勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

――俺は大魔王と謎の神様に気に入られたソラ様だぞ!俺に不可能は無い!――と彼は言った。

 俺の体に絡まって来たのは、どうやら糸の様な物だった。
 そして、俺の目の前にはお父さん、ジブお姉ちゃん、
 ゴウル、ディオナの4人が小さな筒を持って笑顔で立っていた。

 紳士さんとは行き違いになっていたのか。
 どうりで見つからない訳だ。

 筒の中からは俺に絡まって来た糸と同じ物がダラーンとぶらさがっていた。
 どうやら、あの筒から火薬か何かを使ってこの糸を飛ばしてきたのだろう。
 クラッカー的な何かか?

 それにしても、一体為にそんな物を?

「「「誕生日おめでとう!」」」

「え?」

 ……誕生日?……誕生日か!!
 って、おれの誕生日?

「もう3歳なんだよな、本当にあっと言う間だったな。」

 3歳だと?
 俺はもうそんな歳なのか……3年か、もう3年も経っていたのか。
 あいつ等は元気にしているだろうか、俺の事を覚えているだろうか……

 3年、確かに俺にとってはあっと言う間だった。
 あいつ等にとってはどういう3年間だったんんだろうな。

 はぁ、一体何時になったら帰れるんだろうか……

「本当にあっと言う間だった……ソラたん
 ……私は嬉しいよ、こんな良い子に育ってくれて。」

 ジブお姉ちゃんは涙声でそう言ってきた。

 おいおい、まだ3歳だろ?
 これから悪い子になっちゃうかもしれないよ?

「他の子ども達よりも立派に育ちましたね。」

 そう言えば、他の子ども達の姿なんて見た事ないな。
 居るなら是非会ってみたいものだ。

「まぁ、俺が育てたから当たり前だな。」

「全く、最初はどうなるかと思いましたが、
 本当にヴェインさんに似なくて良かったです。」

「私が育てていたらもっと良い子に育っていただろうな~」

 うん、俺的にはジブお姉ちゃんとかディオナに育てて欲しかったな。
 可愛いし、胸大きいし、優しいし、胸大きいし。

「何だと!?」

「ハハ。団長と副団長って本当に仲が宜しいですよね。」

 うんうん。
 いっそ結婚しろ。
 そして爆ぜろ。

「まぁ、長い付き合いだからな。」

「まあねぇ~」

「皆さん、話すのも良いですけど早く料理を食べないと冷めてしまいますよ。」

「おっと、そうだったな。ソラ、今日は沢山食べろよ!」

「うん!」

 沢山の料理が並んでいたが、メインはやっぱり、
 この一際目立つ豪華な皿にのっている料理だろうな。
 恐らくプーちゃんの料理だろう、
 見るだけでもう美味しいってわかってしまう。

「ほ~ら、そらたん。あ~んして。」

 席に付くと、早速ジブお姉ちゃんがプーちゃんの肉を取ってくれた。

 あ~んって……少し恥ずかしいが、俺はまだ3歳だ。
 別に構わないよな。
 ……別にやましい事なんて考えて無いぞ。

「あ~ん。」

「は~い、どうぞ!」

 大きく口を開くと、
 ジブお姉ちゃんがプーちゃんの肉を優しく入れてくれた。

 んん!!
 美味しい!!!
 こいつ、口の中でとろけるぞ!!

「美味しい!」

「でしょ~。」

「肉も美味しいですが、団長のこういう姿も中々良いですね。
 ゴウルさんもそう思いませんか?」

「そうですね。団長にもこういった一面があったんですね。
 もしかしてこれが素の団長なんでしょうか。」

「お前等騙されるなよ。団長はソラの前でしかああ言う姿を見せないからな。
 普段の団長はお前等も知ってると思うが、
 こんなに可愛くないからな。」

「そうなんですか……何かソラ君が羨ましいです。」

 ジブお姉ちゃんには聞こえて居ない様だが俺の耳には、
 ハッキリと聞こえて来ていた。
 俺の前だけ……やっぱ俺幸せだな……

「ソラたん、どうしたの?」

「いや、何でもないよ。」

「そう、じゃあ、あ~ん」

「あ~ん」

 こんな感じで、結構長い間料理を味わっていた。

 夜も遅くなり、誕生日会も終わり、
 俺は眠くなってきたので、自分の部屋に戻った。

 ふぅ~美味しかったな、プーちゃん。
 今思えば、お父さんは俺の誕生日の為にプーを狩りにいってくれてたのか。
 やっぱり優しいな。

 俺はそんな事を思いながら眠りについた。

・・・・

「今日も訓練があるんだが、ちょっと参加してみるか?」

 誕生日会の翌日、何時も通りに起きてリビングに行くと、
 武装したお父さんがいた。

 訓練かやってみたいけど、
 この体が俺の動きについてこれる訳ないしな……
 まぁ、どのみち体を鍛えて行かないと行けないし、
 やるだけやってみるか。

「参加したい!」

「おう、じゃあちょっと待っててれ。今防具を持ってくる。」

 お父さんはそう言ってリビングから出て行き、
 暫くして大きな木箱を持って戻って来た。

「じゃーん!」

 結構大きい箱だな。
 この中に俺の防具が入っているのか。

「開けても良い?」

「おう。」

 一体どんな防具が入っているのか俺はワクワクしつつその箱を開けた。

「おお?」

 箱の中には全身真っ黒で青いラインが幾つか入っている防具が入っていた。

 シンプルで良いと思うけど、本当に防具として働くのか?
 触った感じは布みたいな感じで薄っぺらい。

「何だ?薄っぺらいってか?」

「……うん、ちょっと。」

「はっはは!それはな、大きな竜の皮膚を剥ぎ取ってつくった物だ。
 耐久力は勿論、防熱、防寒……色々と耐えられるぞ。
 ちなみにその青いラインは魔力流だ。
 そこには強力な魔力が含まれているぞ。」

 竜……ドラゴンの皮膚で出来てるのか、そりゃ凄いな。
 スライムでさえ結構強いのにドラゴンとかもうチート級なんだろうな。

「凄いね!」

「ああ、凄いだろ。ほら、着てごらん。」

「うん。」

 箱から取り出し、服の上から着てみた。
 すると、防具は驚くほど俺の体系にピッタリだった。

「ピッタリ!」

「ああ、ソラの為に作った防具だからな。」

「ええ!」

 わざわざ俺の為に作ってくれたのか。
 こんな立派な物を……ありがたい。

・・

「と言う事で、今回の訓練はソラも参加する事になった。」

 防具を装備した俺はお父さんに連れられ、あの訓練所に来ていた。
 俺とお父さんが最後だったらしく、到着した頃には既に皆が集まっていた。

「と言う事でってどういう事ですか!ソラ君はまだ3歳ですよ?」

「ああ、わかってる。ソラの相手は俺がするから問題ない。」

「そういう問題じゃ……」

 えぇ……俺の相手はお父さんかよ。
 女の人が良かったなぁ……まぁ、仕方ない。

「他に言いたい事がある奴はいるか?――居ない様だな。じゃあ、開始!」

 お父さんがそう言うと、
 前と同じように二人一組になって模造刀で打ち合いを始めた。
 片方が無気力に模造刀を振り回し、
 それをもう片方が軽く受け流したり……

 はぁ、本当にやる気ないよな。
 こんな奴等が上位種族なんだよな……

「じゃあ、俺達も始めるか。」

 お父さんはそう言って模造刀を渡してきた。
 受け取ってみると驚く事に模造刀は軽く、まるで中身が空っぽの様だ。

 一体何で出来てるんだ?
 見た感じと触った感じは木製って感じなんだけどな……

「どうした?」

「これって何で出来てるのかなって。」

「ああ、それは一角蝶というモンスターの角で出来てる。
 随分と軽いだろ?だがな、耐久力は鉄よりも高いんだぞ。」

 一角蝶……?
 そんなの図鑑に載ってたかな?

 一角蝶の角……蝶ってあの蝶だよな?
 花畑でパタパタ飛んでるあの蝶だよな。

 あれに角……想像出来ないぞ……
 まぁ、今はいいや。
 その内実物を見に行こう。

「よし、準備できたぞ。どんな感じでも良いから俺に打ち込んで来い。」

「はーい。」

 どんな感じでも良いのか。
 んじゃ、何時も通りの感じでやるか。

 俺はそう心の中で呟き、模造刀を構えた。

「おお、様になってるな。」

 そして俺はお父さんに向って一直線に突っ込んだ――

 前の様に疾風の様に早いわけではなく……
 おっそ……

 そうだった。
 俺はまだ3歳だったんだ。
 一瞬忘れてた……まぁ、ここまでやったしやるだけやってみるか。

 模造刀がお父さんに届く範囲に入り、
 俺は地面を力強く踏みしめその反動を利用して模造刀の力一杯振った――

「っ!?」

――スカッ

「あれ――うっ!」

 模造刀はお父さんに届くことは無く、
 空中を切り裂きバランスを崩した俺はそのまま地面に倒れた。

「痛い……」

 ああ……そうだった。
 今の俺は3歳で身長も小さいんだった……忘れてた。

 そりゃ、前の体の時の感覚でやったら当たらないよな。
 はぁ……痛い。

「だ、大丈夫か?」

「う、うん。」

 お父さんが手を飛ばしてくれたので俺はありがたく手を握って起き上がった。

「防具着てて良かったな!」

「うん……」

 いや、滅茶苦茶痛いんだけど。
 確かに傷一つ付いてないけどさ……


 その後も何度もやったが、一度も当たる事は無くその日の訓練は終わった。

「はぁ……」

 訓練を終え、色々あって家に帰り夕飯を食べ俺は自分の部屋に戻って、
 大きなため息をはいた。

 はぁ、散々な一日だったな……
 まさか、体が違うとあんなにも弱くなるなんて思わなかったな。
 いや、弱くなるのは分かっていたけど
 ……攻撃が一発も当たらないってどういう事だよ。

 はぁ、こんなんで世界救えるのかよ……
 前の体が恋しい……改めて思うけどエリルスの加護って相当凄かったんだな……

「はぁ……」

 でもまぁ、
 ――命と引き換えに力を失った――
 みたいに厨二っぽく考えれば弱くても諦めが付くんだが……

 そうはいかないんだよなぁー
 こんな弱くても強くなってこの世界を救わないと行けないんだよな。
 ……一体何時になったら救えるんだろうか。

 早くヤミ達に会いたいがこんなんじゃ何十年
 ――下手すれば何百年掛かる事やら……
 ……そもそも、俺って人間だよな?
 何十年は兎も角、何百年も生きられないじゃん。
 せっかく転生してヤミ達の所へ帰れるチャンスを貰ったのに
 ……そのチャンスを無駄にしてこの世界で死んでいくのかなぁ……

「――いや」

 そんな事は絶対にしない。
 したくない。

 下向きに考えるのはやめよう。
 もっと前向きに……そうだな――

 ――俺は大魔王と謎の神様に気に入られたソラ様だぞ!俺に不可能は無い!――

「……」

 おぉっ!?力がみなぎって来るぞ!!
 この調子で頑張るぞ!!……がんばるぞ……はぁ

「今日はもう寝よう。」

 取り敢えず今後の目標はお父さんに攻撃を当てる――いや、お父さんを倒す事にしよう。
 目標は大きく持った方が良いからな。

 そんな目標を立てて、俺は眠りについた。

・・

「おはよう!お父さん!」

 翌日、俺はいつも通りの時間に起きて、
 いつも以上にテンションを上げてリビングに行った。
 テンションが高い理由は……特に無い。
 何となくだ。

 たまにあるでしょ?
 何となくテンションが高い日。

「おお?なんか今日は元気一杯だな!」

「えへへ~」

「よし、じゃあその元気で今日も訓練するか!」

 うん!
 と言う所だが俺はあえて

「いや、今日は――」

 断った。
 理由は簡単だ。
 お父さんと訓練するより一人で訓練する方が良いからだ。

「やりたい事があるんだよね……」

「そうか……じゃあ、また今度だな。」

「うん!」

 ご飯を食べ終わり、俺はお父さんにちょっと散歩してくる!と言って家を出た。
 だが、俺の本当の目的は散歩では無く、誰も居ない場所で訓練する事だ。

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