死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第27話〜涙〜

 司を中心に魔法陣が形成された。

 よし! 成功だ。

 司が思うと同時に、人間としての根源が襲い掛かってくる。それは恐怖。森山達にいじめられていた時から、抜け始めたと思っていた感情が一気に司を包み込む。人間として自分の命を守るために備わったものが、司の決断を鈍らせる。

 怖い! どれだけ痛いだろうか。このまま生き返らないかも。この指を放せば……

(自分を信じろ! 自分のことを一番知っているのは自分自身。アランさんにさんざん言われただろ! 今までできてできなはずがない! 恐怖を支配しろ)

 そうだ。アランさんも言っていた。

 恐怖はとても大事だが、恐怖は人の決断を鈍らせる。それが自分の本心ではなくても。そうならないためにも恐怖を支配しろ。恐怖をなくすのではなく、飼いならせ! 

 やってみせますよアランさん。恐怖を支配してやる!

 怖くない! 怖くない! 怖くない! 俺は…………生き返る!
 
 司の指に雷が発生し始める。

 怖いのは当たり前だ。でも、逃げない! 俺は………逃げるわけにはいかないんだ!

 司の指から雷が解き放たれる。爆音と共に放たれる強大な雷に、司の頭部は瞬時に消し飛ぶ。痛みを感じる間もないまま意識が吹きとんだ。

 音に驚き振り返ったナーナが見たものは、おぞましいとしか言えない光景だった。頭だけがなく、ゆっくりと倒れ始める体。そして、焼け焦げた木々たち。

「自殺したの? それもこんなに強い魔法を使って? この状況にしても正気じゃないわね。ある意味正解かもしれないけれど、やりがいがないやつね」

 ナーナはルギス達の方に向いて数歩進んだ瞬間に、底知れない恐怖を感じていた。

「嫌な予感がする」

 パッと後ろを振り向くと、ナーナの予感は的中していた。

「死ねえええ!」

 そこには、拳を振りかぶった司が迫っていた。拳をくらい、ナーナが吹き飛ぶ。司の体はすでに赤く発光しており、鬼人化が発動されていることを物語っていた。

「これは………ヤバい! 壁になりなさい!」

 ナーナに迫る司の前に、ゴブリンが大量に集まってくる。

「回復に使われる前に俺が殺してやる!」

 さっきの鬼人化の時よりも遥かに速いペースでゴブリンが肉塊に変わっていく。十数秒のうちに、集まっていた数十体のゴブリンが全て絶命する。その頃には、ナーナの姿が見当たらなくなっていた。

「俺が…………殺してやる」

 司から出た声は普通の声ではなく、薄暗く、どす黒い声だった。 

「よし。どうにかここまでくれば一安心ね」

 ナーナが一匹のゴブリンを捕食しようとしたと同時に、持っていた自分の腕ごとゴブリンが吹き飛んでいく。

「やっと見つけた。早く死ね」

 剣を手にした司が目の前に現れる。

「ここで……私も終わりね。ゴブリン族に……栄光あ……………」

 ナーナが言い終わる前に、ナーナの首は空中に舞っていた。

「死ね!」

 司はナーナの死体を斬りつけていた。何度も何度も何度も何度も。

(もういい! もう終わったんだ。そこまで壊れる必要はない。お前はよく頑張った)

 司はゆっくり歩いていく。ルギス達のもとへ。司も徐々に自分を取り戻していく。その司が目にしたのは、見渡す限り真っ赤に染まった森。そして、血まみれになっている剣を持った、血まみれの自分だった。
 そこらじゅうに生物だった何かが散らばっている。司はたまらず嘔吐してしまう。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

 真っ赤に染まった森に、嗚咽まじりの泣き声が響きわたっていた。

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