勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

エクスマキナさん

「おい、ソラよそんな奴に構うな」

「いや、そういう訳には行かないんだよ」

 こいつは確かに俺の名前を呼んだ。
 一部しか知らないはずのバーゼルドの名を口にした。
 ソラと言う名前だけならまだ無視出来たが、
 こればかりはどうしても無視するわけにはいかない。

「何故俺の名前を知っている?」

 占い師の顔を下から見上げ強く睨み付けながらそう問いかけた。
 深々とフードを被っている為、
 この占い師が今どんな表情をしているのかは分からないが、
 微かに口の端が上がるのを確認した俺は警戒する。

「私は過去を観ることが出来るのです。
 ソラ=バーゼルドさん、貴方の過去も勿論」

「っ!」

 過去を観ることが出来る。
 現に俺の名前を口にしている時点でそれが真実だと
 示しているが、格好も恰好なので物凄く胡散臭く感じてしまう。

「じゃあ、問題だ、俺の奴隷だった奴の名前を言ってみろ」

 本当に俺の過去を観えるのならば答えられるはずだ。
 俺の初めての奴隷にして最高の家族だ。
 占い師は俺の問いに対して少しも間をあけずに口を開いた。

「ライラ=ドラゴニカさん、貴方の事を主人と呼んでいますね。
 他にも学園の寮で貴方の事を抱き枕にもした事がありますね?」

「……なるほど、お前の力は本物の様だな」

「はい!信じて貰えましたか!!」

 信じて貰えてよほどうれしかったのだろう。
 声のトーンが上がり喜んでいるのが分かる。
 だが、過去が観えているのならば、

「分かっているとは思うが、俺にはバーゼルドの時の様な力は無いぞ
 お前が何を頼もうとしていたのかは知らないが
 残念ながら俺はそれをかなえる事は出来ない」

 使えると言えば使えるが、
 バーゼルドの時の様に十分に使えるという訳ではない。
 何かをお願いしようとしていたのだろうが、
 残念ながらそれは無理な願いだ。
 大人しく引いて貰おう。

 そう思っていたのだが、
 占い師は引きもせずに寧ろ、「はい、知っています」と言ってきた。

「だったら何の様なんだ?」

「……私なら貴方の力を取り戻す事が可能です」

「は?」

 何を言っているのか理解できなかった。

「私の魔力を全て使い切れば貴方、
 ソラ=バーゼルドの力を取り戻す事が出来ます」

「本当なのか?」

 それが出来るのならばこいつは神すらも超える力の持ち主だ。
 本来ならこんな胡散臭い話信じたくも無いが、
 過去を観る事が出来ると言う力を持つ彼女なら
 本当に可能なのではないかと希望を抱く。

「はい、立ち話もなんですので、よければ私の家で話しませんか?」

「分かった、案内してくれ」

「おい、ソラ!」

「ポチ、俺の我が儘に付き合ってはくれないか?
 こんな話し流石におかしいとは思うが、
 少しの希望を抱いてしまった愚かな俺に付き合ってくれ」

 少しでも抱いた希望を信じてみたい。
 彼女の言っている事が本当ならば
 俺の目的もかなり早めに達成できるのだから。

「……もしもの時はソラ事喰らってやる」

「ありがとな」

 渋々了承してくれたポチと手を繋ぎながら
 占い師の家へと向かう。
 表を抜けて少し人気の無い場所へと出る。

「此処です」

 立派とは言えないが、ボロイとも言えない
 そんな石煉瓦造りの家に辿り着き、
 少し警戒しつつも中へと足を踏み入れた。
 外見とは裏腹に内装は確りとしており、
 生活するには困らないだろう。

「飲み物出すので、そこに座って待っていてください」

 態々持て成してくれる様だ。
 俺は言われた通りに木製の椅子に腰を下ろした。
 ポチも横の椅子に腰を下ろした。

「どうぞ」

「どうも」

 テーブルに置かれた飲み物を何の疑いもせずに
 ぐいぐいっと飲み干す。
 そんな俺の姿を見て占い師は口を開けていた。 

「どうした?」

「いえ、何の疑いもせずに飲むんですね……」

「まぁな」

 実際毒を盛られていたとしても
 一瞬だけ苦しいかも知れないが直ぐに治る事だし、
 折角出してくれたのだから飲まなくては勿体ないだろう。
 ポチはそのことについて知っているので、
 躊躇もせずに飲む俺に何も言ってこなかった。

「で、さっきの話しは本当なのか?」

「はい、本当です。
 と言っても信じては貰えないでしょうから
 まずは私の自己紹介をさせていただきますね」

「自己紹介?」

 何故自己紹介をする事が
 信じる事につながるのだろうかと疑問を抱いた。

「はい、私の名前はロウォイ。種族はエクスマキナです」

 彼女はそう言って深々と被っていたフードを取り、
 そこに現れたのは綺麗な白髪ショートで所々に黒髪がまざり、
 クリッとした瞳の奥には燃えている炎の様な物が浮かんでいる。

「エクスマキナ……」

 序列一位のエクスマキナさんだ。
 機械仕掛けの神様だと思っていたのだが、
 こんなにも綺麗な女だとは……かなりびっくりだ。
 機械要素が何処にも無いじゃないか

 だが、例え序列一位だとしても
 それが彼女の力を信じる理由にはならない。

「そして、性はタナカです」

「っ!!――そうか、そういう事か」

 タナカ……田中。
 俺はこの姓を知っている。
 大賢者田中、たった一人であらゆる種族を無力化して
 力尽き捕まり、不老不死の魔法で今も生きながらえているケモナーの男。

 そして、彼女はその田中の姓を持つ。
 そんな彼女が俺に願い事をするとしたらそれは一つ。
 田中の救出だ。

 大賢者田中、同じ日本人として一度はあって見たかった人物だ。

「分かった、ロウォイ、お前の力を信じよう。
 同じ日本人大賢者田中の好だ」

「え、そんなんで信じてくれるのですか?」

「ああ、大賢者田中の愛した女なんだろ?
 ならばそれ相応の力は持っているはずだ。
 俺も田中にあってみたかったんだよ、丁度いい」

 そういえば、ジブお姉ちゃんと一緒に行くって約束してたな……
 今頃どうしているのだろか、
 俺の事は忘れて皆で仲良くやっていてくれれば良いんだけど

「ありがとうございます!!」

「でも、何で序列一位様がこんなところに居たんだ?」

「私は同族から嫌われていますので……
 種族の差別が無い此処で毎日毎日救世主を待っていたのです」

「あー、そう。ごめん」

 そりゃ、罪人の妻なんだから嫌われたりするのだろう。
 つまりこいつはぼっちだ。
 同じボッチとして協力してあげないとな。

「此処は田中と一緒に買った家なんですよ
 二人の思い出がたくさん詰まった……」

 ロウォイが田中との思い出を語り始めた。
 俺としてはそんなリア充ライフの思い出話など聞きたくない。

「ふーん、思い出話は良いからさ、本題にはいろうか」

「あ、そうですね。では改めて、
 私の力で貴方の力を取り戻すので、
 どうか私の夫、田中をお救い下さい」

「ああ、任せろ、力を取り戻した暁には絶対に救ってやるよ」

「ありがとうございます、では、早速――」

「え、ちょっと今?!」

「はい――」

 あまりにも急すぎる展開に驚いたが、
 そんな事は一切気にしていない彼女は
 俺に手のひらを向けて目を瞑り詠唱を始めた。
 物凄い早口でなんと言っているのかは分からないが、
 肌がピリピリするほど大量の魔力が流出しているを感じる。

「ほう、これほどの魔力とはな」

「凄いね、ポチ勝てる自信ある?」

「愚門、こんな小娘本気を出すまでないわ」

「頼もしいな」

 つまりポチは序列一位のエクスマキナなど
 相手にすらならんと言っている。
 ……それって相当やばいよ。

 そうこうしている内に部屋全体を包み込むほどの
 魔法陣が形成され、俺の体が光始めた。

「これは――っ!!」

 途轍もない激痛が全身を走り回る。
 痛みには慣れていたハズのこの体ですら
 耐えきれない程の痛みが走り、思わずその場に膝を折ってしまう。

「ソラ!大丈夫か?」

「あ、あ、問題、無いっ」

 呼吸が粗々しくなり、視界が歪む。
 いっそ死んだ方が楽なのではないかと思う程の激痛。
 だが、痛みに負ける訳には行かないと、
 どんなに情けない姿を晒そうが構わないと、
 俺は心を鬼にして必死に耐えた。

「――終わりました」

 激痛に耐えて数十分、
 俺の体は汗が噴き出しまくっていた。

「終わったのか?」

「はい、ソラ=バーゼルドの霊体を貴方に移植しました
 これで――っ」

「おい!」

 突然、彼女が糸が切れた操り人形の様に、
 全身の力が抜けその場に倒れ込んだ。

「心配するな、魔力がゼロになっただけだ。
 あの魔力量だ、丸一日は起きないだろうな」

「そう、良かった、ポチ、ベッドまで運んでくれないか?」

「何故、我が……やってやるけどよ」

「ありがと」

 ポチが軽く彼女の事を持ち上げて
 寝室へと向かった。

「本当に力が戻ったのか?」

 そんな事を呟きながら、
 先ほど激痛で椅子から落ちたので、
 再び椅子に座ろうと、テーブルの脚につかまり、
 立ち上がろうとするが――

「――っ!?」

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