勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

城内

「ん~此処からは俺がやろうかな。
 骸骨さん達、此処まで護衛してくれてありがとな。
 後は俺がやるから休憩してていいぞ」

「はっ!」

 城に足を踏み入れた俺はそろそろ自分の能力が戻っているのかを
 確認したかった為骸骨達にそう言ってこれ以上
 人獣共を無力化させるのを止めさせた。
 これで次出会う人獣は俺の獲物となったのだ。

 城の中も外見と同じように立派な内装で、
 入り口から純白の絨毯が敷いてあったが容赦なく
 血の付いた足で上がり込む。
 ポチの上に乗っている俺には付いていなく、
 汚れないポチのあしにも血は付いていないのだが、
 ヘリムとエキサラやイシア達の靴裏にはべっとりと付いていた。

 全員女子なのだが、キャーとはならずに
 いくら血が付こうが全く気にする素振りは見せなかった。
 ヘリムやエキサラは兎も角、
 妖精族の二人はこういう事はなれているのだろうか。

 そう疑問を抱いたのだが、その疑問は直ぐに消え去った。
 イシア達が血の付いた靴を堂々と絨毯に擦りつけて
 綺麗に血を拭きとっていたのだ。
 その動きには何の躊躇いも無く慣れているのだと分からされる。

『この先に二人いるぞ』  

「了解……さてと」

 城の中を探索して中央から階段を登り
 一本道を歩いているところでようやく城内で初めての敵との遭遇だ。
 実際にはまだ見えていないのだがポチがいう事は信用できる。
 ヘリムとエキサラも気配を感じている様で少し警戒していた。
 イシア達は気が付いていない様だが。

「ソラ君の力がまた見れるなんて、僕は嬉しいなぁ!
 他の女の手でって言うのは悔しいけどね」

「なんじゃ、嬉しい事なのかのう?」

「うん!ソラ君ってすっごく強いんだよ?
 まだ成長途中で到底僕には及ばないけど
 成長すればきっと手も足もでない位になるよ!
 後ね、ソラ君って容赦なく殺すから見てるこっちもすっごく
 気分が良くなるんだよね!」

 まだ確実に使えるとは限らないのだが、
 ヘリムはエキサラに変な事を言い始めた。

「こらこら、俺が殺人鬼みたいに言うなよ。
 あれはエリルスの加護が原因……」

 まさかとは思うのだが加護まで戻っているなんて事は無い……
 自分で言ってふとそんな事を思った。
 だが、今日の出来事を振り返ってみると、
 死体を見ても大して感情が揺らぐ事が無かった事を踏まると 
 その可能性がゼロではないという事がわかる。

「どうしたんだい?」

「いや、何でもないよ……
 取り敢えず殺気から試してみる事にしたよ」

 気を取り直して今からやってくる二人の敵の対処を考え、
 取り敢えず殺気を最初に使ってみることにした。
 殺気ならば遠距離からでも効果がので失敗した時の対処も
 どうにかできるので此処で殺気を使うのは一番の得策だろう。

「ふぅ~」

 大きく深呼吸をして昔の感覚を思い出して
 まだ誰の姿も映っていない前方に目掛けて
 あのショタ神を憎むつもりで激しい憎悪の感情を向ける。

『ほう』

 当然ながら殺気など目に見えるものでは無いので、
 なんの変化も現れないがポチが感嘆の声を上げた。

「成功したのかな?」

『ああ、死ぬまでは言っていないが気絶はしているぞ』

「まっ、そんなもんだよな」

 無事成功して口ではあまり喜んではいないが、
 今俺は物凄く嬉しい気持ちで一杯なのだ。
 早く次のスキルも試してみたい。

「あ、あのさっきから何の事を話しているのよ……」

「ん、この先に敵がいたから倒したって話だよ」

「ああ、なるほど……って!……いいえ、驚かないわよ!」

 一体彼女は何と戦っているのだろうか。
 突然一人で驚いたかと思うと次は、はっとした表情で
 此方をジト目で見て来た。

「あっ、そうだ。骸骨さん達、休憩中悪いんだけどさ
 此処の王様が何処に居るか探してきてくれない?
 護衛とかは殺しても問題ないけど王には手をださないでくれ」

「御身の御心のままに」

 突風を立て――

「さて、行くか」

 気絶している人獣共を無視してそのまま一本道を進み階段を登る。
 所々にある壁画がとても趣味が悪く見ていていい気分には慣れない。
 そんな壁画にこっそり鼻くそを付けながらも進んでいると

『次の曲がりで五人』

「了解、次は爆発エクスなんたらつかうか」

 自分で決めたハズの呼び名をすっかり忘れてしまった。
 まぁ、仕方が無いと自分に言い聞かせて気持ちを切り替え、
 広範囲のスキルを使用する。
 曲がる前に曲がり角目掛けて少し控えめに発動する。

 ボン!と大きめな音のあとに微かに焦げた臭いが漂ってくる。

「すごいねえソラ君、確り使えてるね!」

「ああ、今のところは全部使えてるな、……」

 ヘリムとそんな会話をしながら曲がり角を曲がると、
 無残にもはじけ飛んだり焦げたりしている死体が転がっているが、
 俺はそんな死体を見ても何も感じる事は無かった。
 やはり加護が戻っていると考えて良いのだろうか。

「なんじゃ、悩み事かのう?」

「いや、大丈夫だよご主人様。さぁ、行こうか」

 それからも道を進み続けとある大きな扉の前に辿り着いた。
 あきらかにこの先に何かあると言っている様な扉だ。
 そこの扉を開けようと近づくとタイミングよく、

「この先で王を発見しました、護衛らしい二人は始末済みです」

 扉の前に姿を現した骸骨さんが出てきたのだ。

「うん、ごくろうさま。次こそ本当に休憩していていいぞ」

 骸骨の姿が消えるのを確認して俺は
 ポチの上から扉に手を掛けた。

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