勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

ポチとお買い物

 部屋の中はベッドが二つ置いてあり
 洗面所が設置されてあり、一泊程度なら不自由無い部屋だった。
 ベッドは真白なシーツがビシーとなっており部屋の何処を見ても
 ゴミが落ちておらず確りと清掃してある様だ。

「ふぅ~」

 勢いよくベッドに背中から落ち、
 ボフンと音を立てながら柔らかい布団が体を包み込み、
 今日一日の疲れを癒してくれる。

「ポチのお陰であまり疲れてないけど、
 長距離の移動はやっぱり体にくるものがあるな――うぉい?」

 天井を見ながらそんな事を呟いていると、
 突然ポチが人型のまま馬乗りになってきた。
 まったく重みは感じないのだが、
 乗られている部分がデリケートな場所で
 少しむずむずする感覚が襲ってきた。

「どうした?」

 ポチに性別は無いので決して興奮したり
 するわけがないのだが、少々くすぐったい。

「暇だ」

「……何で俺の上に乗る」

 暇だからって人の上に乗るものではないだろう。
 重みを感じないから別に良いんだが、
 乗られている場所が場所なので色々と気になってしまう。
 ポチは現在自分で作り出したローブを被っているのだが、
 大きさがあっておらず少し前かがみになると胸元が開き
 妙な色気を出している。

「良いだろう?これぐらい。
 今まで我の上に乗っていたんだ、たまには交代だ」

「交代ね……まぁ、良いんだけどさ」

「うむ、それより暇だ。外行くぞ」

「はぁ?何しに行くの」

 折角宿屋について休めると言うのに
 この子は一体全体なにを考えているのか。

「ん~そうだな、我の服を買いに行くぞ」

「えぇ、ローブでいいじゃん、かっこいいぞ」

 そういえば俺も昔フード付きローブだったな。
 懐かしい……ローブ良いと思うだけどなぁ。

「駄目だ、我もお洒落をしてみたいのだ」

「お洒落ね……いいよ、行こうか」

 少しポチのお洒落と言うのには興味がある。
 性別が無い以上、どんな服装になるのだろうか。
 男物か女物か、非常に興味がある。

「本当か!よし行くぞ!!」

「おうおう、じゃあ降りようか」

「ああ!」

 ポチが上から降り、嬉しそうにポチは笑顔を浮かべており、
 そんなに喜ぶことか?と思いつつも体を起こし、
 一度大きく体を伸ばしてからベッドから離れた。

「どうする?二人で行くか、それとも皆――」

「二人だ」

「わかったよ、一応一言掛けていくぞ」

 やはり俺以外には心を許すつもりはないのだろう。
 物凄い速さで即答されてしまい、少々驚いた。
 二人で行くとなればヘリム達に一言かけてからでないと
 少々、いやかなり厄介な事になってしまうので
 そこのところは抜かりなく。

 部屋を出て早速、隣のご主人様とヘリムが泊まっている
 部屋の扉をノックした。

「誰じゃ」

 直ぐに返事が返ってきたが、
 その声は何時ものエキサラとは違い、
 口調そのものは変わってはいないのだが、
 何処か物凄く警戒している声色だった。

 そんなエキサラにちょっとした悪戯を仕掛けようと、

「俺じゃ」

 口調を真似てみた。

「む……その声はソラじゃ。何なのじゃ?
 寂しくなって来たのかのう?仕方のない奴じゃ」

 あっさりとバレてしまい、
 いつも通りの声色に戻り、
 そんな冗談を口にしながら扉を開けた。

「あ~ソラ君だ!どうしたの?」

 部屋の奥からヘリムまでやってきてしまった。
 用事が只の出掛ける一言を言うだけ
 と言うのが少々申し訳なくなってきた。

「んとね、今からポチと二人で買い物に行くから
 一言言って置かないとと思ってな」

「何じゃ、妾は留守番かのう?」

「ああ、ごめん、ポチが二人じゃないの嫌らしいんだ」

「今回だけじゃぞ」

「ぶ~ソラ君のぶ~」

 二人とも案外あっさりと許してくれた。
 不満を言っているのがいるが、
 もっと言われるかと思っていたが、
 ポチが俺以外に心を開いていないという事を
 分かっているからか、そこまで言ってはこなかった。

「それじゃ、行ってくる。
 出来るだけ早めに戻るつもりだ」

「うむ、気を付けるのじゃ」

「お土産わすれないでね~」

 扉を閉め、俺とポチは街へと足を運んだ。
 宿屋から少し道をズレただけで、
 そこはもうあらゆる種族で一杯の商店街が広がっていた。
 思わず後ずさってしまう程混雑しており、
 思わず苦笑いをしてしまう。

「この中行くの?」

「ああ、当然だ」

「絶対迷子になるって、俺達の見た目まだ子供だぞ?
 あっという間に揉まれて消されてしまうぞ」

 傍から見れば幼い子供が二人、
 そんな二人が人混みに紛れ込んでしまったら
 一瞬で離れ離れになって迷子になってしまう。

「大丈夫だ、こうすれば良いんだ」

「っ!きも」

 突然ポチの体の内側からボコボコと何かが
 暴れだし皮膚が盛り上がり
 非常にグロテスクな光景を見て思わず
 思っている事を口に出してしまった。

 だが、それも一瞬の事で、
 ポチの体が段々膨れ上がり、ついには大人のサイズにまで大きくなった。
 そして、ボコボコが消えるとそこに現れたのは、
 獣耳の生えた大人なポチが立っていた。

 身長が伸び髪も腰の辺りまで伸びきり、
 顔も少しスゥっとなっていた。
 自然とローブの大きさも体に合うように変化していた。

「これで大丈夫だろう」

「……何でもありだな」

 確かにこれならポチが人混みに呑まれる事は無いだろうが、
 未だに子供の姿の俺はあっという間に吞まれてしまう。
 ポチが大人の姿になった所で何の解決もしていないのだ。

「ほれ、手を出せ」

「え」

「何だ抱っこの方が良いか?それともおんぶか?」

 突然手を出せと言われて困惑したが、
 俺が迷子にならない為に手をつないでやるという事らしい
 俺は街中で抱っこされるなど恥ずかしい事はされたくないので
 大人しく手を伸ばした。

「いや、手で良いよ」

「そうか、ほれ行くぞ」

 ポチの手は大きくて温かい。
 こんな人混みでも手をつなぐだけで
 自然と心が落ち着きリラックスしていた。

 堂々と人混みの中に入り込み
 呑まれないように確りとポチの手を握って前へと進む。
 俺の身長的に視線が低く全然周りの景色が見えずに
 何処を歩いているのか分からないが、
 そこはポチに頼って進む。

「あそこに行くぞ」

 あそこと言われても何処か分からないが、 
 何度もぶつかるが転ばない様に踏ん張り、
 確りと手が引っ張られる方向へと歩く。

 そして人混みを抜けたどり着いたのは
 服がたくさん並んでいる出店だった。
 どうやら目的地に着いたようだ。

「さて、どんな服があるのか」

 そう呟きどこか楽しそうに
 服を眺めているポチを下から微笑ましく見守る。

「これなんてどうだろうか?」

「んん、どれどれ……」

 ポチが選んだ服を広げ俺に見せてくれたが、
 選んだ服は何と白く黒の水玉ワンピース。
 その服を見て俺は何といったら良いのか迷ってしまった。

「こんな感じだ」

 俺が困っているとポチが自分の体にワンピースを押し当て、
 着てみるとこうなる、と言った感じに見せてきた。
 だが、俺はそれでも何と言ったらいいのか迷ってしまう。
 正直に言ってポチにワンピースは似合っており、
 物凄く可愛いのだが、性別のないポチに果たしてそれは良いのだろうか。

 無性という事は何方でも良い。
 男物でも女物でも似合っていれば良いのだ。
 うん、そうだ、似合っていれば良いんだ!
 そんな事を心の中で言いながら俺は覚悟を決めて口を開いた。

「凄く似合ってる、可愛いぞポチ」

「そうか!そうか!ばらばこれを買うとしようじゃないか」

 物凄く嬉しそうにそういうポチ。
 そんなポチを見て本当は女なのではないかと
 少々疑いたくなるほどかわいい。

「あ、ポチお金あるの?」

 そういえばお金の事をすっかりと忘れていた。
 俺は一文無しだしポチが持っていなければ
 一度宿に戻ってエキサラに頼み込むしかないのだが……

「ああ、あるぞ。ちょっと待て」

 そう言ってポチはその場にひざを折ってしゃがみ込み、
 俺に手のひらを出すように要求してきて、
 言われるがままに手を出すと、

「うぇえ」

「っ!何してんだよ!!」

 いきなりポチが何かを吐こうとし始め、
 俺はすかさず手をどかそうとしたが、
 ポチの両手に掴まれてそれは阻まれ、
 俺は今にも吐き出しそうなポチの顔を見て絶望した――

「オロロロロロ」

「――うっ……あれ?」

 覚悟を決めて目を瞑ったが、
 掌に襲ってきたのは何やら個体の感触だった。
 恐る恐る目を開けてみると、そこには一枚の金貨が乗っていた。

「な、に、これ?」

「金だ」

「そりゃ、見ればわかるけど
 どっから出したんだよ」

「腹の中だ、昔喰ったやつの金だ」

「あ、なるほどね……ははは」

 さらりと恐ろしい事を言って、
 何事も無かったように金貨を取って店員に渡して
 手続きをしているポチを見ながら俺は金貨の持ち主に
 心の中そーと手を合わせた。

「まいど~」

 無事服を買う事が出来たポチは
 嬉しそうに笑みを浮かべてた。

「良かったな……つか何で俺の掌に金だしたんだよ」

 今思えば別に手を出す必要なんてなかっただろ。

「そりゃ、ソラの反応が面白いからに決まっているだろ」

「なんて奴だ」

「早速着替えたいな、ちょっと裏路地にでも入るぞ」

「へいへい」

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