勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

擬人化とソラ

 翌日、俺はスラを連れて何時も通りに手伝いをする為、
 畑でゴリラの事を待っていた。
 ヤミは再びライラに付きっ切りで言葉を教えている。
 ほぼ毎日勉強している成果が表れ、
 昨日の宴では村人達と楽しそうに話していた。

 俺なら毎日びっちり勉強なんてしたらきっと頭がおかしくなるだろう。
 それにしても、ゴリラの奴遅いな……。

 そんな事を思っていると少し離れた民家から一人の男が出て来て、
 こちらに向って何か叫びながら近づいてきた。

「おーい、兄ちゃん!」

 何か今日のゴリラは何時もより上機嫌の様に感じるな。
 何かいいことでもあったのか?

「今日は随分と遅いな。」

「ちょっとな、色々と考えてたんだ。」

「そっか。で、今日は何をするんだ?」

「……」

「?」

 ゴリラが突然下を向いて黙り込み、
 不思議に思っていると不意にゴリラが満面の笑みを浮かべ顔を上げた。

 何だコイツ、変な物でも食ったのか?

 俺はそんな事を思いながら若干ゴリラとの距離を取った。
 ゴリラはずっと満面の笑みを浮かべ何やら聞いて欲しそうに
 此方をチラチラとみてきている。

 はぁ~。とため息を吐き、
 俺は仕方なくゴリラに聞くことにした。

「気持ち悪いんだけど、何か食べたの?」

「はっははは!良くぞ聞いてくれた!
 そんなに知りたいなら教えてやろう。」

「いや、別に良いけど。」

「そうか、そうか!実はだな、今日は昨日の件で
 礼と謝罪をしたいから街に行こうと考えている!」

 こいつ、人の話聞いてねえし。

 それに街に行くだと?
 一体何を企んでいるんだ……。

「何を企んでいる?」

「企んでなどいない。
 ただ礼と謝罪をしたいだけだ。」

 礼はわかるが、謝罪って何だ?
 ……あぁ、あのゲロか。

「なるほど。で、具体的に何を?」

「んーそうだな。」

 ゴリラはそういって俺の体をジロジロと見てきた。
 そして、ゴリラは俺の腰に掛けてある武器を指さした。

「見た感じ随分とぼろい様だが……
 よし、新しい武器を買ってやる。」

「武器か……。」

 俺はそう言い、鞘から武器を取り出し、
 良く見えるように太陽にかざした。
 すると、ボロボロになった武器のいたるところから太陽の光が漏れてきた。

 そういえば、この世界に来てからずっとこの武器だったな
 ……そろそろかえどきだな。

「良い物を頼む」

「おう、任せとけ!」

「で、何時行くんだ?」

「よし、今行こう。」

 今か……俺は別に良いけどあいつらは今勉強してるしな
 ……置いて行くのも可哀そうだし明日にしてもらうか。

「なぁ、明日じゃだめか?」

「ん?何かあるのか。まぁ、明日でもいいぞ。」

「おお、そうか!助かる。」

「おう、じゃあ今日はやる事もないし休んでていいぞ。」

・・

 それから俺は特にやることも無かったので適当に村をブラブラと歩いていた。
 途中、子供たちが戦い方を教えて!と言ってきたので
 暇つぶしがてら簡単にだが教えてあげた。

 そしてなんやかんやで夜になり、
 何時も通り眠りについた。

「ソ……ラ……ソラ……ソラ!」

 久しぶりに聞く声だな……。
 俺はそう思いながら微かに目を開けると、ひらすら白い空間が広がっていた。

「久しぶりだな、エリルス。」

「うん~久しぶりだね~。
 ね~ね~、ヴェラがソラの事気に入ったらしいよ~
『大魔王様、ソラを少し分けてくれないですか?』
 って言ってきたんだよ~びっくりだよ~」

「分けてくれって俺は一体どういう……まぁ、良い。
 で、何の用だ?まさかそれだけ何てことはないだろ?」

「まさか~ちゃんと用はあるよ~。
 えっとね~明日街に行くんでしょ~」

 俺は何で知ってるんだよ!と言いたかったが、
 どうせ『それは~大魔王様だからだよ~』
 と言われて終わる様な気がしたから言わないことにした。

「そうだが?」

「ナナリア村の近くだから~
 ニマエって言う街に行くと思うんだけど~そこにね~、
 新しい迷宮が現れたらしいから中に入ってみてほしいな~。」

「迷宮か……楽しそうだ。」

「うんうん~ソラならそういうと思ったよ~
 じゃ、よろしくね~。
 あっ、しっかり報酬はあげるからね~」


 迷宮か、一体どんな所なんだ?エリルスの記憶では
 あまり詳しい事が分からなかったが
 兎に角モンスターと罠と宝があるってことはわかった。
 少し危険そうだが楽しそうだ。

 そんな事を思いつつ再び目を瞑った。

 翌日、俺達は街に出掛ける準備を済まして村の出入り口でゴリラの事を待っていた。
 ライラは久しぶりの外出で凄くはしゃいでいる。
 凄く鬱陶しいが、今までずっと勉強を頑張っていたので
 俺は温かい目で見守ることにした。

 すると、突然ライラがピタリと静かになり何やら不安そうに此方を見てきた。

「ところで主人よ、
 今日は街に行くと言っていたが本当に私も行っていいのか?」

「へ?」

 突然ライラにおかしな質問され俺は変な声を出してしまった。

「いや、その……私は一応奴隷だし、
 この村に来た時だって主人は村人達に変な誤解されない様に
 私の事を頑張って説明していたし
 ……私がいたら迷惑だから居ない方がいいのかなって……。」

 ええ??こいつこんな性格だっけ?
 ずっと勉強してて遂におかしくなってしまったのか?
 ……にしても、今頃迷惑って馬鹿かこいつ。

「お前は今更なに言ってんだ?
 確かにお前は迷惑だ。
 お前に出会わなかったら無駄な出費なんてしなくて良かった。」

「うっ……」

「だがな、俺はお前の事が迷惑だと思っても、
 居ない方が良いなんて考えた事ないぞ。」

「え?」

「お前は自由になったにも関わらず俺についてくる道を選んだ
 ……その……つまりだな、お前は奴隷では無く俺達の大切な仲間だ。
 だから遠慮なんてするな、居ない方が良いなんていうな。
 つか、居なくなってもらったら困るからな30金貨も払ったんだ。
 せめて俺より長生きしないと許さねえ。
 まぁ、お前は竜人だから寿命――」

――ぎゅうううぅ

「主人っっ!」

 こいつっ!人が話しているのにも関わらず抱き着いて来るとは!
 まぁ、遠慮するなって言ったのは俺だけど
……それにしても豊満な胸が力強くムニムニと当たってきやがる、
 くそうチェリーボーイには少し刺激が強いぞ……。

「お、おい、そろそろ離れろ!」

「だって主人が遠慮するなって。」

「確かに言ったけど……お、おい、良いのか?
 このままだと俺のエクスカリバー(ネイティブ発音)が発動してしまうぞ!
 良いのか?凶暴だぞ!?」

「何だと?それは新しい魔法か?
 良いぞ、是非見てみたいな!」

「良いわけないだろおおお!
 や、ヤミ、見てないで助けてくれっ!」

 俺は先程から横でジーと見て来ているヤミに助けを求めた――が、
 ヤミは俺と目が合った瞬間視線を逸らした。

「らいら、がんばった。だからゆるす」

「く、くそう!スラ、助けてくれ!
 お前だけが頼りだっ!」

 俺は頭の上にいるスラに助けを求めた。
 すると、スラはヌルッっと俺とライラの隙間に入り膨らみだした。

「「?」」

 俺とライラはそんなスラの不可思議な行動を見て首を傾げた。
 すると、スラが急に大きくなり、
 その衝撃で俺とライラは飛ばされ尻もちをついた。

「いてて……ありがとスラ、助か……あええ?」

 俺は本日二度目の変な声を出してしまった。
 何故なら目の前には、綺麗な橙色のロングヘアで
 若干垂れ目の完璧なプロポーションの少女が立っていたからだ。
 その少女は貴族が着ているような白く所何処に橙色のラインが入ったコートを着ていた。

 身長は大体160ちょっとだろうか。

「「「だれ?」」」

「まったく、黙ってみて居れば少しやり過ぎです。
 第一、ソラの最初の仲間は私なんですよ?
 貴方達は私の後、つまり、私の後輩って事です。
 後輩が先輩より早くソラとイチャイチャするなんて許しません!」

 俺の最初の仲間だと?……最初の仲間、
 オレンジ……まさか、こいつスラか!?

「スラ?」

「はい?何ですか?」

 うわぁ!やっぱり、スラだ。
 そういえばスラのスキルに擬人化?ってあったな。
 レベルが上がって使えるようになったのか。
 ……何かこんな美少女の名前はスラだなんて
 ……名前を付けた時の自分を殴りたい。

 俺達はスラの擬人化に驚きしばらくその場で固まり沈黙していたが、
 ヤミがその沈黙を破った。

「ほんとうにすらなの?」

「そうですよ。どうしてそんな信じられないって顔してるんですか。
 ……仕方ないですね、見ててください。」

 俺達はスラの言われるがままにスラの事を見た。
 すると、スラの体が急にドロッとなり始めた。
 頭から下へと。

 なかなかグロテスクな光景だが、
 俺達はその光景を見て本物だと確信した。

 完全に人型からいつも通りのスライム型に戻ったスラは再び膨らみ始め、
 人型になり、先ほどの美少女が現れた。

「どうですか?これで信じてもらえますか?」

 スラは若干ドヤ顔でそう言った。

「……」

 そんなスラの事を何故かヤミは頬を膨らませて睨みつけていた。
 俺は不思議に思いヤミの目線の先を見ると、
 ヤミはスラの一部を睨みつけている事が分かった。
 ヤミの睨みつけている場所、それは、二つの豊満な膨らみ――つまり胸だ。

 俺がそう気付き苦笑いしながらヤミの方を見ると
 ヤミは自分の胸を押さえてショボンとしながら「すらいむにまけた」
 と呟いていた。

 流石にスラも気付いたらしく頑張ってフォローしよう
 「胸なんて飾りですから!」などと言っている。
 そんな光景を見て先ほどまで尻もちをついていた
 ライラも立ち上がりヤミのフォローを始めた。

「やれやれ……。」

 俺は小声でそう呟き、しばらくその光景を温かい目で眺めていると、
 突然ヤミが此方に近づいて来て心配そうな表情で俺の目を見てきた。

「ますたはおおきいほうがいいの?」

「え?」

 確かに大きい方が色々と良いが……くそう、落ち着け俺。
 ここで間違った答えを言ってしまったら
 恐らくヤミの漆黒の炎によって処刑されてしまうぞ
 ……どうする、誤魔化すか?
 でも何て言って誤魔化せばいいんだ?……そうだ、ここは話を逸らそう。

「そ、そういえば――」

「こたえて」

 くそう!失敗だ。どうするどうする?何か無いのか……
 俺がそう思っているとゴリラが此方に向って走ってくるのを発見した。
 俺はこの絶好のチャンスを見逃すまいとゴリラに手を振った。

「おーい、遅いぞ!」

「ははは、すまんすまん。
 ってうぉおい!?誰だこの綺麗なお嬢ちゃんは!」

 ゴリラは俺達に近づき笑顔で謝り、
 周りを見渡し、スラの事を発見し驚いていた。

「あー、そいつはスラだ。」

「え?スラだと?スラって言えば何時も
 兄ちゃんの肩やら頭に乗っていたスライムと同じ名前じゃねえか。
 ……まさか」

「ああ、そのまさかだ。
 そいつは正真正銘何時も俺の肩やら頭に乗っていたスラだ。」

「た、たまげたなぁ……あのスライムがこんな綺麗になるなんてな
 ……つか何でスライムが人間になってるんだ?」

「あ、それは私から説明しますね。」

 俺が説明しようとしていたらスラに先を越されてしまった。

「えええ!?しかも喋れるのかよ!
 なぁ兄ちゃん、この子俺にくれねえか?」

 突然何を言いだしているんだこのゴリラは。
 しかもお前には奥さんがいるだろ。

「おいおい、奥さんに言いつけるぞ。」

 ゴリラは俺の言葉を聞き一瞬で真っ青になった。
 ……昔にでも何かあったのかな?

「じ、冗談だよ!……言うなよ?」

「さぁな。それより、スラの話を聞け。」

・・

 スラがゴリラに詳しく説明をした後、
 俺達は街に向い始めた。
 勿論歩きだ。
 馬車?そんな便利な物がこんな小さな村にあるわけないだろ。

「さて、問題だ。今から行く何て名前の街にいくでしょうか。」

 黙々と歩いている途中、
 ゴリラが急に問題を出し始めた。

 まぁ、ちょうど暇だったから良いんだけど。
 それにしても今から行く街の名前か……確かエリルスがニマエって言ってたな。

「さぁ、答えるんだ兄ちゃん!」

「何で俺なんだよ……ニマエだろ?」

「……何で知ってるんだよ!」

「そんな若干キレた感じで言うなよ。勘だよ。」

「くそ!Sランクってのは勘も良いのかよ!」

 そんなくだらない話をしながら歩いていると思ったよりも早くニマエに着いた。
 結構賑わっていて何処に何があるのかが全く把握できない。
 俺は余りの賑わいに若干引いているとゴリラに無理やり手を
 引っ張られ人混みの中に引き摺りこまれた。
 ヤミ達も逸れない様に俺の服を掴んでいたので一緒になって
 人混みの中に消えていった。

 しばらく人混みにもまれ、やっと人混みの中から出ると、
 目の前にはいかにも煉瓦作りのいかにも鍛冶屋っていう建物があった。
 ゴリラはその建物に入っていったので俺達は後を追ってその建物の中に入っていった。

 建物の中は、客は一人も居ないが、至る所に武器や装備が飾っており、
 カウンターの奥からはカンッカンッと言う騒がしい音が聞こえて来た。

 ゴリラはカウンターの前に行くと大声で「親父!!」と叫んだ。
 すると、騒がしい音が鳴りやみ、カウンターの奥から一人の人物が現れた。
 その人物を簡単に表すとゴリラに髪を生やした感じだ。

「なんだ、息子よ。」

「親父、今日は――」

 俺は色々と突っ込みたかったが、
 何故か突っ込む気が起きなかった。

「なるほど、その坊主の武器を買いに来たのか
 ……よし、わかった。ちょっと待っとけ、
 今とっておきのを持ってきてやる。」

 それから数分後、
 ゴリラの親父さんはカウンターの奥から黒い竜の鱗が付いた長剣を持ってきた。
 ゴリラパパはそれを俺に渡してきたので試しに振ってみると、
 とても軽く扱いやすかった。

「兄ちゃん、気に入ったか?」

「ああ、結構扱いやすい武器だ。」

「それじゃ、それで決定でいいか?」

「ああ。」

「わかった。ところで、お嬢ちゃん方は武器いらないのかい?」

 ゴリラにそう聞かれ、ヤミは手のひらに漆黒の炎を出現させ、
 ライラは右手を竜の手にし、
 スラは腕の形を変え鋭い刃物の様になった。

「お、おお、いらないって事か……。」

 ゴリラに武器を買ってもらい、
 古い武器はゴリラファザーにあげて俺達は鍛冶屋を出た。

コメント

  • ノベルバユーザー366207

    突っ込んだら負け

    1
  • リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!

    リムル様ですねオレンジ色の

    1
  • しらす(。∀゜)

    ゴリラファザァー( 'ω')ふぁっ

    2
  • 戦場帰りの兵士

    手刀?

    2
  • fedel

    ゴリラはやばいw

    2
コメントをもっと見る / 書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品