勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

裏路地

 出店と出店の間にある裏路地に足を踏み入れると
 そこは先ほどまでいた通りとは全く異なる別世界が広がっていた。
 左右の建物の壁と壁の間が非常に狭く、屋根も擦れ合いそうな程近い。
 その為、太陽の光など一切入って来ることは無く、
 昼間なのに薄暗くじめじめとしており森の中と大して変わらない。

 俺とポチはその狭い路地を進み、
 何故かある数段の階段をおりて路地が続いている左に曲がると、
 建物と建物の間隔が三人が並列で並んでもギリギリ通れるぐらい
 空いており、ここで良いだろうと判断したポチが足を止めた。

「此処なら着替えても問題無いだろう」

「そうだな、つか別に今着替える必要なくないか?」

「はぁ、ソラは何も分かっていないな」

 呆れたような表情で此方を見て溜息を吐くポチ。
 大人っぽくなった所為かそんな仕草でも
 少しだけドキリとしてしまった。

 あれかな?子供が玩具買ってもらった時に
 今すぐにでも遊びたい!的な衝動に駆られているのかな?
 なら仕方が無いだろう。俺にだってそういう衝動はあった。

「ちっ」

「え、ごめん?」

 そんな事を考えているとポチがいきなり舌打ちをしたので、
 もしかしたら考えていたことが声に漏れていたのでは
 と思い、思わず疑問形になったが謝ってしまった。

「何故ソラが謝るんだ……あれを見ろ」

「あ、俺じゃないんだ……ん」

 良かったと、安堵しつつポチに言われた通りに
 視線をずらすとそこには見るからに
 ガラの悪い二人組の男がオラオラと歩いて来ていた。
 一見、人の様にも見えるが左の男には角が出ており、
 右の男は外見は耳がとがっているだけでエルフに見えるが、
 左の男と会話する際に口を開いたのだが犬歯が異様に尖っていた。

 そんなガラの悪い二人組を見て俺は確実に絡まれると
 自分の数秒後の未来を想像して心の中で二人組に手を合わせた。
 だが、まだ間に合うかもしれないと思い俺は行動に移す。

「ねぇ、ポチ、戻ろ?」

「何でだ?」

 ポチの手を引っ張って歩いてきた道を
 引き返そうとするが、ポチはピクリとも動いてくれなかった。
 そして、その瞬間は訪れる。

「なぁ、そこの姉ちゃんよぉ」

 右側の男がポチに向かって物凄く噛ませ犬らしい声を掛けた。
 ポチは眉一つ動かさないで表情一つ変えていなかった。
 そんなポチを見て何故行けると思ったのか
 男は次の行動へと移した。

「俺達と遊ぼうぜ?金ならあるからよぉ、なぁ?」

 聞いている此方が目を瞑りたくなるほど
 典型的なナンパを目の当たりにして
 物凄く笑いたかったが我慢する。
 そんな俺の存在に気が付いたのか、
 今までポチしか見ていなかった二人の男が此方に視線を落とした。

「奴隷か?」

「おいおい、しかも人間の奴隷かよぉ
 なぁ、姉ちゃん一緒にこいつ痛めつけようぜぇ?」

 へっへへと笑いながらそんな酷い提案を持ち掛けた。
 表情には出さないが今の一言で俺の心は結構傷ついていた。
 人間の奴隷と分かった瞬間に痛めつけようって……酷い。
 そんな俺の気持ちが伝わったのか、顔を上げると
 さっきから人形の様に無表情だったポチの眉がぴくぴくと動いていた。

「へへっへ、おらよっ!」

 それは突然の出来事で、左の男の足が顔面目掛けて飛んできた。
 気が付いた時には靴の裏が目の前まで迫ってきており
 当然、避けようと脳が命令を出しても体は追い付かずに
 野郎の蹴りは俺の顔面に捻じ込まれる。

 一瞬、鼻が曲がる様な感覚を感じ、
 勢いよく後方へと吹き飛び建物の壁にぶつかる。
 握っていたポチの手は振り解け、
 無を握っているポチの手は強い力で拳を握っていた。

「はっは!気持ちいな、おい!」

「――が」

「ん?なんか言ったかぁ姉ちゃんよぉ」

「誰が我のソラに手を出して良いと言った――っ!!」

 一体俺が何時からポチのものになったのかと言う
 疑問を問いかけたいのだが、今は止めておこう。

「ひっ」

 男達の顔色がみるみる内に変わっていき、
 後ろからでは確認出来ないが、
 恐らく、ポチが物凄い形相になっているのだろう。

「な、何だぁその面はよぉ!!」

 右の男がビビりながらもポチに歯向かっていった。
 ビビりすぎて判断が出来なくなってしまったのか、
 どうでも良いが、男の勇気に乾杯。

「――っあ?」

 歯向かって行った男の腕が宙を舞い、
 情けない声が男から漏れる。
 そして、大量の鮮血が飛び出ると同時に、

「ああああぁあああぁああああ――っ!!」

「ひいっ!」

 男が尻もちを付いて叫び声を上げ、
 そんな野郎にポチが止めを刺そうと一歩踏み出したが、
 左に居た男が物凄い形相で尻もちを付いている男を持ち上げ、

「か、覚悟しとけよ!」

 そんな捨て台詞を吐いて逃げて行った。
 ポチはそんな負け犬共を追う素振りは見せず、

「態々殺されに戻って来てくれるか」

 そんな事をボソリと呟き、
 はっ!となった素振りを見せて急いで此方に駆け寄ってきた。

「おい、大丈夫か?」

「ああ、問題ない」

 当然の事だがあの蹴り如きでけがをするわけも無く、
 けがをしたとしても直ぐに復活するので問題ない。

「それにしても、やりすぎじゃね?」

「そうか?我のソラに手を出したんだ。
 殺されても文句を言えないだろ、それに奴は吸血鬼だったからな、
 腕を斬った所で生えてくるし、問題ないだろ」

「吸血鬼なんているんだな、初めて見た」

 通りで犬歯は異常なほど尖っていた訳だ。

「つか、血だらけじゃねえかよ、
 そんなんで表に出たら大騒ぎになるぞ」

 ポチのフードには先ほどの返り血が
 べったりと付いておりそんな姿で表に出られたら
 大騒ぎになるのは目に見えている。

「ふっ、その為にこの服を買ったんだよ」

「はいはい、はよ着替えなさい」

 ドヤ顔で先ほど買ったワンピースが入っている袋を
 突き出して来るが、そんなわけないだろうと適当に流して置く。
 フードを脱ぐのかと思っていたが、
 何をしたのか一瞬でフードが粒子状になり消え去り
 目の前には全裸のポチが立っていた。

 流石に着替えをジロジロと変態の様に見る訳には行かないので
 目を瞑り着替え終わるのを待った。

「よし、着替えたぞ」

「ん、そっか。じゃあお土産買いに行くか」

 ポチのワンピース姿は物凄く似合っており、
 可愛いのだが無性相手の褒め方が分からないので
 何も言わずにヘリム達のお土産を買いに足を動かした。

「何だ、感想は言ってくれないのか」

「んー、可愛いぞ、すっごく似合ってる。
 ポチが女だったら惚れてたかもなー」

 嘘は言っていないがあまり心をこめないで
 棒読みでそう言うと、何やらポチが驚いた様な顔をしたが
 特に気にせずに再び手を握り表に出た。
 じめじめ空間から解放され日光が心地よく感じた。

「――そこの貴方!!」

 先ほど裏路地に入った位置から戻らずに
 負け犬たちが逃げて行った方から表に出たのが失敗だった。
 表に出た瞬間に水晶を机に置き深くフードを被り、
 見るからに怪しい占い師につかまってしまった。
 しかもその占い師の周りにだけ人混みは無く、
 寧ろ人が避けて通っていた。

 無視して進もうとしたが、既に遅く、
 俺の小さな腕を掴まれてしまっていた。

「っ!」

 ポチが今にも襲い掛かりそうになっていた為、
 俺は慌てて止めり入る。

「ダメだ、此処は人目が多すぎる」

「だが、こいつは――」

 こんなにも強引な客引きがあるものなのか、
 此処で騒ぎを起こすのは非常に不味いので
 嫌々占い師に従う事にしたのだが、
 次の言葉を聞き、俺は完全に興味を引かれてしまう。

「ソラ=バーゼルドさん、貴方ならきっと……お願いします!」

 彼女は俺の名前を口にしたのだ。

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