死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第46話〜強襲〜

 クレーターの真ん中で、ゆっくりと司は目を覚ます。それは、今までにないぐらいゆったりとした、スッキリとした目覚めだった。

「終わったか」

 自分が死んでどれだけの時間が経ったかは分からない。目覚めた司は今までの葛藤が嘘のように、頭の中には混乱がなかった。最優先のもの。アランさんに言われて本当の意味でやっと分かった。そのおかげだろう。

 全て終わった。帰ろう。皆の待つところに。花音のところに。

 ふと司は周りを見渡す。そこには崩れた王城。赤く染まった家屋。亡骸となったクラスメイトの姿があった。他にも、自分に剣技を教えてくれた騎士団員の亡骸もあった。

 全てはここから始まった。あの出来事がなければ、皆が死ぬこともなかった。希望にあふれた異世界生活は残酷にも消えていった。

 司はクレーターから上がり、近くにあった亡骸に近寄る。顔を確認すると、クラスメイトの高橋さんだった。

 高橋さんは正義感が強くて、女性なのによく俺のいじめを止めてくれていた。まあ、始まりたての頃の話だが。初めていじめを止めに入ってくれた時はどれだけ嬉しかったか。今でもよく覚えている。

 止めなくなったことを責めたりしない。いじめは当人たちの問題である。それに間違いはないからだ。わざわざ止めてくれる方が珍しい。だからこそ、本当にうれしかった。
 
 止めてくれなくなったことに、ほんの少しも恨みがないのかと言われれば、自信満々に頷くことはできないかもしれない。

 だが、こうして目を瞑る顔を見ると、恨みなど湧いてくるわけがない。ただただ、虚しい。悲しい。それ以外の感情は出てこない。

 いじめてきていた奴らも二人死んでいる。近寄って顔を見ても、湧いてくる感情は憎しみや恨みではない。自分でも驚くが、高橋さんと同じ、虚しみと悲しみだ。それが俺の優しさからなのかは分からない。見知った人が死ぬのは悲しい。それだけは痛く胸に刺さった。
 
 司は何かを悟ったように顔を上げる。そして、ゆっくりと歩きながら全ての亡骸を一カ所に集めていく。もとの形でない無残なものもあった。だが、司はそれも全てかき集めた。

 司は最後の一人、騎士団の副団長であるアンナを運び始める。

 ここで死んでいるということは、セイヤの仲間ではなかったんだろう。やはり悲しい。すべては奴! ヘルメスのせいだ。
 
 憎しみの感情はそれにだけ向いていた。

 最後の一人であるアンナを運び終わる。司の目の前には、見知った人によって赤い山ができていた。五体満足な人はいない。体のどこかが欠けて赤い液体を流している。

 本当なら生きているクラスメイトも別れをさせてあげたいが、こんなものを見てまで別れをする必要はない。こんな残酷なものを見るのは俺だけで十分だ。

「さようなら」

 悲しげな司だが、涙は流れていない。司はゆっくりと空に手を掲げる。願うのは安らかな眠り。巨大な魔法陣が司の足元から発生する。その瞬間、それらは空から降り立った。

 司の目の前に一人、司を囲うように遠めに三人が降り立った。頭から二本の黒い角を生やし、黒い鎧を身にまとっている。

「なんだこれ? 血だらけじゃねえか」

 司の目の前に立った者が汚れたことによって怒りを口にする。それもそのはず。司が別れのために運んだ亡骸を、踏み潰すように降りてきてしまったのだ。

 だが、怒りを覚えたのは降りてきた者だけではない。

「気を取り直して。お前が新しい魔王か? 俺の名前はターレン。俺は魔王であるベラ様から伝言を承って来ている」

『魔王になったことおめでとう。そして、一つ提案がある。私は来たるべき大戦のために力が欲しい。その為にも、魔王の仲間を増やしたい。仲間になるならばそれなりの対応をとる。そうでないならば、それも相応の対応をとる』

「ということだ。頭の悪い奴ではなさそうだから分かるだろう。これは勧誘じゃない。強制だよ。俺の鎧を汚したことも許してあげるから、仲間になりなよ」

「それ以上何も言うな。お前らは許さない」

 みんなの亡骸を踏み潰された瞬間、頭を電撃が走った。抑えられない怒り。もう限界だ。

 踏み潰されても同じ死。だが、見知った人の亡骸が踏み潰されて気分がいい奴なんてどこにもいない!

 司は確信していた。魔王なんて関係ない。俺は必ずこいつらを殺す!

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