死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第43話〜善悪〜

 モンブランは全力で攻撃を行う。手加減などない。ただ、相手を殺すために神経を集中させる。

「クソが」

 モンブランンの動きはセイヤを凌駕していた。鬼人化は代償が大きければ大きいほど能力が増す。モンブランが選んだのは命。セイヤの反応すら許さず、剣の軌道は首を横切る。だが、攻撃を透過するセイヤに当たることはない。

「殺してやるから覚悟しろ」

 モンブランは超連撃でセイヤの体を攻撃し続ける。一瞬、ほんの一瞬の隙にセイヤからの反撃を喰らう。だが、今のモンブランに反撃などは関係ない。傷はすぐに黒く変色し、次の瞬間には元に戻っている。モンブランは攻撃の手を緩めず、ひたすらセイヤに攻撃を継続する。

 ほんの数分で、その瞬間はやってきた。連撃を繰り返すモンブランの剣を、セイヤが剣で受け止める。圧倒的な速さのモンブランに対して、完全に守りに入っているが、致命傷だけは必ず避けている。
 
「死ね!」

 セイヤの剣を跳ね上げ、真紅の光は心臓を貫く。はずだった。

「チッ! そろそろ時間か」

 再び、モンブランの攻撃はセイヤに届かなくなる。モンブランは一気に距離をとり、自分の首を剣で跳ね飛ばす。黒い霧がモンブランを包み込み、霧がはれると元通りのモンブランの姿があった。

 その後もお互いに決定打がなく、一時間が経過しようとしていた。セイヤは殆ど透過を使用し、隙を見て反撃を行うが、何も意味を持たない。

 もう何度目になるか。モンブランは少し離れて自分の首を跳ね飛ばす。黒い霧が晴れた瞬間、戦闘は終わった。

凍てつく眠りの槍アイシクルランス

 当たったものは瞬時に凍りつき、そのまま封印という、確実な永眠を相手に与える。セイヤが使える中で最も強く、最上級といわれる魔法に区分されるもの。霧が晴れ始めた瞬間、確実な眠りを与えるべく、人間では認識すらできない速度で、それは放たれる。

「?」

 疑問の表情を浮かべるのはセイヤであった。それもそうだ。真紅の光が、真紅の光を放つ剣が、確実に、セイヤの胸を貫いている。

「なぜ?」

「お前ならそうするだろうと思った。黒い霧が発生し、視界がなく、意識すらないかもしれない。その霧が晴れる瞬間、それが最大の弱点だと思っているだろうと。思っていた通りお前は魔法を使った。相当な自信があったんだろう」

「ああ。すべて読まれていたのか」

「お前は俺に攻撃を当てる瞬間は実体化する。魔法も例外ではない。そして、無限に透過は使えない。この一時間でわかったのはそれだけだった。いくら俺でも無限に攻撃なんてできない。隙を突かれて、また時間がリセットされる」

「だから……カウンターを? あれは……早すぎ」

「そうだ。お前が確実に殺せると確信すれば、透過は解除すると思った。俺に魔法を当てるためには当然だ。お前が透過していたら俺には当たらない。だから、それを待った。外で魔力を感じた瞬間、今しかないと思………カハッ」

 モンブランは血を吐き、体中から出血が始まる。二人は、この戦闘でできた大きなクレーターの中心で、膝をついて崩れる。

「俺は全てを使った。血も、魔力も、命も、時間も。その代償がこれだ。早すぎる? あたりまえだろう。俺の命をほんの数秒に圧縮したんだ。勝って当然だ」

「クソッ」

 モンブランはゆっくりと剣を引き抜き、自分の首を飛ばす。再生は一瞬で終わった。だが、異変があった。モンブランの体の出血が止まらないのだ。体も重くて軽快な動きができない。今までは全てが回復して復活していたのに。

「死に過ぎたか。それとも代償か。いい経験だな」

 モンブランは地面に剣を刺し、体を支えながらゆっくりと立ち上がる。

「殺せ」

 モンブランはゆっくりと手をかけ、自分の仮面を外す。

「本当に強いですね。セイヤさん。僕は藤井司といいます。」

 セイヤは驚きと共に司の顔を凝視する。

「本当は仲良くなれたらよかったんですけどね」

「え?」

「貴方がしてきたことが良いことなのか、悪いことなのかよくわかりません。そうするしかなかったんでしょう。自分がその状況になれば、どの選択肢をとるか本当は自信がありません。でも花音に手を挙げたことは、絶対に許されない」

「そうか……俺も自分の選択が正しかったかは自信がない。君は何を目指している?」

「俺は花音を守れる世界です。自分の大切な人が傷つかない世界、それを目指します」

「そうか。まあ、俺みたいにはなるなよ。俺は歯止めが利かなくなった。自分にできないなら、誰かに止めてもらうといい」

「一つだけお願いがある。この世界を平和にしてやってくれ。誰も傷つかないで、魔物と人間が笑って共存できる世界を作ってくれ」

「分かりました。セイヤさんの願い、聞き届けましたよ」

「ありがとう」

「さようならセイヤさん」

 司は仮面を頭にはめて、剣を構える。

「さようなら司君。俺は長い異世界生活でいろいろと変わってしまった。俺……いや、僕は先に逝く。君は本当に苦労してきたんだろう。これからの君の人生が少しでも幸せであることを願っているよ」

「アロンダイト!」

 巨大な光の剣は、セイヤを包み込んでいく。

「やめろ司君!」

 その言葉はモンブランの耳には届かない。

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