不器用プラトニックラブ
34話 穢星那依の劇場 ー後編ー
そして、高校の同窓会-
一次会は、皆で居酒屋。
高校卒業してから、友人にも会っていなかったけど、元気そうで何よりだ。
「那依!」
「わっ!?
  って、蒼珸か…」
「何だそのガタ落ちはっ!」
いきなり後ろから抱きついてきたこの男、僕の友人の渓河蒼珸。
「元気にしてたかぁ〜?」
「うんうん、してたしてた。」
「おい、棒読みだぞ。」
「…そんな事より、蒼珸も相変わらず元気だな。」
「おう。
  つか、お前の彼女、居なかったぞ?」
「えっ、祈莱さんが居ない!?」
「前々から思ったけど、お前…さん付けはダサいって。」
「そ、そうなのか?」
「うん。
  まぁ、お前達の事だから進展してないだろうなぁと思ったよ。」
「ちょっと、流石に傷ついたよ。」
「そんな君に、取って置きを伝授しよう!」
「いや、遠慮しておくよ。」
「何で!?」
「ろくな事がなかっただろ。」
「そんな事ないない!
  俺を信じろって!」
「嫌だよっ!
  お前、散々僕達のことからかってたし、信用出来ない!」
「それ酷くね!?」
一次会が開催されてから、1時間弱が経った。
遂に、彼女がやって来た。
「遅れてごめんなさいっ!」
「あっ、噂をすれば…」
「ちょっ、蒼珸っ!
  何処に行くんだ!?」
蒼珸はその場で立ち上がり、彼女の元へ行った。
「弥栄さん。」
「あっ、渓河君。
  久し振りね。」
「本当、久し振りだよね。
  そんな事より、彼氏の所に行かないの?」
「那依さんは何処に?」
「奥の座席だよ。」
「那依さん!」
「いっ、祈莱さん!」
「久し振り!」
「本当に久し振りだね!
  そ、そうだ!
  祈莱さん、何飲む?」
「私は、ジンジャーエールにしようかな。」
「わ、分かった!
  じゃあ、食べ物も頼むね!」
「有難う。」
「お待たせっ!」
「わざわざ持って来なくてもいいのに。」
「どうせ、自分のも取りに行く次いでだったから。」
「…それより那依さん。」
「な、何…?」
「…緊張、してる?」
「えっ!?
  そ、そんな事ないよ!?」
「そっか…。」
「祈莱さん?」
「ううん、何でもない。」
一次会が終わり、結局話す事もなく、二次会へ。
と思い気や、彼女が僕のワイシャツの裾を引っ張ってきた。
「那依さん、私と別のお店に行こうよ。」
「あっ…うん。」
KINGDOM-
「ここ、私の行きつけなの。」
「へぇ、喫茶店なんだ。」
「そうなの。
  変わってるお店でね、夜限定なの。」
「夜だけ!?」
「そうなの!
  店主が夜の方が働きやすいって言っててね。」
「何で?」
「朝と昼は眠いから、夜しか働けないって。」
「あはは、面白い店だね。」
それから僕達は、今宵を過ごした。
「朝まで過ごしちゃったね。」
「あぁ、いつの間にかだったね。」
「そういえば、今日の朝から雨が降るってテレビで言ってたよ。」
「そうなんだ。
  傘、持ってきてない…」
「今日、仕事あるの?」
「今日はオフだ。
  何かあったのか?」
「私の家に、来ない?
  両親に那依さんを紹介したいの。」
「うん、行こう。」
弥栄家-
「ここが私の家。」
「結構敷地が広いね。」
「まぁ、聞いた話によると、お金持ちらしくって。」
「…成程。」
「さぁ、入ろ。」
「…緊張するね。」
「肩の力を抜いて。
  大丈夫だから。」
「う、うん…。」
「パパ、ママ、ただいま。」
「「祈莱!?」」
「お帰りなさい…どうしたの?」
「突然ごめんなさい。
  どうしても紹介したい人がいて。」
「もしかして…交際相手!?」
「お父さん、敏感になり過ぎよ。」
「だって、祈莱に限ってそんな…!?」
「パパの当たり。」
「…!?」
「お、お父さん…」
「とにかく、自己紹介させて。
  入って来て。」
「こんにちは…」
「まぁまぁ、こんにちは。
  お父さんも。」
「こ、ここまで来て、ご苦労、だったな…」
「いえ、祈莱さんと一緒に来ましたから、苦労することは何も…」
「(まぁ、さり気に格好良いこと言ったわね。)
 さぁ、こんな所で突っ立ってないで、入ってらっしゃい。」
「失礼します。
  あの、つまらない物ですが、お菓子を持って来ました。」
「わざわざ有難う。」
「あれ、パパは?」
「お父さん、やらなくちゃいけない仕事があるんですって。」
「ふーん、そうなんだ。」
「(お父さんったら、恥ずかしがることないのに。
   余っ程、あの子を許してしまうのかしら。)」
「お義父さんも御一緒の方が有難いのですが…」
「そうねぇ。
  ちょっと待ってて、今から説得するから。」
「お義父さんが来なかったら、また今度来るよ。」
「パパ、来ると思うよ。」
「えっ?」
「パパね、私が男の子を連れて来たから、驚いているのよ。」
「何で?」
「私の家はね、友達を入れちゃ駄目だったの。
  親戚だけとかだったし。」
「そうなんだ。
  厳しいんだね。」
「パパ、重度の潔癖症だから。」
「そうなんだ!
  知ったからには、今度身だしなみを整えないと。」
「あっ、来たよ。」
「お待たせ。
  ほら、お父さん。」
「…話とは何だ。」
「あの、娘さんの口から聞いたと思いますが、僕達、高校生から交際していて…」
「こっ、高校生!?」
「お父さん。」
「んんっ!
  …そうだったのか。
(祈莱の奴、そこまで儂に言いたくなかったのか…。)
  …因みに、何年だ?」
「遠距離もありましたから…7年。」
「なっ、7年!?」
「まぁ!」
「僕は、娘さん…いや、祈莱さんと本気で交際しています!
  一生、彼女を守りますし、愛します!
  僕に、娘さんを下さい!」
「(こいつ…本気だ。
   目を見れば分かる。)
   儂は、お前さんを認めとる。
   最初は、弱気を感じた。
   だが、お前さんの目を見た時、強い眼差しを感じた。
   こいつなら、祈莱を幸せに出来ると思ったんだ。
 祈莱を宜しく頼むな。」
「…っ、はい!」
「パパ、有難う!」
「名前は、穢星那依だったな。」
「あっ、はい。
  珍しいですが…」
「那依君と呼ばせてもらう。」
「はいっ、お義父さん!」
こうして、僕達は結婚を認めてもらえた。
結婚式-
1年後に、結婚式を挙げた。
威厳だったお義父さんが、珍しく嬉涙をしていた。
祈莱さんの腹が少しずつ膨れてきている。
出産も間近だ。
腹に耳をすますと、元気に動いている音が聞こえる。
男の子か女の子、どっちが産まれてくるのだろう。
出産が待ち遠しい。
一緒に赤福総合病院の婦人科に行き、検査をしてもらった。
女の子が産まれてくるとのことだった。
帰ってから、彼女と名前を考えなくては。
出産当日-
急いで病院に行き、彼女の傍に居た。
陣痛が走り、苦しそうだ。
男の僕には分からないけど、出来ることは何でもしたい。
陣痛が治まり、出産の時だ。
隣で見守り、声をかけたりした。
そして…元気に産声をあげた女の子が産まれた。
「やった…やった!」
「わぁ…小さい…
  産まれてきてくれて有難う…」
「ねぇ、この子の名前、どうする?」
「そうだな…」
「希望…」
「えっ?」
「希望。
  良い名前でしょ。」
「うん、良い名前だ。」
「希望に満ち溢れで、永遠に輝く女の子でいてね。」
希望が産まれてから、買い物が多くなった。
今日は、希望の服を買いに行くことに。
「希望の服、何色が良いかしら?」
「黄色、いや、ピンクも捨て難い…」
「何着ても似合うと思うわ。」
「祈莱さんが決めてくれ。」
「うふふ、分かった。」
「いっぱい買っちゃったね。」
「あぁ、全部似合いそうだ。」
「そういえば、電車は何時に来るのかしら…」
「ちょっと待って、今調べるから…」
その時だった。
車が僕に衝突しようとして来た。
「那依さんっ、危ないっ!」
「えっ…?」
何があったのだろうか。
ここは何処だ…
「はっ!
   …ここ、病院?」
「あっ、穢星っ!」
「…先輩?」
「ほんま良かった…
  頭は異常無しだから、安心しろ。」
「…祈莱さんはっ!?」
「お前っ、急に起き上がるな!
  後から頭が痛くなるで!」
「そんな事より、祈莱さんはっ!?」
「奥さんなら心配せんでええ。
  命に別状はない。
  でも、下半身が怪我しててな…」
「行かなきゃ…!」
「おいっ、穢星っ!」
「祈莱さんはっ!?」
「えっ、穢星先生っ!?」
「那依さん…」
「祈莱さんっ!
  良かった、生きてて…」
「那依さん、聞いて。
  あの事故で、私の下半身は、もう動けないらしいの。」
「えっ…」
「下半身麻痺しないと生きていけないって。」
「そんな…」
「大丈夫よ、那依さん。
  例え歩けなくても、生きているなら怖くなんかない。
  もう、泣かないでよ。」
「うん…」
あの時、僕が早く気付いていれば…
その時から、後悔し続けた。
退院してから生活は戻ったが、勿論だけど、祈莱さんが1番大変だった。
「あっ、買い物に行かなきゃ。」
「祈莱さん、僕行くよ。」
「ううん、いっぱい買うことじゃないし、スーパーなんてすぐ近くだから、私が行くよ。」
「でもっ…」
「那依さんは、希望を見てて。」
「…分かった。」
「希望、大丈夫だよっ!
  待ってて、オムツ交換するからね!」
忙しい時に、電話が鳴った。
「もう誰だ、こんな時に!
  もしもし。…」
相手は警察からだった。
すぐに署に来てくれという内容だった。
警察署-
「あのっ、電話の穢星ですが…」
「穢星さん。
  すみませんが、確認したい事が…」 
「確認?」
 
霊安室-
「霊安室…?」
「中に入って下さい。
  この方をご存知ですか?」
「はっ…!?」
「ご存知なんですね?」
「はい…私の妻、祈莱さんです…。」
「先程、巻き込み事故があったらしく、車椅子の女性が倒れているという通報がありました。
  運転手が飲酒運転していたらしく、信号無視をして、通行人に衝突したと。」
あの時、僕が強く言っていれば…
弥栄家-
「お義父さん、お義母さん…」
「那依君…」
「さっき、警察から電話があった。」
「僕、祈莱さんの言葉を信じて、買い物に行かせてしまったんです…。
  守れなくて、御免なさい…!」
「もう、過去には戻れないんだ。
  君のせいじゃない。」
「何故お義父さんは僕に怒らないんですか!?
  僕のせいで、祈莱さんを死なせたのに…」
「君は十分、祈莱を守った。
  何時だって、祈莱を助けてくれただろう。」
「うぅ…お義父さん、お義母さん、御免なさい…!」
2人は、僕が泣き止むまで、抱き締めた。
本当は、2人の方が泣きたいのに、僕が泣いてもいいのかな…
僕が泣き止み、落ち着くまでゆっくりしていいって言われたので、2人の言葉に甘えた。
トイレに行こうとした時、2人の啜り泣く声が聴こえた。
葬式-
葬式が終わり、最期が迎えようとしている。
祈莱さんの大好きな誕生花、萩を1輪供えた。
どんな姿でも、最期まで綺麗だった。
一次会は、皆で居酒屋。
高校卒業してから、友人にも会っていなかったけど、元気そうで何よりだ。
「那依!」
「わっ!?
  って、蒼珸か…」
「何だそのガタ落ちはっ!」
いきなり後ろから抱きついてきたこの男、僕の友人の渓河蒼珸。
「元気にしてたかぁ〜?」
「うんうん、してたしてた。」
「おい、棒読みだぞ。」
「…そんな事より、蒼珸も相変わらず元気だな。」
「おう。
  つか、お前の彼女、居なかったぞ?」
「えっ、祈莱さんが居ない!?」
「前々から思ったけど、お前…さん付けはダサいって。」
「そ、そうなのか?」
「うん。
  まぁ、お前達の事だから進展してないだろうなぁと思ったよ。」
「ちょっと、流石に傷ついたよ。」
「そんな君に、取って置きを伝授しよう!」
「いや、遠慮しておくよ。」
「何で!?」
「ろくな事がなかっただろ。」
「そんな事ないない!
  俺を信じろって!」
「嫌だよっ!
  お前、散々僕達のことからかってたし、信用出来ない!」
「それ酷くね!?」
一次会が開催されてから、1時間弱が経った。
遂に、彼女がやって来た。
「遅れてごめんなさいっ!」
「あっ、噂をすれば…」
「ちょっ、蒼珸っ!
  何処に行くんだ!?」
蒼珸はその場で立ち上がり、彼女の元へ行った。
「弥栄さん。」
「あっ、渓河君。
  久し振りね。」
「本当、久し振りだよね。
  そんな事より、彼氏の所に行かないの?」
「那依さんは何処に?」
「奥の座席だよ。」
「那依さん!」
「いっ、祈莱さん!」
「久し振り!」
「本当に久し振りだね!
  そ、そうだ!
  祈莱さん、何飲む?」
「私は、ジンジャーエールにしようかな。」
「わ、分かった!
  じゃあ、食べ物も頼むね!」
「有難う。」
「お待たせっ!」
「わざわざ持って来なくてもいいのに。」
「どうせ、自分のも取りに行く次いでだったから。」
「…それより那依さん。」
「な、何…?」
「…緊張、してる?」
「えっ!?
  そ、そんな事ないよ!?」
「そっか…。」
「祈莱さん?」
「ううん、何でもない。」
一次会が終わり、結局話す事もなく、二次会へ。
と思い気や、彼女が僕のワイシャツの裾を引っ張ってきた。
「那依さん、私と別のお店に行こうよ。」
「あっ…うん。」
KINGDOM-
「ここ、私の行きつけなの。」
「へぇ、喫茶店なんだ。」
「そうなの。
  変わってるお店でね、夜限定なの。」
「夜だけ!?」
「そうなの!
  店主が夜の方が働きやすいって言っててね。」
「何で?」
「朝と昼は眠いから、夜しか働けないって。」
「あはは、面白い店だね。」
それから僕達は、今宵を過ごした。
「朝まで過ごしちゃったね。」
「あぁ、いつの間にかだったね。」
「そういえば、今日の朝から雨が降るってテレビで言ってたよ。」
「そうなんだ。
  傘、持ってきてない…」
「今日、仕事あるの?」
「今日はオフだ。
  何かあったのか?」
「私の家に、来ない?
  両親に那依さんを紹介したいの。」
「うん、行こう。」
弥栄家-
「ここが私の家。」
「結構敷地が広いね。」
「まぁ、聞いた話によると、お金持ちらしくって。」
「…成程。」
「さぁ、入ろ。」
「…緊張するね。」
「肩の力を抜いて。
  大丈夫だから。」
「う、うん…。」
「パパ、ママ、ただいま。」
「「祈莱!?」」
「お帰りなさい…どうしたの?」
「突然ごめんなさい。
  どうしても紹介したい人がいて。」
「もしかして…交際相手!?」
「お父さん、敏感になり過ぎよ。」
「だって、祈莱に限ってそんな…!?」
「パパの当たり。」
「…!?」
「お、お父さん…」
「とにかく、自己紹介させて。
  入って来て。」
「こんにちは…」
「まぁまぁ、こんにちは。
  お父さんも。」
「こ、ここまで来て、ご苦労、だったな…」
「いえ、祈莱さんと一緒に来ましたから、苦労することは何も…」
「(まぁ、さり気に格好良いこと言ったわね。)
 さぁ、こんな所で突っ立ってないで、入ってらっしゃい。」
「失礼します。
  あの、つまらない物ですが、お菓子を持って来ました。」
「わざわざ有難う。」
「あれ、パパは?」
「お父さん、やらなくちゃいけない仕事があるんですって。」
「ふーん、そうなんだ。」
「(お父さんったら、恥ずかしがることないのに。
   余っ程、あの子を許してしまうのかしら。)」
「お義父さんも御一緒の方が有難いのですが…」
「そうねぇ。
  ちょっと待ってて、今から説得するから。」
「お義父さんが来なかったら、また今度来るよ。」
「パパ、来ると思うよ。」
「えっ?」
「パパね、私が男の子を連れて来たから、驚いているのよ。」
「何で?」
「私の家はね、友達を入れちゃ駄目だったの。
  親戚だけとかだったし。」
「そうなんだ。
  厳しいんだね。」
「パパ、重度の潔癖症だから。」
「そうなんだ!
  知ったからには、今度身だしなみを整えないと。」
「あっ、来たよ。」
「お待たせ。
  ほら、お父さん。」
「…話とは何だ。」
「あの、娘さんの口から聞いたと思いますが、僕達、高校生から交際していて…」
「こっ、高校生!?」
「お父さん。」
「んんっ!
  …そうだったのか。
(祈莱の奴、そこまで儂に言いたくなかったのか…。)
  …因みに、何年だ?」
「遠距離もありましたから…7年。」
「なっ、7年!?」
「まぁ!」
「僕は、娘さん…いや、祈莱さんと本気で交際しています!
  一生、彼女を守りますし、愛します!
  僕に、娘さんを下さい!」
「(こいつ…本気だ。
   目を見れば分かる。)
   儂は、お前さんを認めとる。
   最初は、弱気を感じた。
   だが、お前さんの目を見た時、強い眼差しを感じた。
   こいつなら、祈莱を幸せに出来ると思ったんだ。
 祈莱を宜しく頼むな。」
「…っ、はい!」
「パパ、有難う!」
「名前は、穢星那依だったな。」
「あっ、はい。
  珍しいですが…」
「那依君と呼ばせてもらう。」
「はいっ、お義父さん!」
こうして、僕達は結婚を認めてもらえた。
結婚式-
1年後に、結婚式を挙げた。
威厳だったお義父さんが、珍しく嬉涙をしていた。
祈莱さんの腹が少しずつ膨れてきている。
出産も間近だ。
腹に耳をすますと、元気に動いている音が聞こえる。
男の子か女の子、どっちが産まれてくるのだろう。
出産が待ち遠しい。
一緒に赤福総合病院の婦人科に行き、検査をしてもらった。
女の子が産まれてくるとのことだった。
帰ってから、彼女と名前を考えなくては。
出産当日-
急いで病院に行き、彼女の傍に居た。
陣痛が走り、苦しそうだ。
男の僕には分からないけど、出来ることは何でもしたい。
陣痛が治まり、出産の時だ。
隣で見守り、声をかけたりした。
そして…元気に産声をあげた女の子が産まれた。
「やった…やった!」
「わぁ…小さい…
  産まれてきてくれて有難う…」
「ねぇ、この子の名前、どうする?」
「そうだな…」
「希望…」
「えっ?」
「希望。
  良い名前でしょ。」
「うん、良い名前だ。」
「希望に満ち溢れで、永遠に輝く女の子でいてね。」
希望が産まれてから、買い物が多くなった。
今日は、希望の服を買いに行くことに。
「希望の服、何色が良いかしら?」
「黄色、いや、ピンクも捨て難い…」
「何着ても似合うと思うわ。」
「祈莱さんが決めてくれ。」
「うふふ、分かった。」
「いっぱい買っちゃったね。」
「あぁ、全部似合いそうだ。」
「そういえば、電車は何時に来るのかしら…」
「ちょっと待って、今調べるから…」
その時だった。
車が僕に衝突しようとして来た。
「那依さんっ、危ないっ!」
「えっ…?」
何があったのだろうか。
ここは何処だ…
「はっ!
   …ここ、病院?」
「あっ、穢星っ!」
「…先輩?」
「ほんま良かった…
  頭は異常無しだから、安心しろ。」
「…祈莱さんはっ!?」
「お前っ、急に起き上がるな!
  後から頭が痛くなるで!」
「そんな事より、祈莱さんはっ!?」
「奥さんなら心配せんでええ。
  命に別状はない。
  でも、下半身が怪我しててな…」
「行かなきゃ…!」
「おいっ、穢星っ!」
「祈莱さんはっ!?」
「えっ、穢星先生っ!?」
「那依さん…」
「祈莱さんっ!
  良かった、生きてて…」
「那依さん、聞いて。
  あの事故で、私の下半身は、もう動けないらしいの。」
「えっ…」
「下半身麻痺しないと生きていけないって。」
「そんな…」
「大丈夫よ、那依さん。
  例え歩けなくても、生きているなら怖くなんかない。
  もう、泣かないでよ。」
「うん…」
あの時、僕が早く気付いていれば…
その時から、後悔し続けた。
退院してから生活は戻ったが、勿論だけど、祈莱さんが1番大変だった。
「あっ、買い物に行かなきゃ。」
「祈莱さん、僕行くよ。」
「ううん、いっぱい買うことじゃないし、スーパーなんてすぐ近くだから、私が行くよ。」
「でもっ…」
「那依さんは、希望を見てて。」
「…分かった。」
「希望、大丈夫だよっ!
  待ってて、オムツ交換するからね!」
忙しい時に、電話が鳴った。
「もう誰だ、こんな時に!
  もしもし。…」
相手は警察からだった。
すぐに署に来てくれという内容だった。
警察署-
「あのっ、電話の穢星ですが…」
「穢星さん。
  すみませんが、確認したい事が…」 
「確認?」
 
霊安室-
「霊安室…?」
「中に入って下さい。
  この方をご存知ですか?」
「はっ…!?」
「ご存知なんですね?」
「はい…私の妻、祈莱さんです…。」
「先程、巻き込み事故があったらしく、車椅子の女性が倒れているという通報がありました。
  運転手が飲酒運転していたらしく、信号無視をして、通行人に衝突したと。」
あの時、僕が強く言っていれば…
弥栄家-
「お義父さん、お義母さん…」
「那依君…」
「さっき、警察から電話があった。」
「僕、祈莱さんの言葉を信じて、買い物に行かせてしまったんです…。
  守れなくて、御免なさい…!」
「もう、過去には戻れないんだ。
  君のせいじゃない。」
「何故お義父さんは僕に怒らないんですか!?
  僕のせいで、祈莱さんを死なせたのに…」
「君は十分、祈莱を守った。
  何時だって、祈莱を助けてくれただろう。」
「うぅ…お義父さん、お義母さん、御免なさい…!」
2人は、僕が泣き止むまで、抱き締めた。
本当は、2人の方が泣きたいのに、僕が泣いてもいいのかな…
僕が泣き止み、落ち着くまでゆっくりしていいって言われたので、2人の言葉に甘えた。
トイレに行こうとした時、2人の啜り泣く声が聴こえた。
葬式-
葬式が終わり、最期が迎えようとしている。
祈莱さんの大好きな誕生花、萩を1輪供えた。
どんな姿でも、最期まで綺麗だった。
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