勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

勝負じゃ!

 森の中を逃げ回り、
 やっとの思いで大きな木の幹に体を隠し、
 荒々しい呼吸を殺し、息をひそめた。

「ハァハァ……くそっ!」

 木の幹を背に体を隠し、
 追っ手は巻いたが、
 一向に収まる事のない鼓動、呼吸、

 収まるどころか、段々早まっていく鼓動。
 荒々しくなっていく呼吸。

 くそっ、何だよこれ!
 容赦ねぇな、あいつ……

――ドクッドクッドクッ

 全身の血管があり得ない程浮き出て来ていた。

 熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い――っ!

 全身が燃やされているかのように熱い。
 心臓の鼓動が遂にドクドクでは無く、
 ドドドドドに変わり、呼吸は真面にできなくなり、
 目、鼻、口、耳……穴と言う穴から血が流れ始めた。

 何時の間にかに、俺は地面にうつ伏せに倒れていた。
 全身に力が入らず、起き上がれない。
 感覚が無く、叫ぼうとしても、
 口から出るのは声では無く、血塊。

 ドバドバと彼方此方から血が流れ、
 意識が朦朧とし、ぼんやりとした視界に、
 真っ赤に染まった地面が見える。 

 エキサラの力で復活するはずだが、
 血は一向収まる気配が無い。
 恐らく、復活しても直ぐに流血が始まっているんだろう。

 そう考えた瞬間に急速に意識が遠のいていく。
 先程まで感じていた熱や苦しみは消え去り、
 耳障りだった鼓動と荒々しい呼吸の音は消え――

 ――俺の体は真っ赤な血液を撒き散らして弾けた。

・・・・

「ソラよ。」

「ん?」

 軽い食事を終え、
 食器などを片付けた俺は特にやる事も無かったので、
 ぼんやりとエキサラの事を眺めていた。

 一方のエキサラも何やらぼんやりと窓から外を眺めていた。
 二人が無言でぼんやりとして沈黙の時間が続く中、
 その沈黙はエキサラによって破られた。

「妾と勝負してくれないかのう。」

「え?嫌だよ。」

 ぼんやりとしながら俺に見られているぼんやりと窓の外を眺めている
 エキサラに視線を動かさずにそう言われ、
 俺もぼんやりとしながらぼんやりとしているエキサラの事を眺めながら
 視線をピクリとも動かさずに拒否した。

「何故じゃ?」

「だって、俺弱いし魔法も封印されてるし、
 痛いのは嫌だし。」

「じゃ、妾が魔法を使える様にするから
 妾と勝負すると言うのはどうかのう。」

「魔法が……それは良いな。
 それなら一回ぐらい勝負してもいいけど。」

 ぼんやりとしながら俺に見られているぼんやりと窓の外を眺めている
 エキサラに視線を動かさずに悪くない提案され、
 俺もぼんやりとしながらぼんやりとしているエキサラの事を眺めながら
 視線をピクリとも動かさずに肯定した。

「うむ、では――」

――ドンっ!

「うおっ!」

 先ほどまでぼんやりとしていたエキサラだが、
 急にテーブルを両手で強く叩き、椅子から立ち上がり、
 キラキラとした眼差しで俺の事を見下ろしてきた。

 先ほどまでぼんやりとしていた為、
 急に大きな音を立てられ、ビクリと体を震わせ、
 俺の事を見下ろしているエキサラの目を見た。

「今から?」

「当たり前なのじゃ!
 準備してくるからのう、大人しく待っているのじゃ!」

「あぁ……」

 ハイテンションでそう言い残し
 エキサラは消えて行った。

 勝負か……それにしてもいきなり勝負とか何を思ったのか……
 あんな化け物が俺みたいな雑魚と戦って何が楽しいのやら。
 絶対ボコボコ――いや、殺されるな。死なないらしいけど嫌だな。
 まっ、魔法が使える様になるのはかなり嬉しい事だけどな。

 俺は再びぼんやりとしながらそんな事を思っていた。

「よし、準備終わったのじゃ!!
 ほれ、付いて来るのじゃ!!」

 ぼんやりしていると、
 無駄にハイテンションのエキサラが戻ってきてしまった。

 先ほどまでは黒いゴスロリの様な衣装を纏っていたが、
 今は色違いの赤いゴスロリの様な衣装を纏っていた。

 もっとマシな服は無いのか、
 俺が言える事じゃないけど。

「へいへい。」

 ルンルンとスキップしているエキサラの後ろを
 元気だな、と思いながらついて行った。

 外に出て見渡し草木が生い茂っている森の中に 
 入り込み、暫く歩くとそこには平地が広がっていた。

 平地の真ん中に大きな木が天までそびえ立っていて、
 地面は所々草が無くなり、土が露わになっている所があるが、
 そこ以外は短い草が綺麗に生えている。

 見る感じ、誰かが手入れでもしているのか
 と思う程綺麗にだった。

「ここだったら広いから思いっきり戦えるのう。」

「出来れば手加減して欲しいのだが。」

「嫌じゃ。手加減したら妾が負けてしまうではないか。」

「いやいや、俺がご主人様に勝てるとでも?」

「うむ。」

「あり得ないな……ははは」

 全く、からかっているのか?
 俺がこの化け物に勝てるとでも?無理に決まっているだろ。
 幾らエキサラの力があると言っても俺は只の人間だ。

「ほれ、此方に来るのじゃ。」

「ん?」

 エキサラに手招きされ、
 不思議に思いつつも俺はエキサラに近付いた。

 近付くと、何やら俺の手首に付いている手錠を掴んできた。
 そして、優しく手錠から手を離すと、
 ボトリと外れた手錠が地面に落ちた。
 何故かエキサラが掴んで居ないはずの左手首の手錠、
 両足首の足錠も外れた。

「これで魔法が使えるとうになったのじゃ。」

「おお!ありがとう!」

 良かった!
 この手錠、エキサラに手首食べられ消えたと思っても
 手首が復活すると同時に手錠も復活してたから、
 一生外れない物かと思ってたぞ……本当によかった。

 これで魔法が使えるんだな!
 よっしゃっ!
 試しに――

「光よ、我を守りたまえ」

 体が一瞬光に包まれた。

 よし、使えるな。

「うむ?何をしたのじゃ?」

 エキサラが少し警戒しながら
 そう尋ねて来た。

「ちょっと魔法が使えるか確かめただけ。
 別に先手を取って攻撃しようとか考えていた訳じゃないからな。」

「そうなのかのう。
 では、魔法が使える事も確認できたのじゃ、
 早速戦おうではないか。」

「ああ……」

 エキサラから離れ、距離を取った。

 あぁ、嫌だな。
 手加減しないって言ってたから一瞬で
 死んじゃうだろうな……

「では行くのじゃ!」

 あぁ……俺の負け戦が始まった。

 先ほどまで姿は見えていたが、
 エキサラが一歩踏み出すと同時に姿が消え、
 その場には土埃と抉られた地面だけが残っていた。

「なっ!」

 エキサラの姿を探す間も無く、
 俺の目の前には拳があり、
 死んだ、と思ったが、
 俺の体は不可解な動きをしその拳をヌルリと避けた。

「む?」

 拳が当たらなかったことを不思議に思い、
 エキサラは先程まで俺が立っていた近くでキョトンとしていた。
 まさか外れるとは思わなかったのだろう。

「まさか避けられるとは思わなかったのじゃ。」

「俺も避けれるとは思っていなかったよ。
 数分前の俺に感謝だ。」

 エキサラの拳を避けれたのは魔法のおかげだ。

 光分身。
 俺が先程魔法が使えるかどうか確かめた時に
 発動させた魔法だ。

 この魔法が無ければ今頃俺の体は
 エキサラの拳によって貫かれていただろうな。
 危ない危ない。

「むむむ、ちとショックじゃ。
 今まで妾の攻撃を避けれた者など居なかったのにのう……
 非常にショックじゃ。」

「ははは……」

 エキサラは口ではそういっているが、
 まるで子供が楽しくて仕方ない時の様な
 無邪気な笑みを浮かべていた。

「くはははは、ショックじゃ!
 ショックなのじゃ!!」

 エキサラはそう言って再び此方に向って
 踏み出し、姿を消した。

 そして、再び俺の目の前に現れ――

「光よ、大地の恵みと共に対象を拘束しろ。
 拘束バインドっ!」

 流石に再び同じ手で来るとは思っていなかったが、
 同じ手で来てくれた。
 好都合だと思い、
 俺は全力で横に飛びながら拘束の魔法を唱えた。

「っ!」

 俺が横に飛んでいる中、
 地面が盛り上がり、ニョキニョキとツタが伸びて来たが、
 拳の速度の方が早く、エキサラを拘束する前に、
 俺が避け切れる距離まで辿りつく前に拳が届き、
 俺の腕が何とも言えないエグイ音を出して吹っ飛んだ。

 エキサラに沢山喰われている為、痛みは殆ど無かった。

 そして、無くなった右腕から右手が復活すると同時に、
 ツタがエキサラに届き体を拘束して行った。
 足から股、お腹、胸……

「ふぅ、何とか拘束出来たな。」

 多少の損害はあったが、別に気にするほどでは無い。
 現に既に先程飛ばされた右腕は復活している。

 それにしても……

 俺はツタに拘束されてあらゆる所が締められ、
 顔を赤くしている様に見えるエキサラの事を見た。

 全く、エロいツタだな。これ。
 そんな事を思っていると、

「くはははははは!」

 顔を赤めていたかと思ったが、
 そんな事は無く何やら突然笑い出した。

「良いぞ良いぞ!ソラァ!!
 妾は非常に屈辱的な気分じゃ!」

 エキサラは声を荒げ、
 先程よりも無邪気な笑みを浮かべていた。

 一見無邪気で可愛らしい笑みだが、
 俺は死を覚悟した。

 尋常ではない程の殺気が俺に向けられているからだ。
 殺気を出しているのは無論エキサラ。

 全身から汗が吹き出し、
 膝が笑い始めた。

「ははは、冗談だろ……」

「くはははは!楽しいのじゃ!
 妾は楽しいのじゃ!
 行くぞソラァ!!」

 エキサラの赤い瞳が輝きだし、
 物凄い圧が一瞬、放たれ俺は吹き飛ばされそうになったが、
 踏ん張りその場に止まった。

「くっ、凄いな……」

――ビリビリ

 とエキサラの体に赤い稲妻が走り、
 額には不気味な紋章が浮かびだしていた。
 良く見るとそれは髑髏にも見える形の紋章だ。

 長く美しい黒髪にも赤い稲妻が走り、
 髪の毛一本一本がまるで意志を持っているかのように蠢き出す。

 そして、エキサラを拘束しているツタにも
 赤い稲妻が走り、

――ボウッ

 エキサラを拘束していたツタが
 燃え、一瞬でチリとなった。

「おいおい、嘘だろ……」

 俺は急いで距離をとった。

「くはっ!」

――ドゴォンッ

 エキサラがその場で足を振り下げ、
 地面を踏むと地面が大きくへこみ、
 その衝撃はこの平地全体に響き、
 エキサラを中心にして地面が盛り上がったりへこんだりした。

「化け物!」

 足場が悪くなり、
 非常に不安定だが俺は頑張って立ち続けた。

 エキサラが地面を踏んだだけで地面はこんな風になり、
 それだけでもあり得ない事だが、
 あろうことか、第二波が襲ってきた。

 物凄い衝撃波が襲ってきたのだ。
 衝撃波は盛り上がった地面を削りながら俺に襲い掛かって来た。

 流石に耐える事が出来なかった俺はそのまま飛ばされ、
 宙に浮いた。

「あり得ねぇ――っ!」

 宙に浮いている俺を見逃すはずが無く、
 仰向けの状態で浮いている為、青空が見えていたが、
 気が付くと青空では無く、そこには無邪気な笑みを浮かべ
 右手を振り上げているエキサラが居た。 

「光よ、我を守りたまえっ!」

「くははは!」

 俺は咄嗟に光分身を唱え、
 振り下げて来た右手を不可解な動きで避けた。
 だが、エキサラはそれを呼んでいた様で、
 俺が避けた先の地面には謎の魔法陣があり、
 如何することも出来ずに俺はその魔法陣の上に着地してしまった。

「ぐっ!」

 魔法陣の上に着地すると、
 パリンと音を立てて魔法陣が消滅し、
 同時に物凄く息苦しくなった。

 なんだこれは……
 やばい、取り敢えず逃げないと。

「灯りよ、我の元へ!」

 心の中で強くイメージし、
 そう魔法を唱えると、
 俺の頭の上に丸い光が現れ、
 強烈な光を放った。

 本当は閃光フラッシュを使いたかったが、
 スペルが微妙に長いため、
 スペルが短い方を選んだ。

「なんじゃ!」

 成功するかどうかは分からなかったが、
 灯りの魔法を使った目くらましだ。

 俺は魔法を唱えると同時に目を瞑り、
 唱え終ると同時に走り出した。

 目を瞑り、ボコボコとした地面の上を
 歩くのは中々大変で何度も転びそうになったが、
 俺は踏ん張り、走り続けた。

 少しして、目を開けると、
 目の前には森が広がっていた。
 俺は森の中に入り、
 暫くして足を止めたが、
 微かだが足音が聞こえてくる。

「くそっ!」

 俺は休憩したかったが、
 急いでその場を離れた。

「はぁ、はぁ、ヤバイ」

 ……巻けた様だが、

「はぁ。」

 一応あそこに隠れるか。

 森の中を逃げ回り、
 やっとの思いで大きな木の幹に体を隠し、
 荒々しい呼吸を殺し、息をひそめた。

「ハァハァ……くそっ!」

 木の幹を背に体を隠し、
 追っ手は巻いたが、
 一向に収まる事のない鼓動、呼吸、

 収まるどころか、段々早まっていく鼓動。
 荒々しくなっていく呼吸。

 くそっ、何だよこれ!
 容赦ねぇな、あいつ……

――ドクッドクッドクッ

 全身の血管があり得ない程浮き出て来ていた。

 熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い――っ!

 全身が燃やされているかのように熱い。
 心臓の鼓動が遂にドクドクでは無く、
 ドドドドドに変わり、呼吸は真面にできなくなり、
 目、鼻、口、耳……穴と言う穴から血が流れ始めた。

 何時の間にかに、俺は地面にうつ伏せに倒れていた。
 全身に力が入らず、起き上がれない。
 感覚が無く、叫ぼうとしても、
 口から出るのは声では無く、血塊。

 ドバドバと彼方此方から血が流れ、
 意識が朦朧とし、ぼんやりとした視界に、
 真っ赤に染まった地面が見える。 

 エキサラの力で復活するはずだが、
 血は一向収まる気配が無い。
 恐らく、復活しても直ぐに流血が始まっているんだろう。

 そう考えた瞬間に急速に意識が遠のいていく。
 先程まで感じていた熱や苦しみは消え去り、
 耳障りだった鼓動と荒々しい呼吸の音は消え――

 ――俺の体は真っ赤な血液を撒き散らして弾けた。

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