死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第54話〜再会〜

 クラスメイト達は魔物との生活をしていく中で、徐々に魔物への抵抗が薄れてきていた。同じ食卓に集まったり、一緒に風呂に入ったりするのも平気なほどになった。

 セイヤが成し遂げられなかったこと。友たちを救うこと。平和への第一歩を、司は成し遂げた。

 新しい国を作る。魔物も人間も、平等に共存し合える国を作る。そのことが、司の次の目標になっていた。
 
 まずは土地を確保して、町を作ること。ヴァンパイアの城は山の奥深くにあるため、国として生活をするには不向きなのだ。

 そのために、司はインテグラル王国があった場所に来ていた。

 スパッ

 巨大なクレーターを目の前にして、司は手首を切った。その体からは想像もできない量の血が溢れだし、クレータを真っ赤な海へと変える。

「戻れ」

 司が血に触れそう言った瞬間、クレーターは消滅し、平な地面に変わっていた。司が自らの血を地面へと変換したのだ。司は思い通りの結果になり、満足そうに微笑む。

 よく考えれば分かることだった。城の城壁や家屋が血になるはずがない。司の中に秘められているもの、それは何か別のもの。血を超越した何かだった。

 次は建物だ。そう思い、司が空へと上がっていく。

 翼を最大限に広げる。最大限に広げた翼は、六メートルを優に超える。翼に血をため、地面に向かって一気に翼を動かす。赤い雨が降り注ぎ、地面についた血は形を変え、少しずつ町を形成していく。

 あとは少しで王城が完成し、全てが元通り。というところでそれは現れた。現れてしまった。

 司は感じ取った。はるか遠くから、尋常ならざる速度で近づいてくる者を。白銀の髪を携えた人間。

 目の前に立つことさえやっとだった。圧倒的な恐怖を与えてきた。本当の絶望を与えられた相手。

「久しぶりだな。人間」

 それは、魔王の一人。孤高の王シンだった。

「いや、もう人間ではなさそうだな。ヴァンパイアか」

 初めて会った時のような、心臓を潰されるような感覚はしない。これが魔王となった力なのか分からない。だが、司は自分が強くなったということを確信する。

 司は動かないが、神経を最大限に研ぎ澄ます。いつ殺し合いが始まってもいいように。先手を取られないために。

「そう警戒するな。今日は戦いに来たわけではない。ここでお前と戦えば、息子の墓が荒れしまう」

 前に出会った時のような、荒々しい口調ではない。落ち着いた、優しい口調だ。

「墓?」

「気づいていただろう。息子だよ。人間であるが、人間を超越した者」

 あの人と対峙した時に感じた違和感。それが確かだったことを司は理解する。

「アランさん」

 アランさんは自分が殺した。そう知れば必ず殺し合いになる! そう確信した司は一気に距離をとる。

「だから警戒するな。お前が殺したことも知っている」

「!?」

「一度感じたことのある力を感じた。それも膨大に進化したな。その後近くにいた息子の力を感じなくなった。そういうことだろう?」

「はい」

 司は小さく答える。司にとって忘れたい。だが、忘れてはいけない。大きな分岐点となったことだ。

「そうか。少し聞かせてくれるか? 息子が何を思い、何を残し、どう死んでいったのか。何を言っても戦闘はしない。だから全てを話してくれ」

 司は全てを話した。ヘルメスのこと。クラスメイトのこと。自分が殺したこと。最後の言葉まで。全て。

「あいつは本当に甘い奴だな。最後の最後まで甘すぎだ。だが、他人を思って死ぬとはあいつらしい」

 シンの表情に、特に変化はなかった。だが、少し、ほんの少し、思い出に耽っているような、そんな表情だ。

「話してくれてありがとう。そして、魔王になったことおめでとう」

「はい」

 シンは超巨大な咆哮を放つ。その咆哮に込められた意思。それは全生命に向かって放たれた言葉。魔王も例外ではない。

 この場所で戦闘を起こすものに容赦はしない。魔王シンとしての全力を持って叩き潰す。

「最後に……… ギン・クルクニフ これが本当の息子の名だ。覚えていてやってくれ。どうせお前は死なないんだろう。だから、記憶の片隅にでもとどめておいてくれ。そういう人間もいたのだと。それだけで十分だ」

 そう言って魔王シンは去っていた。ゆっくりと、ゆっくりと歩きながら。

 その背中は魔王シンではなく、だこにでもいる父親のものだ。司はそう感じずにはいられなかった。

コメント

  • ノベルバユーザー109428

    とても面白いです!
    はやく先が気になります(^。^)
    投稿大変だと思いますが頑張ってください!応援しています(^。^)

    1
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