死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第66話〜虐殺〜

 ニルベルが国の外に出て歩き始めた時、それは現れた。それは、魔王モンブランその人だった。

 ニルベルが最初に感じた感情は恐怖。だが、それと同時に神々しくも感じていた。ニルベルはそれと対峙した瞬間理解した。この存在が、国を滅ぼしたのだと。この生物の逆鱗に触れてしまったのだと。

「お前が俺の大切なものを奪おうとした張本人だな。なぜこんなことをした?」

「すまない。何を言ってるのか分から」

 ニルベルの言葉をさえぎるように、耳の横をかすめて高速の槍が通り過ぎる。

「もう一度だけ聞く。なぜ、俺の邪魔をする?」

「記憶を失っていて、何も思い出せない。最後の記憶は、黒い鎧と二本の角を生やした生物と会ったとこまでしか」

「二本の角に黒い鎧か」

「理解してくれたか?」

「ああ。非常に有益な情報だ」

 モンブランは槍をニルベルに向かって構える。

「だが、花音を襲ったこの国を許す気はない。すぐに仲間に合わせてやる」

「やはり、そうなるか」

 ニルベルは剣を構える。

「俺は生きる。まだ来るのは早いと叱られたばかりだから。絶望などしていられない、私は希望を持って未来に踏み出すと決めたんだ」

紅蓮の雷バラザーク

 ニルベルの体を赤い雷が包み込む。

 両者が同時に踏み込む。

 カキンッ

 金属同士がぶつかったような甲高い音が響き渡る。

 両者ともに驚きの表情を浮かべている。

 モンブランは殺すつもりで刺した槍をはじかれたこと。ニルベルは自分の剣が相手の槍をはじいたことにだ。

 ニルベルは妙な感覚に襲われていた。自分が踏み込もうとした瞬間、誰かに背中を押してもらった気がした。そして、剣を誰かと一緒に持っているような気もしていた。

「ありがとう皆。俺は生きる!」

「死ね!」

 再び襲い掛かるモンブランの槍を、ニルベルが防ぐ。

「俺は、負けない。俺はこの国の戦士達、全ての命を背負って生きているんだ! 負けるわけにはいかない」

 ニルベルの剣がモンブランの首に直撃する。だが、モンブランの首が飛ぶことはない。それどころか、ニルベルの持っていた剣が半分のところからはじけ飛んだ。単純な硬度の差で剣が負けているのだ。

「これが差だ。おとなしく死ね」

「諦めるには早すぎる」

 そう言ったニルベルの手に、紅蓮の雷が集まってできた剣が握られていた。

「喰らえ!」

「なんだと」

 その剣はモンブランに傷を与えることに成功した。

 ニルベルがここまで強い理由。それは魔力量だ。自爆のためにため込んでいた魔力。死んでいった仲間から受け取った魔力を、全て温存しないで戦闘に使用している。それだからこそ、魔王モンブランと対等の戦いを繰り広げている。

「もらった!」

 ニルベルの剣が今度こそモンブランの首を切り落とそうと迫る瞬間。それはニルベルの目の前に割って入った。いや、割って入れられた。

 ケイネル魔法国の女性。そして、ニルベルの嫁でもある女性だった。生死を確認しようと、一瞬、ほんの一瞬だけニルベルの動きが止まる。それは致命的な隙になる。強いもの同士ならなおさらだ。

 ニルベルは気づけば両足を失っていた。

「へイル! 女性を、しかも妻を使うなんて。貴様許さんぞ!」

 ニルベルは自分の場所がどこなのかゆっくりと理解する。戦闘に集中していて気が付かなかった。地面はケイネル魔法国にいた、女性や子供の変わり果てた死体で埋め尽くされていた。肉塊に近い。知らず知らずの内に、誘導されていたのだ。隙を作る物がたくさんいる場所に。

「お前の妻を選んだのはたまたまだ。そんなことに俺は興味がない。まあ、息の根があってよかった。おかげで大きな隙になった」

 モンブランはヘイルと言われる女性を地面に放り投げる。そして、槍で心臓を貫く。

「息の根があるとは驚きだった。俺も甘いな」

「クソがーーー!」

 足のないニルベルは拳で地面を殴り、その勢いでモンブランに向かっていく。

 両者が同時に斬り合う。

 ニルベルは左腕を失っていた。そして、モンブランも左腕を失っていた。

「この程度で済むと思うなよ。俺はお前を絶対に許さない!」

「勝手にしろ。これはお前らが犯した罪に対する報復だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「ほざけ!」

 モンブランは切り落とされた腕を拾い上げ傷口に当てる。次の瞬間、モンブランンの腕は元通りに再生していた。

「何が報復だ。この、殺戮者め。仲間の、ケイネル魔法国の民、全ての無念をお前に教えてやる」

 ニルベルは片手で剣を構える。

「全ての散っていた魂よ。俺に力を貸せ。あの化け物を殺すための力を!」

 ニルベルの雷の剣に尋常ではない魔力が集中し始める。

「それがこの国の全ての力か。良いだろう。真正面から叩き潰してやる」

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