死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第49話〜衝突〜

 ドゴンッ

 巨大な音で司は目を覚ます。

 司は嫌な予感がした。

 剣を握り、寝間着のまま扉を開け、廊下を通り大広間に向かう。

 そこに広がる光景は、司の予感した嫌なもの。そのものだった。

「俺達に近寄るな! 殺すぞ!」

 壁を背にして、二人の男が怒号をまき散らしている。その周りを、数体のヴァンパイアやサイクロプスが取り囲んでいた。

 一番はじめに目覚めてほしくない奴等が目覚めてしまった。司は自分の不運を実感する。何度も何度も見てきた顔。森山と井上、忘れるなら忘れたい人物たちだ。

 サイクロプスが階段を登ってきて状況説明を始める。

 どうやら、部屋の外に出て見つけた魔物に魔法を放ったらしい。魔物は敵だと教えられているから、当たり前だと言えば当たり前なのだが、行動が軽率すぎる。司は心の中で深いため息をつく。

「下がっていてください」

 階段を降りきって、周りを取り囲んでいた魔物たちを下がらせる。

「サンダーボルト!」

 ゆっくりと歩み寄る司に放たれたのは言葉ではなく、魔法だった。

「シールド!」

 初級魔法など、魔王となった司には避ける価値すらない。だが、近くにいたヴァンパイアの魔法によってそれは打ち消される。

 司はパッと鏡を見て理由を思い出す。

 見た目だ。魔王になり、もはや人間とは程遠い外見になっている。それがゆっくりと歩み寄ってくるのだ。魔法を打つのもうなずける。いや、最も正しい行動だろう。

「二人とも、久しぶりだね」

 二人の目の前に来たヴァンパイアは一瞬で消え、そこには元の姿をした司がいた。

「おい! この状況どうなってんだ?」
「魔王に捕まったのか? 俺らは死ぬのか?」

 森山が司の襟をつかんで問いただす。

「いや、死なないよ。絶対に」

「さっきのヴァンパイアはどこ行った? お前はどこから現れた? 失踪したはず」
「とにかく魔物だ。手を貸せ! この数はキツイがやるしかない。殺される前に」

「魔物は俺の味方だ。絶対に手は出さない」

 司の言葉に二人は一瞬驚き、いつもの調子に戻る。

「何言っている。こいつらは魔物だぞ。失踪してる間に頭もおかしくなったか」
「まあいい、こっちにはいい肉壁があるから逃げれるだろう。ほら行けよ!」

 森山の蹴りが、正面から司を襲う。司の腹にちょうど当たった蹴りは、司を動かすだけの力を持ち合わせてはいなった。

「何耐えてんだよ! ゴミの分際で。お前の能力がやっと生かせる場面が来たぞ。さっそと壁になれ。これぐらいしか存在する価値ねえんだから働けよ!」

 ゴミ 肉壁 存在する価値がない 

 昔と何も変わらない罵倒に、司は焦って剣を抜く。

 カキンッ

 剣と剣がぶつかる音が大広間に響きわたる。音を発生させたのは司の剣と、ヴァンパイアの幹部であるイチルの剣だった。

 あまりの速さと衝撃波により、二人は腰をぬかして地面にへたり込む。

「どうして止めになられたんですか」

「こいつらは俺のクラスメイトです。殺すことは許しません」

「ですが、こいつらは生かしておく価値がない。我らが王に舐めた口をきき、態度もでかい。もう救いようがない」

 イチルの目からは本人の強い意志が感じられた。

「命の価値はあなたが決めることではないです。それなら、そこにいる二人と同類ですよ。それとも、王の命に逆らうんですか?」

 これは絶対に譲らない。司も強い意志を込めて発言する。

「申し訳ありません。先ほどの失言、お許しください」

「大丈夫ですよ。そんなに気にしてませんから」

 さて、この二人の説得は本当に骨が折れそうだな。

 はぁ

 司は深いため息つき、これから起きるであろう苦労ごとにやる気を出すのだった。

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