勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

つい楽しくてのう、呪ってしまったのじゃ!

「――はぁあああああ」

 血液を撒き散らして弾けてどれ程経ったのかは
 分からないが、俺は復活すると同時に空気中の酸素を
 大きく吸い込んだ。

 燃える様に熱かった全身は常温に戻っており、
 出血も止まって、
 呼吸も先程とは違い普通に出来ている。

 何時も通りの健康体の俺だ。
 唯一、何時も通りじゃない点があるとすれば、
 あり得ないくらい怠い。

「ふぅ――」

 まぁ、体が弾け飛んだんだから、
 仕方ない事……なのかな。
 それにしても、自分の体が弾け飛ぶって
 かなりショッキングだぞ。

 俺はエキサラに何度も体を喰われているから
 自分の体がエグイ状態になる事には多少の耐性は付いてるけど、
 普通ならトラウマになるレベルだ。
 まぁ、そもそも普通なら体が弾け飛んだら
 死ぬけどな。

 改めて思ったけど、
 エキサラって容赦ないよな。
 幾ら死なないからって言ってもさ、
 酷すぎるよ。

「うぅ……」

 怠いけどずっと此処に居る訳にはいかないな。
 戻るか……

 うつ伏せに倒れている体を
 腕を使いつつ起こした。

「やっと復活したのかのう。」

「うおっ!」

 体を起こすと、
 先程まで地面を見ていた俺の目には
 エキサラが映りこんでいた。
 エキサラは先程とは違い額の紋章や稲妻も無く、
 何時も通りの可愛い姿だった。

 いきなり視界に入ったエキサラに驚き、
 思わず後退った。

「何じゃ、ご主人様の顔を見て驚くとは!
 妾の方がもっと驚いたのじゃ!」

「ごめん……ちなみに、ご主人様は何に驚いたの?」

「後を追って来てみればのう、
 血だらけになってソラの体が彼方此方に飛んでて驚いたのじゃ。」

 確かに血だらけで体の部位が彼方此方に飛んでたら
 誰でも驚くだろうな。
 ……だけどな、そうなった原因はお前なんだよ、エキサラ。

 まるで他人事の様に話すエキサラの事を見て
 俺はそんな事を思っていた。

「確かにそれは驚くなぁ、
 弾け飛んだ本人はもっと驚いたけどな。
 滅茶苦茶、苦しかったし!」

 俺が若干怒り口調でそう言った。

「くはははは、すまんすまん。
 つい楽しくてのう、呪ってしまったのじゃ!」

「笑えねえ……」

 呪ってしまったのじゃ!
 じゃねえよ。
 呪いって何だよ物騒だな。

「で、その呪いはもう解けたんだろうな?」

「うむ、ソラが弾けたって事は解けたって事じゃ。」

「うわ……まさか呪いが解けると弾け飛ぶ呪いだったのか?」

「む~、正確には呪いを掛けてから
 時間が経つと弾け飛ぶって感じの呪いじゃ。
 弾け飛ぶまでの時間が一番痛くて苦しいと思うのじゃが、
 ソラには関係のない事じゃな。」

「お蔭様で、息が出来なくて苦しかったけど
 痛みは無かった。」

「うむ、良かったのじゃ。」

 何が良かったのじゃ。だよ。
 かなりエグイ呪い掛けやがって、
 本当に死ぬかと思ったんだぞ、死んだけど。

「まぁ、そんな怒るではない。」

 俺がそんな事を思っていると、
 顔に出てしまったのか、エキサラはそんな事を言ってきた。

「そりゃ怒るだろ……」

「今晩慰めてあげるからのう、
 機嫌を直してくれないかのう。」

 今晩……
 慰めるって……

「性的に?」

「生的にじゃ。」

「初めてだから優しくしてね。
 痛くしないでね」

「む?初めてでは無かろう。
 それに、もう痛くは無いじゃろ」

「え?」

「む?」

 またかみ合ってないな……
 今晩俺は又喰われてしまうのか……

「さて、十分楽しんだ事じゃ帰るとするかのう。」

「ああ。」

 勝負に勝ち、満足したのかエキサラは
 物凄く満足そうな顔をして手を差し伸べて来た。

「よっと、」

「おっと……」

 手を握りエキサラが引き上げてくれたが、
 体が物凄く怠く立った瞬間、
 ヌルリとエキサラに倒れて掛かってしまった。

「なんじゃ、ひ弱じゃのう……ほれ、」

 そう言い、一旦俺の体を優しく地面に置き
 それからしゃがみ、背を向けて来た。

「おんぶしてやるのじゃ、
 感謝することじゃのう。」

 おんぶって……確かに今の状態では歩く事すらままならないが、
 女の子におんぶされるって……いや、ちょっとまてよ。
 エキサラは見た目ロリだけど中身は婆さんだよな、
 だったらおんぶされても問題ない気がしてきたぞ。

 そういえば、昔婆さんにおんぶされながら寝かしつけられてたな……
 懐かしい。

「失礼。」

 俺は力を振り絞って怠い体を動かし、
 エキサラにしがみついた。

「うむ、それじゃ行くかのう。」

「頼んだ。」

・・

「なぁ、一つ聞いても良いか?」

「うむ、良いのじゃ。」

 おんぶされなが森を抜けている中、
 沈黙の時間が続き、
 何か体がムズムズしてきたので何か話しかけることにした。

 だが、話題が何も無く、
 只管考え、勝負している時に気になった事を聞くことにした。

「戦闘中にご主人様が突然覚醒した様に見えたんだが、
 あれは一体何だったんだ?」

 エキサラの体に赤い稲妻が走り、
 額には不気味な紋章が浮かび……
 明らかにあの瞬間エキサラは変わった。
 化け物が超化け物になった。

「あれはのう、脳のリミッターを解除したんじゃ。」

 脳のリミッター?
 ……確か脳のリミッターを解除したら
 コンクリートも素手で砕く事が出来るとか出来ないとか。

 納得。
 だが、リミッターを解除しただけで
 あそこまで強くなれるものなのか?
 なれるものなら是非俺もやってみたいものだ。

「なるほど、ちなみに俺も出来たりする?」

「うむ、出来るのじゃ。
 回数を重ねれば常時リミッター解除状態で
 いられるようになるのじゃ。」

 常時リミッター解除状態だと……
 そんな事したら筋肉がボロボロになるんじゃかったか?
 回復が間に合わなくて筋肉がボロボロの状態から戻らないから
 リミッターがあるとか何とか……昔サラッと情報を見ただけだから
 詳しく分からないな。

 あっ、でも何が起きても
 復活するから問題ないのか。

「是非やり方を教えてくれ。」

「うむ良いぞ、帰ったらじっくり教えてやろう。
 その代わり今晩は楽しませてもらうからのう。」

「お手柔らかに……」

 やっぱりただで教えてくれるわけないか。
 つか、どっちみち今晩俺の事喰らうつもりだったろ。
 何がその代わりだ。

 まぁ、それぐらいで強くなれるなら
 別に良いけどな。

・・・・

 やばいぞ、非常にやばい。
 どれ程やばいかって言われると、
 かなりやばい。 

 俺はエキサラにおんぶされながら、
 重大な事を忘れている事に気が付いた。

 それは、服を着て居ないという事だ。
 エキサラに呪いを掛けられ、
 俺の体は弾け飛び復活した。

 つまり、俺が弾け飛んだ時、
 服も一緒に弾け飛んでしまっていたと言う事だ。

 ……さっきからスースーすると思ったら
 そう言う事だったのか。
 余りにも怠くて気が付かなかったな……

 つか、服も弾け飛ぶってどういう事だよ。
 体が弾ける衝撃がそんなに強かったのか……
 それにしてもこれはちょっと……

 落ちない様に俺はエキサラにしがみ付いているが、
 一方のエキサラも俺の事を落とさない様にガッチリと
 足を抱えてくれているので、俺の体はエキサラとピッタリと密着しており、

 男の大事な部分がエキサラが着ている
 ゴスロリの衣装のフリフリの部分に擦れ、
 非常にまずい状況になっていた。

 ただでさえまずい状況だが、
 俺はさらにまずい状況に襲われていた。

 やばい……
 下もやばいが、物凄い睡魔が襲ってきた。

 エキサラのおんぶが心地良いのか、
 ほどよいく揺らされ自然の風が体を撫で、
 俺はウトウトしてきてしまった。

 ウトウトと、
 徐々に下の方の事は意識しなくなり、
 それにつれ「寝てしまえ」と睡魔が呟いて来る。

 あぁ……何か下はどうでも良くなってきた……
 この心地の良い揺れと風に勝てる気がしない。
 睡魔に身をゆだねる……か……。

 俺は睡魔には勝てず、
 下の事は放っといて寝てしまった。

・・・・

「んん?」

 目を覚まし、周りを見渡し状況を確認すると
 俺はエキサラの家の寝室で天蓋カーテン付きの大きな純白ベッド
 で寝て居た様だ。

 エキサラが此処まで運んでくれたのだろう。
 感謝だ。

 純白ベッドのシーツは今朝、真っ赤に染まっていたが、
 今は純白に戻っていた。
 俺の事を喰うエキサラも流石に血で染まったシーツは取り換えるか。

「ん~~」

 大きく背を伸ばし、体を起こすと
 体が全くと言っていいほど怠く無かった。
 寝て居たから怠さが抜けたのか……

 そんな事を思っていると、
 俺は妙な味がする事に気が付いた。
 寝起きで味覚が寝ぼけていたのか、
 それは徐々に濃さをまして来た。

「う゛!」

 鉄の味と共に、
 鉄の臭いが鼻を劈く。

 こ、これは、血か!?
 若干ざらつきが下に残り、
 非常に気持ち悪い。

 俺は本当に血かどうか確認する為に、
 恐る恐る自分の口の中に指を入れてみた。

 すると、案の定指の先は唾液と混ざり、
 若干薄い赤になっていたが、口の中から出て来る赤い液体など、
 トマトか、血しかないので味と臭いで血だと判断できる。

「うぅ、不味い……」

 この血は恐らく――いや、確実にエキサラの血だろう。
 前に飲まされた時と全く同じ味がする。

 そもそも、血の味に個体差があるかどうかは分からないが、
 恐らくこれはエキサラの血だ。

 ……この状況からして、怠さが抜けているのは、
 寝たからじゃなくエキサラの血のおかげって
 考えた方が良いのかも知れないな。

 じゃないと、エキサラが何で俺に血を飲ませたのかが
 分からない。

 どちらが真実かは分からないが、
 取り敢えず、エキサラの元へ行ってみるか。 

「おっと、危ない。」

 エキサラの元へ行く前に、まだ裸だったという事を思い出し、
 近くに綺麗に畳んで置いてある執事服を手に取り、
 慣れた動きで執事服を着た。

 初めて執事服を着た時は、
 少し苦戦したが、
 流石に何回も執事服を着ていると
 慣れるものだ。

 確り執事服に着替え全裸じゃなくなった俺は、
 改めてエキサラの元へ向かった。

 主従関係があるからと言って、
 エキサラが何処に居るか、
 など分かると言う便利な能力は無いが、
 何となくなら予想が付く。

 玄関に一番近い所の扉、
 リビングへと続く扉だ。

 木材で出来ている扉は、
 そこら辺の木材とは何か違い、
 深みのある色をしている。

 そんな扉を開けると、
 案の定そこにはエキサラの姿があった。

 エキサラは毛皮の上で可愛らしく座って、
 何かを美味しそうに吸っていた。

 それは――

 この前作ったマヨネーズの残りを
 本物のマヨネーズ見たいな容器をたまたま
 エキサラが持っていたので、
 それに詰めて保管していたのだが……

 エキサラはその容器に口を付け、
 チュパチュパと吸っていた。
 此方の存在に気が付いていないのか、
 ボケっとしながらマヨネーズを吸っている。

 人形見たいで可愛いな。
 つかマヨネーズだけって美味しいのか?
 エキサラの横顔を見る限りじゃ、
 幸せそうな顔してるし……俺も今度やってみるか。

 そんな事を思いながら少しの間人形の様なエキサラの事を眺め、
 満足し、俺はエキサラに声を掛ける事にした。

「おはよう、ご主人様。」

「むぇ?」

 変な声を出しながら此方を向き、
 何やら焦りながら急いで先ほどまでチュパチュパ吸っていた
 マヨネーズを背に隠した。

 おぉう、何をそんなに焦っているんだ……
 別にマヨネーズ吸っていたからって怒ったりしないぞ。

「や、や、やっと起きたのかのう。
 待ちくたびれたのじゃ!」

 頑張って何事も無かったかのように
 平然を偽って話していたが、
 声も若干裏裏返ったりして動揺が物凄く伝わってきた。

「落ち着け。動揺しすぎだ。
 別にマヨネーズをチュパチュパ吸って居ようと、
 俺は怒りも責めたりもしないぞ。」

 そう言った瞬間、
 エキサラの顔がパァっと明るくなり、
 物凄い笑顔で背に隠したマヨネーズを取り出し、
 チュパチュパと吸い始めた。

「はぁ、そんなに美味しいか?」

「うむ!ソラよりは美味しくないのじゃが、
 これは癖になる味じゃ。」

「……そうかい」

 一番美味しいのが俺と言う事に付いて
 色々と言いたい事はあるが、
 言っても仕方ないから言わないでおこう。

「所で、ご主人様よ」

「なんじゃ?」

 マヨネーズを吸いながら会話するのをやめてほしい。
 と言いたいが、可愛らしいので出来ればずっと眺めて居たいから
 敢えて言わない。

「さっき起きたんだが――おっと、忘れてた。
 運んでくれてありがとな。」

「うむ、もっと感謝するのじゃ。」

 感謝の気持ちは確りと伝える。
 これ大事。

「で、さっきの続きなんだが、
 起きたら何やら口の中が鉄臭くてな……
 何か知っていないか?」

――ビクリッ!

 と、まるで体中に電流が流れたかの様に
 毛皮の上で体が跳ねた。

「し、知らないのじゃ。」

 と言ったエキサラだったが、
 先程までパァっと言う表情だったが、
 汗がだらだらと垂れだし目も彼方此方を見て泳いでいた。

 あからさまに動揺している。

 動揺するとこんな風になるんだな……意外だ。
 俺の事を喰らってる時のあのエキサラからは想像できないな。

「本当に知らないのか?
 ……別に怒ってるわけじゃないぞ。
 俺は只気になっているだけだからな。」

「そ、そんなことを言われてものう、
 し、しら、知らないものは知らないのじゃ……」

 う~む、この子本気で知らないのか……
 ってそんな訳あるか。

 知らないならどうしてこんなにも同様しているんだ。
 はぁ、仕方ない。
 此処は少し脅しを……
 つか、奴隷の立場である俺が主人にこんな事をしていいのだろうか。
 まぁ、エキサラなら気にしないか……な?

「ご主人様よ、今正直に答えてくれたらまたマヨネーズを作るが、
 もし、ご主人様が嘘を付き続けるならもう二度とマヨネーズは作らない。」

「!!」

 俺の言葉を聞き、エキサラは目を大きく開き、
 目の色を変え、マヨネーズを置き物凄い速さで此方に突っ込んできて、
 俺の事を押し倒した。

「痛っ……たくないけど、心臓に悪いからいきなりはやめて。
 本当に死ぬかと思ったから。」

 只でさえ化け物級なのに、
 そんな化け物が目を大きく開いて物凄い速さで
 迫って来るんだ、本当に死を覚悟する。

「妾の血を飲ませたのじゃ!
 その方が治りが早いと思ったのじゃ!
 嘘じゃないのじゃ!信じるのじゃ!!」

 俺の上に馬乗りになりながら
 エキサラは肩を掴みそう訴えて来た。
 少しだが、目がうるうるとしており、泣きそうな顔をしている。

 まさかマヨネーズで此処までとは……
 でも、正直に言ってくれたな。
 これは間違いなく本当の事だろうな。

「そっか、俺の為にわざわざ血を飲ませてくれたのか。
 ありがとうな。約束通りマヨネーズは作ってやるから、
 取り敢えず落ち着け。」

「本当かのう!
 妾は感謝するのじゃ!ソラ!!」

 ははは、もっと別な事で感謝されたいものだ。

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コメント

  • ヒグピー

    脳のリミットを外すと雷を纏うってどこぞのアカデミアの
    主人公かよ

    1
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