴に放し手から離れ地面に転がっている短剣を
 発見し不気味な笑みを浮かべて拾い上げた。

「なァ、選ばしてやるよォ
 楽に死ぬか、苦しんで死ぬかどっちだァ」

 ソラは倒れて激痛に悶えている王の顔の近くに腰を下ろし、
 どっち道死ぬ選択肢を選ばせた。

「ら、楽に……」

「おォ、そうかァ、なら質問に答えろ」

 そう言いソラはポケットからロケットペンダントを取り出し、
 中身の写真を王の顔の前にぶらつかせた。

「見覚えあるかァ?」

「し、知らない……だ、だが!
 エルフの子供なら奴隷として――あぁああああ」

「……」

 ソラは王の言葉を遮るようにして
 ペンダントをしまい折れた腕に短剣を突き刺した。
 それ以上は聞かなくても分かっているからだ。

 流石は王の持ち物と言ったところだろう。
 あれだけ硬かった鎧でも確りと突き刺さる。

「な、何故殺してくれない!」

「うるせぇよ、お前」

 この瞬間から何故かソラの意識が戻っており、
 今の発言は紛れも無く本人の意思だった。
 戻ったと言うよりは狂気と一体化したのだ。
 実際にソラ自身、意識が戻っている事に気が付いては居ない。

 鋭い刃物をイメージし具現化させ、
 それを軽く王の上に放り投げタイミング良く

重力操作グラビティコントロール

 短剣に圧が掛かり勢いよく下にいる王に突き刺さる。

「ぁああああ」

「……」

 それからもソラは無言で短剣を幾つもイメージし具現化、
 そして投げつけて重力を掛ける。
 王の体には無数の短剣が突き刺さり大量の鮮血が流れていた。
 確りと急所を外している為そう簡単には死ぬことは許されず
 出血多量等で死を待つしかない状況だ。

「あ――ぁあ……」

 目は潰れて視線は完全にブラックアウトしており、
 どこを見ているのかは分からないが
 何処かに助けを求めて声にならない声を漏らしていた。

「さて、仕上げだ」

 虫の息になっている王の腕を掴み、
 勢いよく短剣を振り下ろし肩からしたを切り落とす。

「ぁ――!」

 一応まだ痛みは感じているらしく
 少しだけだが抵抗して見せた。
 だが、ソラは無慈悲にもう片方の腕も切り落とし
 両足も何の躊躇いも無く切り落とした。

 止血など当然していないので
 大量に血が溢れだし真っ赤な海へと変わって行く。

「これはあの娘と親の分だ。
 地獄におちろ糞野郎」

「――」

 もう死んでいるのか生きているのか良く分からないが
 ソラはそう言い残して王に背中を向けた。

「ソラ君だよね?」

「ん、ああ、うん……俺だな」

 やっと自分の意識がある事に気が付いたソラは
 きょとんとした顔をしていた。

「つまり、あれは俺自身がやったことなのか」

「そうみたいだね、流石ソラ君だよ」

「ははは……」

「さ、皆の所に行こうか」

「ああ」

 例え加護の影響だとしてもあんな事をして
 何の感情も抱いていない自分を少し恐ろしく思いながら
 ソラは皆の下へと向かった。

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