勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

妖精族の王と人獣の王

 巨大な壁画があり、扉の裏表には屈強な人獣の兵士が二人ずつ立ち
 部屋の中央にある円卓を囲んでいる4つの影があった。
 一つは扉から見て奥に座っている人獣の王だ。
 立派な獣耳が生え、その顔は屈強な兵士とは違い
 比較的に整っていて一般的にイケメンと呼ばれる顔つきだ。
 立派な鎧に身を包み一見どこかの貴族の坊ちゃんかと思うが、
 これが現在の人獣達の王なのだ。

 見た目はイケメンだが、そんなのに惑わされてはいけない。
 上面だけなら誰でも化ける事は可能だ、重要なのは中身であって性格。
 そう、この人獣の王は最悪な性格なのだ。
 そんな人獣の王と向かい合う形で座る一つの影。
 それは妖精族の王と呼ばれる小さな少女の姿。

 綺麗な赤目に肩に垂れかかっている手入れが隅々まで行き届いている
 綺麗なブラウン色の髪の毛、整ったパーツ。
 大きくなればさぞかし綺麗な女性になるのだろうと容易に想像できる。
 小柄な彼女の事を一見人形かと思ってしまうほどの可愛さだ。
 彼女の背中には本来精霊族にある羽が付いていないのだが、
 これは無いという訳ではなく、見た目通り中身も幼い彼女の場合は
 まだ成長しきってないので生えて来てないだけなのだ。

 そんな人形の様な彼女の左右に二つの影。
 両者とも成人なのだが見た目は小柄で中学生ぐらいの身長だ。
 一人はボブカットのクリーム色の髪の毛にクリッとした青い瞳。
 もう一人は前者とあまり変わらないが髪の色だけが異なりブラウン色だ。

 瓜二つの彼女等は見ての通り双子なのである。
 何方も実力は確かで普段は軍の指揮官として働いているのだが、
 少し前に妖精族の王と護衛が大きな獣に襲われ、
 護衛は全員死亡すると言う大事件があってからは王の周りには
 かなりの実力者が付き添うようになったのだ。

「貴女方のお陰で家畜エルフ共が順調に集まってきてますよ
 本当にありがたいことですね」

 人獣の王が口を開きそんな事を言った。
 エルフを家畜としている時点で分かると思うが、
 本当に性格が屑そのものなのだ。
 こんな屑あいてでも妖精族の王は決して表には出さずに
 心の中で怒りを鎮める。

 此処で怒りを表に出せば資金援助の話が水の泡になってしまう。
 もう引けないところまで来てしまった彼女たちは
 心を鬼にしてこの屑とこうして向き合っているのだ。

「そうですか、ならもうそろそろ私達の軍は引いても良いでしょうか?」

 幼いながらも確りとした言葉遣いで
 屑相手にも拘わらず丁寧にそう発言する。

「何を言っているのですか?
 全ての家畜を集め終わるまで駄目に決まっているのでしょう」

「っ……」

 妖精族の王を含めその場にいる三名が
 目の前に居る屑に対して憎悪を抱いたが
 必死にその感情を噛み殺した。
 その反応に気が付いている人獣の王はニヤリと笑った。

 契約を交わしている以上、此方に逆らう事は出来ないと
 知っている彼は厭味ったらしく彼女の側近の話を切り出す。

「そういえば、貴方の近くに何時もいたあの消耗品は戻ってきましたか?
 全然連絡が取れなくて随分と心配していたようですが。
 ……確かイシアと言いましたっけ?
 いやぁ、お気の毒に今頃はきっと魔物共の餌となっているでしょうね」

 半笑いでそう言われ、彼女達の心情は怒りで染まっていた。
 特に妖精族の王である彼女にとっては姉の様な存在だった
 イシアの消息不明は物凄く不安を与え、
 まだ見つかったと言う訳でもないのに死亡扱いにされ、
 しかも大切な彼女の事を消耗品と呼ばれ、
 小さな体には見合わない程の殺意が沸きあがってきた。

「そ、うですね、でも、絶対に生きてます!」

 怒りを噛み殺しながらもそう口にする彼女の姿は
 心が痛むほど痛々しく思わず目を逸らして耳を塞ぎたくなる。

「ほぉ、生きていると?なかなか面白い事を言いますねぇ?
 あれだけいた軍の一人とも連絡が取れないこの状況で?
 ははははは、本当に面白いですねぇ」

「……っ」

 一人で高笑いをしている屑の事を耐えきれず思わず力強く睨み付けてしまう。
 その目に気が付いた屑は高笑いをピタリとやめ
 声のトーンを低くして彼女たちに

「何ですかその目は?歯向かうつもりですか?
 ふふふ、良いですよ別に、此処で貴女方が幾ら殺意を向けようとも
 魔物が近くに居ない時点で貴女方に出来る事は無いんですけどね
 ほら、掛かって来ても良いのですよ?」

「貴様っ――いい加減にしろ!」

 思わず双子のクリーム色の姉の方が殴り掛かる。
 確かに妖精族にとって魔物は強大な戦力だが、
 彼女はかなりの実力者の為例え魔物が使えなくとも
 それなりに戦えるのだ。

 だが、そんな彼女の拳は届く事なく、
 代わりに彼女の腕が宙を舞った。

「全く、此処は僕の城ですよ?何の警戒もせずに突っ込んでくるとは
 流石は消耗品共ですね」

 円卓の下には鋭利な刃物が仕込まれており
 それが発動し彼女の腕を切り離したのだ。

「くっ……」

「良くも姉さんを!!」

「煩い消耗品共ですねぇ、お前達やってしまいなさい」

 待機していた二人の屈強な兵士達に命令をだし、
 双子を始末しようとしたのだが、一向に動く気配が感じられなかった。

「ん?どうしたのです――これは……」

 不思議に思い声を掛けた瞬間に屈強な兵士達が
 なんの悲鳴を漏らさずに首がズレ落ち、それに続いて
 体も地面に倒れたのだ。

 そしてそれに続くように乱暴に扉が開かれ――

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