死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第30話〜魔王〜

 司とバルクが話していると、バルクの表情が変化する。

「まずい! モンブラン君離れろ!」

 司がバルクに突き飛ばされた瞬間、バルクの背後にある湖にそれは降り立った。

 ドカンッ

 爆音と爆風がバルクたちの村を襲う。爆風のあまり、殆どの建物が壊れ始めていた。爆風がはれると、司は目の前の光景に絶句する。

 ほぼ全壊の建物もそうだが、湖だった場所にできている巨大なクレーターに言葉を失う。

「無事か? モンブラン君」

「はい。なんとか」

「今すぐここからみんなを連れて逃げて! あいつが来る」

「誰が来るんですか?」

「聞いたらすぐに逃げてくれよ。今湖に落ちたのは、【孤高の王 シン】 この世界に君臨する七人の魔王の一人だ。あいつは強い奴を求めて命を奪い続ける戦闘狂だ」

「魔王!」

 司は驚きを隠せない。書庫で読んだ本によって、魔王が七人いることは知っていた。だが、実際の魔王なんて見たことはない。

「そうだ。危険だから今すぐ逃げろ!」

 そういったバルクの背後に、それは立っていた。

「サイクロプスか。楽しませてくれよ」

 容姿は人間そのものだが、明らかに何かが違う。目の前にいるだけで、力を解放したバルクの目の前にいるような感覚に陥る。いや、それよりもさらに酷い。司の感覚が、全力で危険信号鳴らす。

(こいつは無理だ。急いで逃げろ!)

 だが、司は動かなかった。

 ここで逃げていては命を守れない! いずれ魔王は倒す。それが早まっただけだ! 俺には不死がある!

(よせ! やめろ!)
 
 バルクを押しのけ、震える体を押さえて魔王の前に立つ。 
 
「こいよ魔王! 俺が相手になってやる」

「ん? 人間か。ハッハッハ」

「何がおかしい?」

「いや、人間ごときが俺の相手ができると思っていることがおもしろくて。おもしろくて」

「舐めるな!」

 司が鬼人化を発動して剣に手をかけようとするが、司の手はそこになかった。地面に落ちているのだ。

「え?」

 一瞬の出来事で、司は自分に何が起きたのか理解ができなかった。少しして襲ってくる痛みと、目の前の光景で何が起きたのかやっと理解する。

「言っただろ」

 痛みに耐えて左手を振るおうとした瞬間、左手も同様に司と分離していた。

「無駄だ。お前ごとき人間が調子に乗るからこうなる。俺はあのサイクロプスと戦いに来たのにな」

 司は地面に力なく倒れこむ。

「根性だけは評価してやるよ。あと、死ぬ前の手向けにいいものを見せてやろう」

 グラァァァァ

 巨大な咆哮の後に、司の目に見えた姿は人間ではなかった。狼のような人間。

「俺はウェアウルフのシン。孤高の王だ。さようなら弱き人間」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品