勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

兄貴!兄貴!兄貴!

 俺は帰ってきて早々にポチの下へ行き
 体を背もたれにして床に座っていた。
 エキサラとヘリムは此方に近付いては来るが、
 ポチが居る為あまり接近してこない。

「あー、今日一日で10歳位老けた気分だ」

 城に帰って来てからの第一声がそれだった。
 一日で戦争を終わらせて捕虜達の尋問も終わらせた。
 殆どエキサラやヘリム、ポチの働きのお陰だが、
 一応俺も普段以上に頑張っていたので疲れている。

 やっぱり慣れない事をいっぺんにやるべきではない。
 身をもって感じた一日だった。

「お疲れ」

「そうじゃのう、今日は少し疲れたのじゃ」

 エキサラとヘリムが反応してくれ声を返してくれた。
 口ではそう言っているがいつも通りで疲れている様子は見えない。
 ご主人様にとってはあの程度朝飯前なのだろう。

「もう少しで今日の日程は終わりだ、頑張るぞ」

 そう自分に言い聞かせて、一瞬だけポチモフモフを堪能して
 端の方で丸くなって固まっているイシア達の方に向かって歩き出した。
 付いて来てとは一言も言っていなかったが、
 俺の後に続いて三人とも何も言わずに付いて来ていた。

「……」

 彼女達の前に立つと、真っ直ぐに此方を見て立ち上がった。
 少し意外だった。
 てっきり、おどおどするのかと思っていた。
 中身も見た目通り屈強な戦士なのだろう。

 五人から真剣な眼差しを向けられてしまい、
 逆に俺が物凄く緊張し気まずくなってしまい、
 こんな状態で声を出したら恐らく震え声になってしまうだろう。
 そこで俺は前置きとして大きく咳払いをして
 軽く緊張を和らげてから声をだした。

「そんなに硬くならなくてもいいぞ。
 寧ろ普段通りに振舞ってくれた方が
 此方としてはやりやすいんだが、」

 咳払いをしたのは正解だった。
 普段通りの声を発する事が出来て恥をかくことは無かった。

「ソラ君がそう言ってるんだものそうしましょうよ」

「え、でもそんな事をしたら――」

「ソラ君は貴女が思っている様な人では無いわよ、
 現に私達は生きてるじゃない。
 もしそんな人だったのならば捕虜を解放したりしないわよ」

「そうですか……」

 イシアがもう一人の妖精族の事を説得すると、
 それを聞いていた人獣族達も「そうだよな」などと言った声を漏らし、
 硬い表情が段々と和らいで行くのを確認した。
 彼女の一言で状況が一変する。
 流石は妖精王直属大精霊術師団長だ。

「まぁ、何もないけど座ってくれ」

 戦闘を終えた後なのだからずっと立って会話するのは
 足腰に悪いし何よりこっちも辛い。
 床に座らせるのは何だか悪い気がするが、
 家具が何も設置されてない以上仕方が無い事だ。

 お互いに床に座った事を確認してから
 頼み事の前にまず自己紹介から始めた。

「一応だが自己紹介から始めるな、
 俺はソラ、後ろにいるご主人様の奴隷だ」

 後ろにはヘリムやポチもいるので
 勘違いされない様に確りとエキサラの方を軽く指を指した。

「は」

「奴隷……?」

 俺の正体を知っているイシア以外の全員が
 俺が奴隷だと知り驚きを隠せずに声を漏らしていた。
 首輪で分かるだろうと言いたいが分からなかったからこその現状だ。
 イシア同様にアクセサリーとでも思っていたのだろう。

「んで、俺のご主人様のエキサラ、こっちは……へっぽこなヘリム、
 あのモフモフしてる生き物が俺の大切な友のポチだ」

「ぬぅ、妾にさせてく――」

「ちょっと、ソ――」

「さ、こっちの自己紹介は終わったぞ、次はそっちの番だ」

 ポチは獣だから仕方が無いとして、
 この二人に自己紹介をされたら確実に余計な事を口にする。確実にだ。
 だから俺は二人から不満の声が上がるが
 それを無視して強引に自己紹介を続ける。

「ぬぅ、自己紹介させるのじゃ!」

「私もした方が良いわよね?」

「ねぇ、ソラ君?!」

「一応頼む」

 後ろでヘリムとエキサラがわーきゃーわきゃーと
 喧しいほどぐちぐち騒いでいるが、
 俺は無視をして会話を続けるとイシア達も分かったようで
 少々戸惑いつつも会話を進めてくれた。

 イシアとは自己紹介を一度しているが、
 一応この場に居る皆にも自己紹介をしておいて欲しい。

「私の名前はイシア。妖精王直属大精霊術師団長をやっていますわ」

「よーせいおーちょく……なんじゃ?」

 人獣族や妖精族は勿論だが知っている事なので
 妖精王直属大精霊術師団長と言われても顔色一つ変えていなかった。
 それにくらべて後ろで騒いでいるエキサラは……

「私はリヤイ。イシア様が残ると言ったので残っただけです」

「のぉ、ソラよちょくーなんじゃった?ぬぉーい」

 後ろで叫んでるエキサラが物凄くうるさい。
 せっかく赤メガネを掛けたら
 最強の彼女が自己紹介をしているのに…… 

「次俺っすね、自分はオルディっすよ。
 兄貴の寛大さに感激して残る事にしたっす!」

「ソラ君何時から兄貴になったんだい?」

「……知らん」

 ロン毛にいきなり兄貴と言われ一瞬だけ誰の事か分からなかったが、
 ヘリムにそういわれ気が付いたが、
 一切心当たりは無く困惑した。

「モルだ。俺も大体はモルディと同じだ。兄貴」

「兄貴~」

 スキンへッドで厳つく誰よりも兄貴っぽい人に
 兄貴と呼ばれると何だか物凄く優越感を覚える。
 またもや兄貴と呼ばれたが一体なんなんだ?
 ヘリムも調子に乗って後ろで兄貴兄貴言ってるし……

「私はインエです。二人と同じく。
 よろしくお願いしますね兄貴」

「兄貴なのじゃ」

「兄貴~」

 白髪で物凄いオーラを感じる人からも
 兄貴と呼ばれてしまっては、
 もう何だか兄貴でも良いような気がしてきた。
 だが一応、

「なぁ、何で三人とも俺の事を兄貴なんて呼んでるんだ?」

「そりゃー」

「なぁ?」

「ですね」

「……?」

 三人は当たり前だよな?という風に顔を見合わせ
 俺を取り残して何やら納得していた。

「兄貴は兄貴っすよ、敵である俺達の事を必死に守ってくれた兄貴っす」

「俺達に慈悲を与えてくれた兄貴だな」

「捕虜になった私達に一切手を出さずに解放してくれた兄貴ですね」

 記憶を脳内で再生しながらそう言っているのだろうか、
 三人とも少し上を見ながら語っていた。
 だが、この三人が俺の事を兄貴と呼ぶ理由が十分に分かった。

「それで俺が兄貴と……」

 確かに守ったけどあれは利用価値があるからで、
 流石に無抵抗になった相手に手を出す訳にはいかないからな、
 場合によったけどさ……なんて事言っても聞いてくれないんだろうな

「まぁ、いいや、じゃあ本題に行く――」

――グゥウウ

「お腹空いたのじゃ~ソラよ~もう妾は動けないのじゃ~
 何か作って欲しいのじゃ~あぁ~あぁああ~」

 流石にエキサラの事を無視し過ぎてしまったようだ。
 盛大にぶっ壊れてしまった。

「……分かったよ。続きは飯の時でな
 お前達の分も作ってやるから確り食えよ。
 餓死なんてされたらたまったもんじゃねえからな」

「「「兄貴ぃ!!!」」」

 三人の目線が凄く温かく克見苦しかった。

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コメント

  • アマスさん

    なんか、レベル999の村人に似てるような気がするのだが・・・

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